【異形のコメリ戦略#1】来春稼働の関西流通センターが西日本攻略の橋頭保に全国3,000店舗を視野
株式会社コメリ(新潟市南区)は和歌山県橋本市に関西流通センター(仮称)を2024年6月から着工しており、来春の開業に向けて準備を進めている。設備投資額約120億円にのぼり、過去最大の投資規模となる。新しくできる流通センターは、現在同市で既設倉庫を借りる形で稼働中の関西流通センターを拡張移転するもの。新センター開設により、福井と三重の流通センターが管轄する店舗の平準化が図られ、よりローコストな配送が実現される。
敷地面積は87,383㎡(延床面積78,884㎡)、開業すればコメリが全国に展開する12の物流拠点の中で施設、取扱量ともに最大規模となる。国内ホームセンター業界においても最大級。「ホームセンター」は米国で生まれたビジネスモデルだが、日本で業界を牽引する多くの業態は本場とは異なる。そのため「業界最大級」という表現は一概には言い難い。それでも、現在1,200店舗以上を展開する同グループの中で最大の物流拠点であることを考えれば、業界最大と言って差し支えない。
コメリは「国内3,000店舗」を目標に掲げている。そのうえでこの新しい関西物流センターが稼働し始めることは極めて大きな意味がある。それはコメリの「物流」に対する考え方にある。サプライチェーンあっての小売。同社の早川博取締役常務執行役員はこう言う「製造、配送、販売、そのどこにもボトルネックを作らないようにする。何を売るのか、お客様に届けるにはどうしたらよいか、どのように売るのか、それを全てうまく回さなければお客様との約束を果たせませんから」
早川常務の言葉が示唆する通り、コメリにおいて出店計画と物流網の開発は常に並行して実行される。コメリには既に大まかな「3,000店マップ」が存在し、それに伴い23カ所の物流拠点計画がある。つまりあと11カ所の物流拠点は青写真の段階で既にある。
面白いのは物流拠点建設のタイミング。コメリは一つの流通センターのキャパシティが飽和に近づいてから分裂する形で新たな拠点の開設を行う。
直近では、昨年倉庫を借りる形で開設したの「静岡流通センター」が、まさに細胞分裂した例だ。それまで伊豆半島にある店舗には群馬県高崎の流通センターから配送しており、三重の流通センターからも静岡をカバーしていたため、東海地方への進出は一気に拡大できなかった。静岡県菊川市に流通センターを設置したことで東海地方への店舗計画がすすみ、それまで担っていた高崎流通センターにも余裕ができて、茨城流通センターとともに埼玉、群馬の守りが充実するようになった。
当然だが、流通センターは売り上げを生まない。コメリが展開するものが精密なシステム産業だとすれば、流通センターを建てても店舗開発が間に合わずに倉庫がガラガラのまま、という状況が一番よくない。早く建て過ぎても採算に追いつくまでに時間がかかる。一方で「戦線拡大したが、兵站が整わない」状況も絶対に避けなければならない。
その上で、今回の関西流通センター建設は現在の関西の店舗数から逆算すると、現段階では幾分オーバーキャパなのではないか、と素人見には懸念される。しかしそこにこそ、コメリの「西日本本格攻略」への並々ならぬ意欲が垣間見える。新たに最大級の物流拠点を和歌山に置くことで、西日本攻略への橋頭保としたい考えだ。流通センター設立の計画段階で既に、5~6の新店舗計画が同時進行している。兵站が整えば、関西、西日本への出店ペースは加速度的に上がっていく。
コメリブランドの根幹を成し、全国に1,000店舗以上と圧倒的な数を誇るのは「ハード&グリーン」という300坪を標準とする店舗。小売りの場合、人口の多い場所(購買力の高い場所)に出店するのが基本とも言えるが、コメリの「ハード&グリーン」はそれとは異なる。大都市圏ではなく農業生産地に近い郊外に出店する。地代も安く、他社とバッティングしない。店を切り盛りするのはたった2名の社員と数名の従業員。それで回るようにシステムが構築されている。この形態だからこそフレキシブルでスピーディーな出店計画を可能とする。
農家のお父さんが軽トラを横付けし、長靴のまま資材を買いに来て、買ったらすぐ帰る。目当ての商品が売り場になければ、基本的に2日後には取り寄せてもらえる。顧客との、そんな「約束」を重視してこそ、コメリの物流計画はますます緻密さを増していく。
(編集部・伊藤 直樹)
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