【新社長インタビュー】スノーピーク・水口貴文社長「キャンプブーム終焉という小さな文脈ではなく、自然との繋がりという分野はこれから必ず伸びる」

スノーピーク代表取締役社長執行役員COO兼CBO・水口貴文氏
10月1日、株式会社スノーピークの社長(代表取締役社長執行役員COO兼CBO)に、スターバックスコーヒージャパン元CEOの水口貴文氏が就任した。9月30日に東京都内で開催された報道向けの発表会では、山井太氏(代表取締役会長執行役員CEO兼CCO)とともに登壇し、二人による「バディ経営」を宣言。今後の事業について語った。
そして10月4日、にいがた経済新聞は、年2回開催されるスノーピークの感謝祭「雪峰祭」の本社(新潟県三条市)会場にて、水口新社長にインタビューする機会を得た。

10月4日と5日、スノーピークの感謝祭「雪峰祭」が開催された。写真は新潟県三条市のHEADQUARTERSキャンプフィールドでの様子(10月4日撮影)
──改めて、社長就任の経緯について教えてください。
2017年頃、ここ(本社併設のHEADQUARTERSキャンプフィールド)でキャンプをしていた際、ちょうど山井会長に出会ったのが始まりでした。ご挨拶だけのつもりでしたが意気投合して、経営やブランド、会社の存在意義、当時のスノーピークの目標などについて話したことを覚えています。
その頃から山井会長より、半分冗談ではありましたが「いつか社長をやってみないか?」とお話はありました。でも、私は当時スターバックスコーヒージャパンの社長に就任して間もない頃だったので断っていました。社外取締役のお話をいただき、「その形であれば」と承諾したのはその数年後です。
──なぜこのタイミングで社長に就任されたのでしょうか?
スターバックスの社長に就任して11年が経ち、会社に次の体制がきちんと出来ていたということがありました。
また、私自身20代前半から「日本のブランドや価値観を世界に発信する仕事がやりたい」とずっと考えていました。もう58歳になってしまい、「そろそろ動き出さなければいけないな」と思っていたなかで、山井会長からお誘いがあったのが大きいですね。
やはり、「会社が何のために事業をやってるか」というのが明確なところで働きたいと常に思っています。なのでスノーピークの「人間性の回復」というミッションの存在は(社長就任の理由として)とても大きいです。また、社外取締役就任以降、社員と交流していると「みんな本当にキャンプが好きなんだな」「人と話すのが好きなんだな」と感じます。このメンバーとともにスノーピークのミッションを世界中に届けるというのは、すごく面白いことだと純粋に思いました。

「雪峰祭」恒例の「福まき」で子どもたちへお菓子を投げて配る山井会長と水口社長(10月4日撮影)

「雪峰祭」恒例の「福まき」で子どもたちへお菓子を投げて配る山井会長と水口社長(10月4日撮影)
──会見では、「バディ経営」というキーワードが出ました。こちらについて教えてください。
私は「ゼロ」から「1」を生み出せるタイプの人間ではないのですが、「1」を大きくすることは得意です。スターバックスでも、入社当時は全国で1200店舗ほどでしたが、今は約2000店舗にまで増やしました。それは、とても強いブランドが軸としてある会社だからできたことです。私はそうしたブランドをきっちりと維持しながら、時代に合わせてやり方を変化させていくことができます。
山井会長がこれからもたくさんの「1」を作り出して、私がそれを一つひとつ仕組み化し、組織化して、ブランドとしての強みに変えていくところをやっていきます。ブランドの意味や存在意義を2人で深く考えつつも、山井会長の尖った部分を、私が広げていくような形です。
(それぞれの)役割がきっちりと決まっているわけではなく、また上下があるということでもないので「バディ経営」ということになり、それぞれに「水口社長:COO兼CBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)」「山井会長:CEO兼CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)」と肩書をつけました。
──山井会長とはどういったお話をされるのですか?
最近はよく、日本の自然観についての話題で盛り上がります。西洋的な自然観は人と自然を分けるような、ある意味で自然をコントロールするような感覚があります。一方で、日本は自然の中に人がいるイメージ。そこに何か謙虚さや、信仰のようなものがあります。そうした自然観・価値観をキャンプとして、世界へ発信することは意味があることだと思います。
(インターネットやITの進化で)常に情報が入ってきて何かに追われ、ずっと頭が回っている気がします。そうした時、人としてのバランスを取るために自然に対する欲求は大きくなると信じています。
よくキャンプブームの終焉という言葉を聞きます。しかし、そうした小さい文脈ではなく、自然との繋がりという分野は必ず伸びると考えています。スノーピークのやっていることを突き詰めると「人間性の回復」や「自然との触れ合い」が目的になります。もちろんキャンプを中心に据えつつも、日本の自然観を様々な形で世界へ広めていくことは、今の世の中に求められていることだと思っています。

「雪峰祭」の三条市の会場には、2日間で約3500人が訪れた。日帰りや宿泊などを問わず多くの人が自然の中で楽しむ様子を、水口氏は「まさに好例になっている」と話した
──具体的にどういった展開を考えていますか?
自然の中で人間性を回復してもらうのであれば、もっと間口は広くてもいいと思っています。虫が苦手だったり、トイレやシャワーなどの設備に抵抗があっても、本当は焚き火をしながらコーヒーを飲み、自然を楽しみたいと思っている人は多い。しかし現在は、(そうした需要に対応できるのは)高級なグランピングなどしか選択肢がありません。
現在「キャンプグラウンズ」という構想があります。日帰りも宿泊も楽しめて、テント以外の泊まり方もできるような新業態のキャンプフィールドで、横展開もできると思っています。
また、キャンプのために自然豊かな場所へ行くので、そこへもう一つアクティビティがあってもいいと思います。「キャンププラス」と呼んでいますが、こうした自然の体験を提供していきたいと考えています。(スノーピークによると、2026年には、北海道の石狩川の支流である空知川の最上流部で、ラフティングをしながらフライフィッシングやアウトドアサウナを楽しめるサービスを開始する予定だという)
来年には、エアフレームシェルターを発売します。テントを建てる作業は、キャンプを始めたい人にとっての大きなバリアになっていると思いますが、それを除くことのできる商品が来年完成します。アパレルにも力を入れます。アパレルもエントリーの軸になるので、もっとギアとリンクした商品や、日常的に使える商品を展開していきたいと考えています。
──最後に、新潟あるいは燕三条についての印象をお伺いします。
職人の街というイメージが印象がすごく強いですね。そして、それはスノーピークの原点であり、燕三条のものづくりをこれからも会社の中心に置きたいという強い思いがあります。地元の人々、特に職人やお年寄り、子どもたちとつながることができたらと考えています。
もう一つ個人的には、先ほど述べた自然観を、東京ではなく自然豊かなこの新潟から世界へ発信していくことはとてもリアルで、意味があることだと思っています。
【関連リンク】
スノーピーク 「“バディ経営”で次なる飛躍へ。代表取締役会長に山井太、代表取締役社長に水口貴文が就任いたします。」
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