【特集】新潟大学医歯学総合病院・倉又あかりさん「熱く、冷静に」 患者の命に向き合うフライトナースの使命、新潟青陵大学卒業生を追う

新潟大学医歯学総合病院(新潟市中央区)の救急外来で、医師と連携しながら迅速な処置に当たるのは、同院の看護師・倉又あかりさん。交通事故で運ばれる患者、心肺停止状態で搬送される患者など、一刻を争う現場で患者の命を守り続けている。

倉又さんは新潟青陵大学(新潟市中央区)看護学部を卒業後、新潟大学医歯学総合病院で働き、今年で入職9年目になる。2025年6月からは、ドクターヘリで救急現場に医師とともに駆けつけるフライトナースも担当。子どもの頃から思い描いていた夢を叶えた。冷静な判断力と、高度な看護スキルが求められる救急の現場で活躍する、倉又さんの仕事に迫る。

 

県内の医療を総合的に支える救急医療と教育の拠点

医科32診療科、歯科5診療科、計37診療科と、827の病床を有する新潟大学医歯総合病院(新潟市中央区)

倉又さんが勤務する新潟大学医歯学総合病院は、最重篤の患者を受け入れる三次救急医療機関。同時に、国立大学病院として医師や看護師など次世代の医療従事者を育成する教育機関でもある。年間を通じて医学生、看護学生が実習に訪れ、現場での実践を通じて高度な医療技術を学んでいく。

同院には病気・怪我による重症患者や、県内でも対応施設が限られる小児の重症例、希少疾患、ECMO(体外式膜型人工肺)を必要とする重症患者など、他の医療機関では対応困難な症例が集約される。倉又さんが普段勤務する救急外来は、まさに医療の最前線。一刻を争う現場で、看護師たちは医師と連携しながら迅速な処置を行う。

「救急外来では、どんな症例が来ても対応できる準備が必要です。患者さんの状態を瞬時にアセスメントして、必要な機材や薬剤を準備する。看護師として予測能力が問われる場所です」と倉又さん。県内各地から搬送される患者たちの命を、24時間365日体制で支えている。

同院の救急外来では、重症外傷、重症中毒、広範囲熱傷、ショック、病院外心肺機能停止、敗血症、心疾患、呼吸不全といった重症度の高い患者の受け入れも行う。

応急処置や緊急時に対応できる高度な設備がそろう初療室。

 

ドクターヘリで現場に駆けつける、フライトナースの使命

フライトナースとして勤務する日は、専用のユニフォームに着替える。

倉又さんの仕事の場は病院内にとどまらない。2025年6月からは、もう一つの使命を背負うことになった。それは、フライトナースの仕事だ。入職9年目でフライトナースを担当するのは、異例の早さだという。

新潟県のドクターヘリは2012年10月に導入され、年間の出動要請件数は全国トップクラス。2023年には全国一の出動要請があったという。県内を100キロ圏内でカバーし、村上市や佐渡まで、数十分で駆けつける。

ドクターヘリに搭乗時は、医療機器や医薬品などが入った救急バッグを持参する。

フライトナースは、医師と共にドクターヘリに搭乗し、事故や重症患者のもとへ駆けつける、いわば救命医療のスペシャリスト。フライトナースとしての業務は月に4回ほどで、出動現場では限られた医療器具で対応する。即座にバイタルサイン測定や点滴・薬剤投与などの初期治療を行う必要がある。

倉又さんの先輩で、フライトナースも務める小林友子さんは、ドクターヘリ導入時から12年以上にわたって空から医療を届けてきた。倉又さんの指導を担当し、その成長を見守ってきた一人だ。

「フライトナースの役割は、医師の処置を補助することだけではありません。患者さんや突然のことで混乱しているご家族への精神的フォロー、消防・救急隊員や他病院との連携・調整も重要な役割です。ヘリの離発着時の安全管理も必須です。飛散物がないか、近づいてくる人がいないか、360度全方位に気を配りながら、患者さんの命を守ります」と小林さん。フライトナースは、高い看護スキルと瞬時の判断力、医師に対しても必要があれば意見を言える芯の強さや応用力も求められる。

東京の第三次救急医療機関でも働いた経験を持つ、倉又さんの上司・小林友子さん(写真左)

倉又さんについて、小林さんはこう評価する。「彼女は本当に努力家で勤勉。新人の頃からその姿勢は変わりません。周囲の意見を柔軟に受け入れながら、自分の看護観を大切にしています。常に感謝の気持ちを忘れない人ですね」。

数年前、救急外来のリーダーを務めていた倉又さんのもとに、重症の小児が搬送された。小児の心肺停止は、救急の現場でも特に緊張が走る症例だという。倉又さんはその現場での緊張が強く、ベテラン看護師にリーダーを交代してもらった経験がある。倉又さんはその経験を徹底的に振り返り、1年後、同じような症例が運ばれてきた際には、見事に現場をマネジメントした。

「彼女が成長した瞬間を見て、感激しました。患者や家族への対応はもちろん、放射線技師、リハビリスタッフ、他病院のスタッフ、多職種との連携においても、倉又さんの人柄の良さが光っています。救急の現場では、冷静に状況を俯瞰し、パニックに巻き込まれないことが大切です。倉又さんはそういう資質を持っているからこそ、9年目という早さでフライトナースになれたんだと思います」と小林さんはほほ笑む。

「倉又さんは学びと感謝を常に忘れない人です」と先輩フライトナースでもある小林友子さん。

 

実習で実践的な学びと経験を養った新潟青陵大学時代

実は倉又さんは双子で、双子の妹も新潟大学医歯学総合病院で働いている。「姉妹で同じ仕事、同じ職場は珍しがられますね(笑)」と倉又さん。

「子どもの頃、母が病気で入院することになりました。子どもながらに病気でつらい思いをする母を支えるにはどうしたらよいのか、どうやったら病気の母が安心して相談できたり頼れる存在になれるのかを常に考えていました」。倉又さんは看護師を志したきっかけを、懐かしそうに振り返る。高校生のときには、医療ドラマで見たドクターヘリの活躍に心を動かされた。フライトナースという目標ができたのもこの時期だ。

県内有数の看護職輩出を誇る新潟青陵大学(新潟市中央区)。

新潟県内で看護を学べることを重視した倉又さんが選んだ進学先は、新潟青陵大学看護学部だ。「新潟青陵大学は実習先が充実していることが決め手でした。また、看護師以外の資格の取得もできることが魅力に感じました。」と倉又さん。

新潟青陵大学は、2000年に新潟県で最初に開学した看護系大学として、多くの看護職を輩出してきた実績を持つ。カリキュラムでは、専門的な看護教育に加えて、人間心理をしっかりと学べる点が特徴だ。取得可能な資格は看護師、保健師、助産師、養護教諭の4種類で、全国トップクラスの資格養成数を持つため、県外からの志願者も多い。

「倉又さんのフライトナースへの熱意はすごく感じました。3年生の実習でも、4年生の卒業研究でも、その思いは一貫していました」と振り返る清水准教授。

倉又さんを指導した清水理恵准教授が担当する急性期看護の実習では、学生たちは実際に手術室に入り、術前・術中・術後の看護を学ぶ。「倉又さんは、指導されることを前向きに捉える学生でした。最近は指摘されることに慣れていない学生が増えているのですが、彼女は『指導してもらえてよかった』と思えるタイプ。むしろ指導されないと物足りないと感じるような、貪欲な学生でしたね」と清水准教授は振り返る。

新潟青陵大学では、実習教育は段階的に構成されており、1年次の見学実習、2年次の基礎実習、そして3年次には半年間にわたる領域別実習と、着実に実践力を養う。カリキュラムでは心理学が重視されており、患者の心理状態を理解し、寄り添う看護師の育成に注力。きめ細かい教育体制により、深い人間理解に基づいた看護職の養成を実現している。

注射や採血など診療の補助技術に加えて、患者の身体を清潔にする、移動を介助するといった患者の生活を支える援助技術なども学ぶ第1看護学実習室

実習では、学生たちが患者一人一人と真剣に向き合い、相手の気持ちを理解しようと必死に考える。時には自分自身をさらけ出しながら、コミュニケーションを取っていく経験も必要だという。

「手術の実習では、手術室で患者さんの手を握っていた学生が、後に『あなたがそばにいてくれたから安心できた』と言われたことがありました。学生にとっては手を握っていただけという感覚かもしれませんが、患者さんにとってそれがどれほど大きな支えになったか。そういう経験を通して、看護の本質を学んでいきます」と清水准教授は語る。

第4看護学実習室では、病気に合わせた看護ケアをリアルに体感できる高度シミュレーターを用いたシミュレーション演習などを行う。

倉又さんも実習での経験を糧に成長した。卒業後も母校との縁は続き、後輩への技術指導にティーチングアシスタントとして参加。熱心に指導する姿は、後輩たちの憧れの存在となっている。

「倉又さんは入学時から『フライトナースになりたい』と言い続けていました。卒業研究では実際に新潟大学医歯学総合病院のフライトナースにインタビューに行くほどの熱意でしたね。新潟青陵大学初のフライトナースが誕生したことは、本当に嬉しいです。彼女の姿を見て、後輩たちもきっと夢を持って看護の道を進んでくれると思います」(清水准教授)。

 

一分一秒でも早く。患者の命をつなぎとめたい

運行管理を担うCSのスタッフ。あらゆる情報を駆使して運行指示を行っている。

ドクターヘリ運航管理室を見学させてもらった。ドクターヘリ運航管理室では、CS(コミュニケーションスペシャリスト)が消防からの情報を整理している。CSは医療資格を持たないが、高度な医療知識を有し、要請内容から必要な準備を判断しながら、フライトチームと消防・医療機関をつなぐ重要な役割を担う。Facetimeで現場と常時接続し、雨雲の動きや風速の変化などの気象情報も含めて、リアルタイムで情報を共有する。

外来棟の上階にあるドクターヘリ運行管理室。倉又さんがフライトナースとして勤務するときは、こちらで待機する。

モニターには新潟県全域の地図が映し出され、長岡のドクターヘリとの連携状況も一目で分かる。「新潟県は2機のヘリで連携しています。私たちが出動中に別の要請があれば、長岡が対応する。県境付近では山形や福島のヘリとも連携します」と倉又さんは説明する。取材時は風が強く、新潟市中央区関屋にある地上ヘリポートでの待機であったが、通常は要請があれば病院屋上にあるヘリポートにドクターヘリが待機し、医師や倉又さんらフライトナースが搭乗して、救急現場に向かう。

ドクターヘリに搭乗する際の医療機器は必要最小限に。使用した後に道具の補充をするのも大切な仕事だ。

新潟県の高齢化は進み、救急医療のニーズは年々高まっている。山間部での事故、離島での急病、災害時の対応。ドクターヘリの役割はますます重要になっていくことだろう。

「念願のフライトナースになりましたが、まだまだ学ぶことばかりです。病院の外で患者さんの命を救えること、医療を届けられることに、大きなやりがいを感じています」。目指すのは、どんな現場でも冷静に対応できるフライトナースだ。

地上でも空からでも、命と向き合い続ける倉又さんの日々。そこには、一人でも多くの命を救いたいという看護師としての信念がある。「患者さんとご家族にとって、事故や急病は人生の一大事。その瞬間に寄り添い、最善の医療を提供する、それが私たち看護師、フライトナースの使命です」。

(文・取材:野口彩)
(ディレクター:石橋未来)

【学校情報】

学校法人 新潟青陵学園 新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部

住所:新潟市中央区水道町1丁目5939番地

新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部 Webサイト

新潟青陵大学は2000年に開学し、新潟県初の看護、福祉、心理系の大学として1学部2学科を開設した。現在は看護学部看護学科と福祉心理子ども学部社会福祉学科・臨床心理学科・子ども発達学科の2学部4学科で構成されている。
毎年、卒業生の約80%が新潟県内に就職しており、新潟県の医療、福祉業界を支えている。
また、新潟青陵大学短期大学部も併設している。現在は人間総合学科と幼児教育学科の2分野を有し、新潟県の企業、保育業界への人材供給を担い続けている伝統校。

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