【特集】新潟伊勢丹「NIIGATA越品」が紡ぐ、新潟のものづくりと人のストーリー 地域の作り手や商品にとっての高付加価値プラットフォーマーへの挑戦

婦人服部門を長年経験し、2022年4月に新規事業担当に異動した腰越隼人さん

新潟伊勢丹の1階は、インターナショナルブティックや化粧品、婦人服などが並ぶラグジュアリーなフロアだ。その一角に広がる「NIIGATA越品」のコーナーは、食品から衣料品、伝統工芸品まで、さまざまなジャンルの県内産品が並び、新潟の産業の多様性を映し出している。2020年9月の大規模リニューアルに伴い、このコーナーは大幅に拡張。県内の銘品が次々と集結する場所になった。

2016年3月にプロジェクトとしてスタートした「NIIGATA越品」は、新潟の地域が持つ価値や魅力を「再発見」「新編集」して発信するという株式会社新潟三越伊勢丹発のプロジェクト。百貨店ならではの視点で、衣食住にまつわる銘品を発掘し、編集する。「売るより、価値を伝える」をコンセプトに、商品販売だけではなく、その背景にあるストーリーやこだわりが顧客に伝わるよう、さまざまな形で提案・発信している。

このプロジェクトの発展を新規事業の文脈で主導しているのが、株式会社新潟三越伊勢丹の事業企画兼地域連携ビジネス推進室に所属する腰越隼人さんだ。「NIIGATA越品」が何を目指し、地域やものづくりとどのように向き合っているのか。その思いと経緯を聞いた。

商品販売から、地域と向き合う事業へ

新潟伊勢丹1階で展開するNIIGATA越品コーナー

現在、「NIIGATA越品」ではオンライン含め、約2,500アイテムを取り扱っている。食品、生活用品、ファッション雑貨、婦人服、その他の幅広いカテゴリーから、県内の優れた商品を厳選。商品・ブランドづくりに留まらず、地域創生の視点に立ち、生産者や事業者、自治体と共創しながら「ここにしかないオンリーワン」をつくる取り組みを目指している。

新潟三越伊勢丹の事業企画兼地域連携ビジネス推進室に所属する腰越隼人さんは、「NIIGATA越品」を主導する一人。入社以来、長年婦人服部門に勤務していた腰越さんは、2020年の新潟伊勢丹大規模改装時、婦人服フロアのリニューアルに携わった。その際、新型コロナウイルス禍で、メーカー出店凍結や難航する出店交渉の中、県内のセレクトショップや事業者が相次いで協力してくれた。

腰越さんは県内各地を巡り、行政への訪問営業で30近い自治体と接してきた

「地元の事業者の方々が『新潟伊勢丹だったら出店を考えたい』と助けてくださったんです。その時に、やはり地元の人たちに目を向けてこその百貨店だと実感しました」と腰越さん。このコロナ禍での経験が、地域と向き合う事業の必要性を腰越さんに認識させたという。

その後、2022年4月に腰越さんは婦人服部門から新規事業担当へ異動。県内唯一の百貨店として、新規事業で地域にいかに貢献するか、コロナ禍で感じた思いを形にする機会が訪れた。

「新規事業として0から作り出していくところから始まり、名刺と社用車と自分の体しかない状態からスタートしました(笑)。百貨店として地域に貢献できることは何かを考えるために、まずは県内の自治体に直接電話をかけ、『何かお困りごとはないですか?』と聞いて回ることから始めました。『三越伊勢丹さんが何のご用ですか?』と怪訝そうに聞かれながらも、とにかく話を聞きたい、聞いてもらいたいという一心でした」

自治体と作り手の課題に、百貨店ができること

自治体訪問を通じて見えてきたのは、行政と地域事業者が共通の課題を抱えていることだった。各自治体はふるさと納税の拡大で「ものやサービスが消費者(寄付者)に選ばれること」に関わるようになった一方で、製造業者や作り手からは「売価設定は?」「販売促進は?」という質問が寄せられる。

行政スタッフが答えられないのであれば、百貨店で養った小売業の知見を提供するのはどうか。そう考えた腰越さんは、2022年秋に自治体とのパートナーシップを本格化させ、製造業者・作り手向けセミナーやワークショップの開催を始めた。

一つ一つの商品にあるエピソードや背景を語る腰越さん

「その中で明らかになったのが、自分たちの商品がどこで売られているか分からない、商品が誰に向けたものなのか明確になっていないという作り手たちの根本的な課題です。商品のコンセプトやターゲット設定が不明確だと価格、パッケージ、販売戦略も全て曖昧になり、良い商品であっても魅力が伝わりにくいというのが現状でした」

以来、腰越さんが取り組んできたのは、作り手と共に顧客像を明確にする対話だ。「作り手の皆さんとの壁打ちです。作り手は想いを持ってものづくりに励んでいますが、一方で私たちは小売業の目線で『この商品には実はこういう魅力があるのではないか』『世の中こういう商品も売れている』『うちだったらこういう商品は、こういうお客さまに売れている』と提案やアドバイスができます。商品の“見える化”を行うことで、作り手の方々の中で気づきが得られていくことに手応えを感じていきました」と腰越さんは振り返る。

新潟の作り手との関係を深める中で、腰越さんが何よりも実感したのは、彼らの職人気質とこだわり。そこに小売業の視点や顧客とのつながりを加えることで、地域のものづくりへの貢献、さらには地域の価値や魅力の再発見にもつながっていく。「NIIGATA越品」は店舗スタッフ、バイヤーチーム、腰越さんと地域の作り手、自治体が互いに課題に向き合うことでさらなる可能性を見出すことにつながったというわけだ。

2,500ものアイテムが創出する「ここにしかない」価値

NIIGATA越品はただ良いものを集めるだけでなく、販売を通じて作り手自身のものづくりへの向き合い方を支えている

作り手との対話を繰り返す中で、県内全体から優れた商品を発掘し、独自の目線を進化させた「NIIGATA越品」。県内各地の食品から衣料品、伝統工芸品に至るまで幅広く取り扱い、販売会開催時にはバイヤーが商談を通じて選定した商品が並び、作り手たちが店頭に立ち、直接顧客の声に触れるのが一連の流れだ。この経験を通じて、作り手たちは「お客様の目線を持つことの重要性」を体感するという仕組みになっている。

販売会後には個別面談が行われ、販売データと顧客の声をフィードバックが行われる。ただ選んで売るだけではなく、次の商品開発や販売戦略へとつなげられていくのが「NIIGATA越品」の特徴と役割であり、売上規模よりも作り手のマインドセット変革を最優先としている。

焙煎歴40年の珈琲豆山倉(新潟市)に監修を受けたaccos(南魚沼市)と、珈琲考具(下村企販・燕市)によるPOP UP

数多くの実践の中でも、腰越さんは柏崎市の認証米「米山プリンセス」のエピソードが印象に残るという。

「米山プリンセスは柏崎市で作られるコシヒカリの中で、高い食味値をはじめ、厳しい基準をクリアした正に“選りすぐり”のコシヒカリではあるのですが、認知の拡大やブランドとしての立ち位置に課題を感じていました。そこで、農家の皆さんに『食味ばかりに目を向けるのではなく、柏崎の土地に合ったブランドのスタンスを打ち出していくのはどうか』と提案しました」

柏崎の土地柄で栽培しやすい「極早生」品種に着目し、「県内最速の新米コシヒカリ」というポジション戦略を提案。リスクを覚悟しながらも一部農家の取り組みは実を結び、8月下旬に収穫し、9月3日に店頭に並んだ、恐らく県内最速の新米コシヒカリとして店頭に並んだ「米山プリンセス」は、メディアでも報道されて好評を得た。

「お客様が欲しいのは単純に『おいしい』ものではなく、『今、新米が欲しい』『こういう取り組みに惹かれる』という複合的なニーズを見つめた結果が得られました。店頭で顧客と直接向き合う経験が作り手の意識を変え、自社製品を客観的に評価することで改善へと動きます。その意識変化こそが、NIIGATA越品の最大の成果だと考えています」と腰越さんは力強く語る。

百貨店が架け橋となって育む、ものづくりへの愛着と誇り

「NIIGATA越品を通して、新潟県民が新潟を好きになることが大切」と腰越さんは語る

これまでの「NIIGATA越品」は新潟県全県を対象としていたが、より地域を深掘りし、地域の作り手やものづくりを体系的に展開するために生まれたのが「NIIGATA越品 良いモノがたり」だ。腰越さんが自治体と協働で展開する取り組みで、地域の作り手が顧客を起点とした思考を身に付けるための支援プロジェクトで、NIIGATA越品のPOPUPスペースを活用しながら、販売会やセミナー、商談会を通じて実施されている。現在は、佐渡、南魚沼、魚沼、燕、加茂の五つの自治体と連携を進め、1月7日からは「南魚沼の良いモノがたり」がスタートする。

1月7日から開催される「南魚沼の良いモノがたり」では、南魚沼産こしひかりや雪国の恵みでゆっくり熟成させたコーヒー、自家製南魚沼コシヒカリ米粉を使った新食感のプリン、名酒八海山の純米大吟醸粕に漬け込んだ「山家漬」など、南魚沼市ならではの魅力あふれる商品を販売

腰越さんが掲げる最終的な目標は「新潟県民がもっと新潟を愛すること」だ。新潟に暮らしながら、県内の優れたものや店を知らない県民は実に多い。そのために、県民自身がそれらの魅力に気付くという仕組みが必要になる。

「テレビなどで、地元の方々が自分たちの文化や食の話で盛り上がっている姿を見ると、『どんなものだろう?』と興味を持ちませんか?そういった姿が外からも興味を持たれると思うんです。自分たちの地域にあるものに誇りを持ち、誰かに伝えたいと思うような県内の盛り上がりが重要なのではないかと考えています」と腰越さん。

新潟県民が自分たちの地域に誇りを持ち、各ジャンルで推奨できる商品や場所を持つようになれば、その熱量は自然と中へ、外へと伝わる。県民自身の愛着が生み出す発信こそが、地域の活性化をもたらす力を持つというわけだ。

「地域に埋もれた魅力を掘り起こし、県民に知ってもらい、県民がそれを愛するようになれば、手土産や贈り物という形をはじめ、自然と県外の方々にもその魅力が伝わるはずです。そうなると経済も回り、地域も活性化するでしょう。そのためにも、やはりお客様の関心を捉えた売れるものをしっかりと作ることが大切です。当社もそうした商品をできるだけ多くそろえて、お客様に対して魅力を伝えて販売をすることが、百貨店としての責務だと考えています」

商品の販売を超えた地域との向き合い方が問われる今、新潟伊勢丹は県内唯一の百貨店として、この流れを作り出す。「NIIGATA越品」、そして「良いモノがたり」というショップとの取り組みは、その問いへの答えの一つでもある。作り手の能力を引き出し、県民の関心を高め、地域全体の魅力を発掘する。百貨店と地域の関係が、ここに新しい形を見出そうとしている。

新潟伊勢丹

南魚沼の良いモノがたり
●新潟伊勢丹1階越品  2026年1月7日(水)~1月13日(火) 最終日は17時終了

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