弥彦は小さいけれど「カオスな村」! 地域の魅力と多様な人々の熱量を力に変える 本間芳之村長インタビュー

新潟県弥彦村の本間芳之村長

「弥彦村は、カオスな村です」。そう語る同村の本間芳之村長の言葉には、確かな手応えが滲む。

人口約7,500人、面積約25.17平方キロメートルの小さな村でありながら、新潟県内屈指の観光地で、コメや枝豆などの特産品も有名な弥彦村。同村は昨2024年、転入者が転出者を上回り(2024年に転入超過になったのは県内で4市町村のみ)、この5年間毎年就農者も現れている。2024年4月にオープンした「弥彦の丘サテライトオフィス」には県内外の20社が入居し、交流による化学反応が期待される。

2023年1月に初当選した本間村長は、民間で培った経験も元に、子育て支援や「稼げる産業」の創出に取り組んできた。多様な人とアイデアが交錯する「カオス」を力に変え、「住みたい、住み続けたい弥彦村」の実現を目指している。

 

目次

○民間の経験を経て生まれ故郷の村長に
○深刻な人口減から「住み続けたい村」へ
○農業を稼げる産業へ
○周遊型の観光地への転換
○「カオス」を力にする村

 

民間の経験を経て生まれ故郷の村長に

本間芳之村長は地元・弥彦村の出身。大学卒業後に株式会社テレビ新潟放送網(TeNY)へ入社し、事業局事業部長、事業局長、執行役員事業局長を歴任。その後、2021年6月に株式会社TeNYサービス代表取締役社長に就任。2023年1月、村長に初当選した。

──2023年、村長に立候補されたきっかけをお伺いします。

2022年9月に株式会社TeNYサービスの社長を退任しましたが、その年の初めぐらいから、多くの方から「(村長選に)チャレンジしてみないか」という声をいただいていました。また、30歳過ぎの頃に父(当時の弥彦村長・本間道夫氏)が亡くなったのですが、その頃お世話になった方からも当時「今はとにかく仕事を全力でやり通せ。その後に、村のために尽くせ」という言葉をいただいていました。

 

──村長として立候補する以前、TeNYテレビ新潟やTeNYサービスではどのようなお仕事を?

番組の制作関連ではなくほぼ営業・事業部門で働いていて、リアルイベントの開催に関わる仕事もしました。44歳の時から、24時間テレビのチャリティーイベントや募金に関わらせていただいたこともありましたが、やはりそうした経験をすると目線が変わります。その時には、福祉車両を県内の福祉協議会へ寄贈する取り組みなどにも関わり、立候補するきっかけや今の仕事にも繋がっていると思います。

 

──就任からもうすぐ3年になりますが、振り返っていかがでしょうか。

あっという間の3年で、毎日色々なことが目まぐるしい印象ですね。

選挙の時、「35の約束」というものをお示ししました。色々な細かい政策を盛り込んでいますが、現在、その全てに着手しました。それぞれの分野で具体的な成果や効果が見え始めてきており、どの約束も着実に前に進んでいると考えています。スピード感を持って進めるべきもの、そして慎重に検討を要するもの、あるいは将来を見据えて着実に取り組むべきもの、それぞれ性質は異なりますが、「全てが動いている」ということが大きな成果だと私は感じています。

 

深刻な人口減から「住み続けたい村」へ

──現在、弥彦村が抱える課題について教えてください。

弥彦村だけでなくあらゆる自治体で共通ですが、人口減少がやはり大きな課題です。弥彦村の人口は毎年100人ほど減っていく推計で、2025年現在の約7,500人から、25年後の2050年には5,026人まで減ると推計されています。人口減少は、それを抑制する対策と人口減少に伴って生じる課題への対策の双方からの取り組みが必要です。

なお、2024年は転入超過で34人の社会増となりました。大都市に比べれば僅かですが、それでも我々にとっては画期的なことで、これまで取り組んできた施策が少しずつ評価されていると考えています。

子育て施策に力を入れる本間村長は「先日、移住してきた若いお母さんから『弥彦村は子育て支援が手厚いので、私の知人も移住を考えています。今後もこの施策は続きますか?』と質問されたので、『続けます。どうぞ来てください。ウェルカムです』と答えました」と話す。「弥彦村は子育てしやすいとのイメージは、少しずつ浸透しています」と手応えを語る。(写真は弥彦山からの日本海と越後平野、写真提供:弥彦村)

──そうした中で、特に力を入れている施策を教えてください。

やはり、まずは子育て支援が大事だと思っています。人生の節目ごとの給付金や村独自の支援を行っています。妊娠から出産、0歳から18歳までをワンパッケージとして、子育てを行う世帯に対し最大500万円を超える経済的な支援を行っています。これは県内でもトップクラスだと自負しており、それが昨年の社会増に繋がったのだと思います。

もう一つは、「稼ぐ産業」の実現です。人が住み続けるためには働く場が必要なので、今年度の予算は産業政策に重点を置き、起業創業支援である「チャレンジサポート補助金」を新設して3件の事業所と飲食店の開業が決定しました。また、農業、観光、商工業、全ての産業が繋がっているので、全てを活性化していくことを目指して連鎖させていきたいですね。

 

農業を稼げる産業へ

彌彦神社へ奉納された弥彦村のブランド米「伊彌彦米」。就農者や農機・施設の購入を補助する国の補助金が存在するが、弥彦村ではこれにプラスする形で新規就農者を支援する補助金や、就農を考えている人が農家で学べる制度などを整備している。

──弥彦村では毎年就農者がいるとお聞きしています。弥彦村と言えば「伊彌彦米」や「弥彦むすめ」など特産品も多いですね。農業施策について力を入れている点も聞かせてください。

弥彦村における新規就農者の状況としては、2020年以降、5名の方が弥彦村に移住して就農し、枝豆を主体とした経営をされています。このうち2名は県外からです。新規就農者も含め、伊彌彦米や枝豆といったブランド農産物を中心に儲かる農業の実現に向け、生産者の支援を継続していきたいと思っています。

また、新たな取り組みとして力を入れていきたいのは、農業と商工業の連携による弥彦産農産物を使った商品の開発。経験や勘に頼らない新規就農者でも栽培が安定するようなデジタル技術の活用。そして、伊彌彦米と枝豆に次ぐ、農業経営の柱になり得る農産品の検討・支援の3点です。

 

──確かに、2024年にブルボンが発売した「ピッカラ越後えだまめ味」など、弥彦の農産品を活用した商品は増えていますね。

弥彦の茶豆を使用したブルボンの「ピッカラ越後えだまめ味」

株式会社伊彌彦という会社が弥彦産100%の小麦と大豆で醤油も製造・販売しているんですよ。農事組合法人第四生産組合という弥彦の小麦の活用を目指す法人もあって、アクティブに活動しています。

枝豆は選果場の機械で選別していますが、どうしても細かったり小さかったりで規格外品扱いになって、商品として出せず廃棄処分になるものがありました。現在、枝豆を使った「新潟県ジン」(スターマーク、2025年発売)など、規格外品を活用した商品の取り組みも広がってきています。こうした利活用で農業を稼げるようにして、就農の後押しをしていきたいですね。

また、「やひこ農業村民会議」という取り組みが新たに始まっています。生産者と地元企業が連携することで、新たな特産品の開発や地産地消の取り組みに着手しています。こうした生産者と地元企業、あるいは旅館、飲食店の人たちが一堂に会して、「こんな野菜がほしい」「こんな商品があったらいい」と話し合う機会って、村では今まで、あるようでなかったんですよ。この会議を通じて、新規就農者も含め生産者が「こんな野菜にチャレンジしてます」とか「こんなイベントをしたら面白いんじゃないの?」とか、活発な議論ができる環境が始まっていると思います。

 

──新しい特産品は、例えばどのようなものが?

新規就農者の中には、イチジクやレモン、サツマイモを育てている方もいます。弥彦産レモンはまだ生産者も生産量も少ないのですが、頑張って育てている方がいるので、これから身近な場所で見かけるようになるのではと思います。新たな農産物に限らず、村としても、生産者を応援をしていきたいですね。

 

周遊型の観光地への転換

人で賑わうおもてなし広場(写真提供:弥彦村)

弥彦村は現在、県の事業「にいがたリノベまちづくりスクール」に参加。専門家からのアドバイスや、職員の先進地への視察などを通して「門前町・弥彦」の活性化を目指しているという(写真は弥彦村のおもてなし広場、写真提供:弥彦村)

──弥彦は県内屈指の観光地です。観光についての課題、これから手を付けていかなければいけない点を教えてください。

彌彦神社周辺や、その少し離れた場所にカフェなどが増えている反面、ほかの地域では飲食店や食事ができる場所が減っています。現在、商工業者のチャレンジサポート補助金など、商工会と連携しながら賑わい創出を進めています。

一の鳥居前は常に賑わっており、おもてなし広場付近も若い方や家族連れを中心に集客がありますが、JR弥彦駅前などは空き店舗が多くなっているのも事実で、周遊性の向上が課題です。

特定の観光スポットへ行って終わりではなく、ぐるりと弥彦を散策してもらえるようにしていきたい。弥彦公園とその周辺など、観光施設の計画的な整備と補修、あるいは無電柱化など風情のある景観整備といったハード面を進めると同時に、民間事業者と連携して、新規出店したい人を空き家の利用へ誘導するなどの取り組みもしていきます。通過型から滞在型へ転換し、滞在時間や消費単価の向上に繋げていきたいですね。

自動運転バス・ミコぴょん号と弥彦村のマスコットキャラクターのミコぴょん(弥彦村のプレスリリースより)

──弥彦は自動車で来る人が多いイメージです。周遊性を高めることも目指し、自動運転バス・ミコぴょん号の新しい路線(弥彦駅と彌彦神社を結ぶ路線を12月から運行開始)なども設定したのでしょうか?

元々、弥彦線は「参宮線」と言われ、彌彦神社へお参りをする人のために作られた路線です。私たちとしては精一杯、この公共交通機関を活用したイベントをやっていきたいと思っています。ミコぴょん号の新しい路線も、もちろん弥彦線のダイヤに連動することをマストにしています。

景観整備もやっていきますが、それと同時に空き店舗に昼食・軽食を食べられる店や面白い店を入れて、歩いても何か発見できるようにして滞在時間を長くしていきたいと考えています。

弥彦駅からの表通りも含め、ポテンシャルの高いストリートがあります。「カレー豆」で知られる成沢商店がある通りも「参宮通り」と言って、昔はこの通りを歩いて彌彦神社へ行っていました。神社へ行くルートは色々あり、それぞれにある空き家のリノベーションや、空き地を有効活用することで賑わいを創出できると考えています。壮大な計画で単純に半年や1年では終わりませんが、着実に取り組んでいくことで、次の世代の機会創出やアイデア出しのきっかけになればと思います。

 

──今年、新潟県が実施した県内の温泉地の満足度調査で、弥彦温泉が昨年の2位から順位を上げて満足度1位になりました。

弥彦には様々なコンテンツが凝縮しており、歴史や文化資源、四季折々の自然が体験できることに加え、それぞれの旅館やお店、地域の皆さんのおもてなしの心が高く評価された結果だと大変有り難く受け止めています。

元々私が前職でイベントの開催にも関わっていたこともあって、近年は閑散期をなくしたいと考えています。ゴールデンウィーク後の6月や菊祭り前後の期間ですね。年間を通して、「弥彦って、いつ行っても楽しいよね」という印象を作りたいと考えており、少しずつ認知もされてきてると思っています。

 

「カオス」を力にする村

県内外の企業が入居する「弥彦の丘サテライトオフィス」(写真は開館当時、2024年4月撮影)

──これからの弥彦村について、目指していきたいところを教えてください。

現在、2026年4月からの第7次総合計画を策定中です。基本理念である「住みたい、住み続けたい弥彦村」を軸として、私が重視する子育て支援や、稼げる産業など「35の約束」の主要な部分をブラッシュアップして作っています。世代を問わず全ての村民が「住んでよかった。これからも住み続けたい」と思っていただける村づくりを目標にしています。今後は新しい総合計画を基に施策を展開し、成果を確実に積み上げていきたいと思っています。

弥彦の丘サテライトオフィスは、今はもう20社が入居し定員に達しています。村内外、県外の人たちが集まる場になっており、新しい人の流れと意見交換の場が生まれていることを実感しています。様々な業種の人たちが色々な話を日常的にして、そこから生まれる化学反応を私たちは期待しています。

弥彦村は人口も面積も小さい村ですが、様々な人たちと業種が集まり切磋琢磨しており、小さくても多数の魅力が凝縮している「カオスな村」です。伝統と文化、それから進化との融合をキーワードに凝縮して、「何だか分からないけど、みんなでカオスな村にして、新しいものを生み出そうよ」という雰囲気を目指しています。

「弥彦村はカオスな村」だと語る本間村長

──「カオスな村」という言葉はインパクトがありますね。混沌としているからこそ、新しいことが生み出されるパワーがあると思います。

みんな、熱量は持っているんですよ。だから、みんなが集まって話して、そこで私たちが背中を押す。ほんの少しのアシストで、普段頭の中で考えていたことを口に出せて、みんなで「ああ、それいいね!」と言える。そういう環境を作っていけば、若い人たちのエネルギーをしっかり力に変えることができると私は信じています。

それが結果として、子育て中の人であったり、働いてる人であったり、あるいは県外で仕事してる人達の目にも止まって、一人一人の想いや願いが叶えられる、心豊かに暮らせる弥彦村になっていくと思います。私としては、これからそんな村づくりに取り組んでいきたいですね。

弥彦山と田園(写真提供:弥彦村)

(インタビュー・撮影 鈴木琢真)

 

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