【新社長インタビュー】再生砂から高級バナナまで、数珠つなぎになる「最強の循環経営」 シモダ産業(柏崎市)/ 霜田真紀子さん

 

2025年8月に就任したばかりのシモダ産業代表取締役社長・霜田真紀子氏

凄いことをやっている会社だ。

1962年に創業したシモダ産業株式会社(柏崎市)は日本の自動車産業のサイクルの中で、強固な存在感を持つメーカー。それも非常に完成度の高い循環システムが、そこに横たわっている。

自動車などの内燃機パーツは多くの場合、鋳物でできている。では鋳物を作る鋳型は何でできているか。これは製造法が複数あるのだが、代表的な例が砂による砂型鋳造法である。砂型鋳造法は、木型(原型)を使って鋳物砂(砂と結合剤)で「砂型」を作り、その中に溶けた金属を流し込んで冷やし固め、最後に砂型を壊して鋳物を取り出す。伝統的な技術だが、低コスト・短納期で試作品や複雑な形状、大物に対応でき、現在も自動車産業などでは主流となっている。この砂型鋳造に使う砂を、シモダ産業では提供している。

再生砂を固めて造る鋳型

「鋳物砂」は鋳造された後で用済みになるわけだが、同社はオーバーフローした砂型や廃砂を回収し、熱を加えて「再生砂」に変えて再利用。砂型にまで加工し、再びメーカーへ出荷するという一連の流れを作っている。

「鋳物用の砂型に再生砂が使われるのは、決してコスト面のみが理由ではありません。新しい山砂より熱を通した再生砂の方が鋳型にした際に膨張しにくいという特性があり、鋳物にしたときにより高い精度に対応できるのです」(シモダ産業・霜田真紀子代表取締役社長)

オーバーフローした鋳物砂を回収、再生して再びものづくりの現場へ供給する

オーバーフローした鋳物砂を回収、再生して再びものづくりの現場へ供給する

「砂を作る」→「再生砂から鋳型を製造する」→「砂型を回収する」→「再生する」という、この一連の循環を一気通貫で手掛けているのは、日本でも5社程度しか存在しないという。

この循環サイクルは、まだここで終わらない。鋳型製造の際に排出する微粉が産業廃棄物になるため、同社では1992年に自社で最終処分場(管理型)を建設し、同時に産業廃棄物処理の免許を取得していたことに端を発し、環境事業に着手。2003年には産業廃棄物中間処理(溶融炉)施設を建設して、微粉を溶融スラグとして再利用する仕組みを目指した。

5年後の2008年に柏崎市を直撃した中越沖地震が発生。シモダ産業は土地と建屋以外の設備が全壊し、溶融施設も使うことができなくなった。そのためいったんは環境事業を断念したが、2017年に中間処理施設(焼却炉・クリーンセンター)を再び設置。同年に営業運転を開始している。

2017年に再稼働したクリーンセンターでは、深刻な社会課題にもなっている医療廃棄物の受け入れも行っている

環境部では現在、引き受け手の少ない医療廃棄物の処理も請け負い、深刻な社会課題の解決にも大きく貢献。県外からも多くの請負があり、会社の売り上げ構成比は従来の鋳材関連事業8割に対してクリーンセンターが2割と柱の1本にまで伸ばしている。

焼却炉のサーマルリサイクルでバナナ栽培

この会社には「循環・再利用」に対する高い意識が脈々と育まれていた。

クリーンセンターが営業稼働する時点で、既にこの施設がもたらすリサイクル産物について意見が交わされていた。クリーンセンター=焼却炉の稼働で再資源化できるのはマテリアル(物資・素材)よりもサーマル(排熱)だ、という結論に達し、排熱を利用した農産物のハウス栽培を行うことに定まった。

焼却炉の排熱を利用して「越後バナーナ」が栽培されているハウス。2026年には観光農園化の計画も

排熱で温められた水が管をつたい、ハウス内の温度を保つ

そこで生産する作物も、先代社長(霜田彰現会長)の意向によりバナナに決まった。雪深い新潟県で栽培される南国の果物の代表格、その意外性が良い。

「焼却炉の排熱を利用してハウス栽培を行うこと自体は、排熱で暖められた水を管に通してハウスに巡らせるというものですから、非常にシンプルな仕組みです。悩んだのは栽培するバナナの品種。いろいろ食べた中で感動したのはフィリピンで食べたバナナでした」(霜田社長)

「どうせなら最高に美味しいバナナを作りたい」「柏崎であの美味しいバナナが栽培できれば」悩んだ結果、選んだのはグロスミッチェル種という希少種のバナナ。タイでは“黄金の香り”と形容され、 華やかな香りと濃厚な甘みに特徴がある。

華やかな香りと濃厚な甘み、もっちりとした口当たりが特徴のグロスミッチェル種バナナ

「越後バナーナ」と命名されたそのバナナは、栽培法にもこだわり抜いた。無農薬・無化学肥料。通常の輸入バナナは青いうちに収穫して流通過程で熟成して皮が黄色になるのだが、越後バナーナは濃厚な香りとまろやかさを出すため樹上で黄色くなるまで熟させてから収穫。そのため皮も薄くなって(農薬を使っていないので皮ごと食べられるほど)、もっちりとした独特の食感が生まれる。

越後バナーナはシモダ産業のECサイトで販売している

2019年に初出荷し、現在は自社のECサイトを中心に販売されている。価格は350グラム入り(3~4本)で4,400円と超高級だが、リピーターが後を絶たない。

2026年内にはシモダファームを観光農園化して、越後バナーナが育つところを見せながらドリンクやスイーツを楽しんでもらう計画が、既に設計段階だという。訪れた観光客は雪国で育った高級バナナにはもちろん、この完全なる循環システムを生んだシモダ産業という地方企業の底力に驚愕するはずだ。

地域と繋がる喜び

新社長の霜田真紀子さんに話を聞いた。

霜田さんは、早稲田大学商学部を卒業後に大手の生保企業に就職。2008年に起きた中越沖地震を機にUターンしてシモダ産業に入社した。

「子供のころから工場に風景に慣れ親しんでいた」と霜田社長

―― 東京から柏崎に帰って来られたのは、やはり中越沖地震で郷里に対する想いが強まったからですか?

霜田社長 子供のころからどういうわけか「いつかこの会社を私が継ぐ」という想いが漠然とありました。だから大卒後の就職も『中小企業とたくさん関わりを持ちたい』という想いで保険会社を選びました。ただ柏崎に戻ってくる予定は地震によってかなり早まりましたね。地震で設備が倒壊しただけでなく、工場で粉塵爆発も起きて大打撃を受けましたから、何とか窮地を支えたいという想いで

―― 女性が選択する職場としてはメタルカラーで硬派なイメージが勝手にありますが…

霜田社長 子供のころから、この工場の敷地内を抜けて小学校に通っていたのですよ。だから私にとっては当たり前の風景なのですよね。当時は『本当に男の人ばかり』と思っていましたが、社員の方もみな顔見知りだったので。現在は従業員数約200人のうち35%ほどが女性になりました

―― シモダ産業の循環システムは、他に例を見ないような完成された形。まるで創業時からの哲学が脈々と流れているかのごとくに感じますが

霜田社長 「哲学」…ですかね弊社が扱うすべての事業は数珠つなぎのように繋がっています。だから持続可能な社会に向けての意識かと言われれば、おそらくそればかりではなくて、その時々の事業の必要に応じてそうなっている面も大きい。ウチの家系は祖父(創業者)も父(現会長)も何かにつけて「もったいない」「無駄にすることが嫌い」という意識が強い几帳面な性格でもあるので。

様々な要望に対応できる生産ライン

―― シモダ産業の強みは?

霜田社長 鋳材事業に関しては、4つのラインを有して、お客様の多様な要望に対応できるところ。お客様によって求める形状が違ったり、表面の仕上げが違ったりしますから。砂の調合も出来上がる製品に合わせて変えています

―― 越後バナーナとファームの事業をスタートしたことは、会社に変化を与えましたか

霜田社長 地域と距離が縮まったのが嬉しいですね。柏崎の食を代表するひとつとして越後バナーナがあることは、会社と地域との接点ととらえています。やはりそれまでは、取引先が県外だったこともあり地域とのつながりは薄かったし、何を作っている会社か理解されていない面もあったと思います。来年は観光農園をオープンする予定で、他の地域から新しい人の流れを作れると良いとは思っていますが、まずは地域の人に愛されるファームになって欲しい

―― 産業構造も変化していきます。未来のシモダ産業は、どういう方向に伸びていきますか?

霜田社長 確かに、自動車の(電気自動車へのシフトなどで)内燃機関がいらなくなる時代が来れば、鋳型や鋳物の在り方も変わってくるでしょう。ただ、鋳物の需要が完全になくなることはないと思っているのです。それは、世の中の流れに合わせて鋳物製品ができているからです。

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ここまで「循環型事業」を実践できている企業は、新潟県全体でも他に見当たらない。多くの場合、産業の中に循環システムを無理に作ろうとして、正常なオペレーションに負荷がかかる、そんな事態に陥っている。一時期頻繁に見受けられたバイオマスなども、結局はどこかにボトルネックが生じて破綻しているケースが多い。先人が作り上げた完成度の高いシステムを、新社長の感性でどう昇華させるか注目したい。

(編集部 伊藤 直樹)

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