【新潟の未来牽引企業】ベンチャー発のWELCON(新潟市秋葉区)、国内随一の接合技術が先端分野を席巻する
国内最高レベルの接合技術
「Thermal One-stop WELCON」
これは株式会社WELCON(新潟市秋葉区)のホームページにある「ヘッドライン」だ。
「マイクロチャンネル設計開発」と、これを実現する「拡散接合技術」を両輪的コア技術に据え、
従来技術とは異なった切り口で、製品やシステムに新機能を付加し、価値を創造することに挑戦し続けています。特に「熱」に関する課題の解決はお任せください。標準品ラインナップの提供および、試作・開発、評価から将来の量産に至るまで、全てワンストップでお客様が抱える課題に応えます。
(WELCONホームページより)
読者にはかみ砕いた説明が難しいのだが、WELCONの現状は一般に言われる「メーカー」ではなく、「加工業」でもない。現段階では、国内随一の技術を用いての「ソリューション事業」、というのが最も適しているのではないか。
WELCONが誇る「拡散接合技術」。わかりやすいところから説明したい。
金属と金属を接合する場合、もっともおなじみの技術は素材を溶かして接合する「溶接」だろう。同社が持つ「拡散接合技術」は、溶接やろう付とは考え方が大きく異なる。真空の環境下において、金属と金属、その接合部に圧力と熱を加えることで、接合界面の原子に働きかけて、原子の移動を促し、まるでもともと一体型だったかのようなレベルで接合される。仕上がりは接合面が一切判別できないほど。材料を溶かさずに、固体のまま接合するのだ。
イメージとしてわかりやすいのは固形石鹸。二つの石鹸をくっつけて置いておくと、互いに同化しあって一体になる。正月の鏡餅なども同じような現象が起きる。あのイメージで、金属と金属が原子の移動を伴って同化し、結果として接合される。

拡散接合で制作した3D構造サンプル。縦横高さ方向に、微細な入り組んだ流路構造を作ることが可能に
これは金属の接合において最高レベルの耐圧性や耐熱性を有し、実現可能な製法、機能の幅を広げる。異なった形状に加工した板を積層して接合することにより、内部に複雑な構造を作り出すことや異種材料の接合も可能にする。そうした点で、この技術は非常に汎用性が高い。
この高度な接合技術はどういう場面で求められるのかというと代表的な例は「熱交換」だ。冷却機(自動車のラジエーターなど)、食品関連機器、燃料電池、化学プラント、データサーバー、水素ステーションなどから、果ては航空機産業や宇宙開発まで。きわめて高度な温度管理が求められる半導体製造現場では、このレベルの接合技術を施した熱マネジメントが求められる。このような先端分野でこそ、同社の拡散接合技術は活きる。
拡散接合技術自体は、国内でもそれを有する会社がないわけではない。ただクオリティの差が圧倒的で、競合とまでは至らないという。そして社会が高度化すればするほど、同社が持つ技術は引く手あまたになる。製品の高性能化、小型化、省エネ、多機能、高耐圧、それらが求められることで、同社の拡散接合による微細三次元構造の活躍領域は広がっていく。
特にエネルギー分野。水素ステーション用の小型熱交換器においては国内シェア30%。これは神戸製鋼に次いで第2位にあたる。
大手の信頼を勝ち取る
「『これを作ったから買ってください』という生産はしていません。『これを作るにあたって困っていることがある』として相談が持ちかけられることが全てです。国内大手が自らの製品を生産する場合『こういう良さが必要だから、こういう技術を持っている会社を探す』という発想なので、別の技術が必要であれば他社を使うのだと思います」(鈴木裕代表取締役)

3つ合わせて手のひらに載るくらいのキューブ形状に250~800㎛のたくさんの穴が貫通している。一般的な機械加工では製作が難しい形状だ
主要取引先は、半導体分野、エネルギー分野、自動車分野、食品分野、医療・計測機器分野等。各分野の大手から絶大な信頼を勝ち取っている理由がある。それは同社が「加工屋」でないという所以、研究、解析、評価への圧倒的なウェイトの置き方にある。それはこれまでの、人材も含めた投資の傾け方にも表れている。測定評価装置も、基盤となる接合機も自社内で設計製造を行う。卓越した測定評価能力から導き出されたデータの豊富さと精度こそが、大手のゆるぎない信頼を勝ち取っている。
特に熱マネジメントの分野においては、顧客が抱える課題に対して、企画手法検討から、設計開発、製造、評価、量産まで、高いレベルでワンストップ対応できる強みがある。
「お客様から渡されるのは(目的物の)仕様書だけ、という時もあります。そういう場合でもこちらで(製品の)シミュレーションから設計し、他の事業でも横展開できるような汎用性を備えてお渡しします。『お客様が何を求めてこれを作りたいか』『最終的にどこまで性能が出せるのか』を把握し『トータルでこういうものができます』まで提案します」(鈴木社長)
ただ単に「加工業」ではない、というのは精度の高い実績を積み重ねてきたからに他ならない。高付加価値の領域のみで顧客の悩みや希望を解決する、量産をしようと思えば量産にも対応できる。「強いものづくり」をここに見た。
100億企業へ、社会が後押しするベンチャー
今や秋葉区の広大な敷地にWELCONは鈴木裕代表取締役が起こしたベンチャー企業が発祥。
東京都出身の鈴木社長はもともと、ボランティア活動が目的で新潟の地に降り立った。収入がないのでハローワークで求職。工学の知識があった鈴木社長は、機械設計のアルバイト社員として加茂市のブラウン管メーカーに招かれたという。
しかしご存じの通り、その後テレビはブラウン管から液晶パネルへと転換を余儀なくされる。これを境に同社のブラウン管製造ラインも縮小された。
「一緒に働いた人たちの仕事がなくなってしまうのは忍びない」という想いから、鈴木社長は7名の社員とスピンオフして現在の会社の前身を立ち上げた。以来、主に大手からの請負で業容を拡大し2006年7月に株式会社WELCONを設立した。WELCONは「WEL=良い」+「CONNECT(接合する)」の造語。他者との結びつきを大切にしたいとの思いからだという。

新潟市秋葉区の本社工場
業態が業態だけに「日銭」が稼げるものではない。その一方で、前述のように研究開発、そのための設備投資も相応に必要となるため、資金調達が経営の命運を握る。大手との共同研究も多く、その場合はパートナーからの出資もある。「助成金にも助けられました」と鈴木社長は話す。特に大きかったのは経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)だという。
「当初はベンチャー企業なので資金が全くないところから始まっています。申請する額も億を超えるので、役所側もかなり身構えて審査する。専門的な領域でのアピールになるのでなかなか先方と話がかみ合わず、苦難の道のりでした。そんな時に力になっていただいたのが、同行していただいたNICO(社団法人にいがた産業創造機構)の担当者の方です。間に入っていただき、丁寧に粘り強く説明していただきました。本当に感謝しています」と鈴木社長は振り返る。
創業10年を迎えた2015年に10年スパンの中期経営計画を策定した。「10年間は会社をつぶさないために頑張るステージと位置づけ、ここから先はビジョナリー企業になりましょう、ということで」(鈴木社長)
そこで定めた「M3思想(ミニマムサイズ、ミニマムエネルギー、ミニチュアリゼーション)を反映する熱対策製品を世界に提供し、ブランドを確立する」という事業方針の中心には到達したと言える。次の10年で、WELCONはどこを目指すのか、鈴木社長に聞いた。
「やはりメーカーとして確立させたいですね。売り上げ100億円、従業員300人を目指したい。売り上げ100億円あれば、研究費に5%の5億円を回せる。それだけ使えれば社会に貢献できる開発ができる」
WELCONが向き合っているのは一般消費者目線のマーケティングではない。高度化する社会に求められる課題解決に対し、同社にしかない技術を用いて応えている。社会が高度化すればするほど、熱マネジメントや冷却、省エネの分野はさらに求められることは間違いない。

