社会的意義と利益の両方を──地元企業が挑む「蓄電池」新事業 テクノナガイソラーレ、新潟県内初の分譲型の募集を開始

テクノナガイソラーレの長井裕三代表取締役

太陽光発電事業などの株式会社テクノナガイソラーレ(新潟市東区)がこのほど、系統用蓄電池ビジネスを開始し、新潟県胎内市で来秋稼働予定の蓄電所のオーナーの募集を始めた。募集区画数は36ユニット、設備価格は税や諸経費込みで2,500万円ほどで、実質利回りは年利約10.85%を見込む。

外部リンク:系統用蓄電池(分譲型)

再生エネルギーの拡大とともに、世界的に設置が広がっている系統用蓄電池。テクノナガイソラーレの長井裕三代表取締役は今回の取り組みについて「日本の電力の安定供給に寄与するという社会的意義を果たせるとともに、しっかりと収益を出すことができる点がポイントになっている」と話す。

 

先駆的な「分譲型」蓄電所

テクノナガイソラーレ

テクノナガイソラーレは1947年創業の設備工事会社・株式会社テクノナガイ(新潟市北区)のグループ会社。同社は元々太陽光発電パネルの設置など再エネ関連の事業にも力を入れていたが、2023年1月に分社化。ソラーレは太陽光発電事業や省エネ事業などエネルギー関連に特化した形となっている。

そんな同社ではこのほど、全国の中小事業者と協力して系統用蓄電池ビジネスへ参入。今回、第4期目の蓄電所の設置が新潟県胎内市に決まり、同社が設計から施工、販売を請け負う「EPC事業者」となった。また、施設の管理や電力市場での取引を行う運用者(アグリゲーター)とのやり取りも同社が担う。地元・新潟県下越地域の事業者だからこその信頼性が県外・海外企業や新興企業にはない同社の強みだ。

また、分譲型である点も大きな特徴となっている。そもそも、国内で稼働している蓄電所はヨーロッパやアメリカ、中国などと比べて少ない。新潟県内にも計画段階のものはあるものの、分譲型として募集するのは県内初となる。長井代表は「普通、蓄電所を1基つくるのには数億円かかり、それができるのは大手の電力会社などに限られる。参加できるプレイヤーが減り、なかなか国内での蓄電池の導入も進まない」と話す。ビジネスであると同時に、多くの企業や個人投資家の力も借りて蓄電所の普及も促したい考えだ。

写真は他県で稼働している蓄電所。新潟市胎内市でこれから建設する蓄電所は、現在36ユニット中半数ほどは予約済み。個人投資家のほか、脱炭素に取り組む企業からの申し込みが多い印象だという。「太陽光発電は収益性も社会貢献としての意味もあったが、それに次ぐものとして蓄電池が注目されている」(長井社長)

 

なぜ、蓄電池が必要なのか? 「再エネと蓄電池はセット」

そもそも、何故今、蓄電池が注目されているのか。

基本的に電気は需要と供給量を一致させる必要がある。年間で見れば空調の利用が増える夏冬、一日の中では工場が稼働する時間帯や照明を使う晩の時間帯などは需要が高く、火力発電や水力発電ではこれに合わせて発電量を増減させる「調整力」がある。

一方で、太陽光発電や風力発電は発電量が天候に左右されるため、調整力以前に発電量自体が不安定だ。しかし、2022年時点で水力も含めた再エネの電力比率は約22%にまで上がっており、今後さらに拡大していくのが国の方針。これまで火力、水力発電の調整力でバランスをとってきたが、それでは賄えないまでになってきている。

そこで登場するのが蓄電池である。深夜や工場が停止する昼の時間帯など余剰時に電気を貯め、その調整力を電力市場の「需給調整市場」で取引して利益を出す仕組みだ。(正確には、実際に発電された電力を扱う「卸電力市場」と、将来の発電能力を扱う「容量市場」でも取引は行うが、最も高い利益を期待できるのが「需給調整市場」だという。)

 

蓄電池が普及する未来への足がかりに

今回の蓄電所は全国の電力市場を対象にしたものだが、蓄電所の普及とともに将来的には「電力の地産地消」も増えていくと長井社長は話す。「現在は大型発電所から電力が送られてくるが、今後蓄電所が増えて、自治体やもっと小さい単位で電源が分散されていく時代が来ると考えている。地域ごとにエネルギーを安定供給できれば、災害時のリスク低減やBCPの対策にもなる。今回はその先駆けとしても意義があると思っている」(長井社長)

暖房から自動車まで、生活に欠かせない様々なものが電化されている現在。さらに、生成AIの登場と普及でさらに電力需要は高まっている。長井代表は「人口が減っていく中でも、電力の需要は減らない。むしろ増えていくと予想されている」と解説する。しかし、前述した通り、旧来の火力発電ではなく再生エネルギーの比率を増やしていくことが国策であり、世界の潮流でもある。

「必要な時に電力を供給するために蓄電池は欠かせない存在で、日本の電力の安定供給に寄与できることにもなる。しかし、社会的意義だけのために、企業がこれほどの大金を使うことはなかなかできない。そうした中、蓄電池は社会的意義を果たしながら収益もしっかり出せるところがポイントになっている」(長井代表)。

再生エネの拡大が進む中、安定供給を支える蓄電池の役割は今後ますます高まる見通しで、地域の電力インフラを支えるだけでなく、新たな投資機会としても注目を集めている。地域発の取り組みが、再エネ時代の流れを後押ししそうだ。

 

【関連リンク】
系統用蓄電池(分譲型)

テクノナガイソラーレ webサイト

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