大学開学50周年の節目に新潟薬科大学から「新潟科学大学」へ 文系・理系の枠を超え新たな人材育成を 杉原多公通学長インタビュー

学長プロフィール:新潟薬科大学の杉原多公通(すぎはら たくみち)学長は愛知県の出身。高校時代の恩師ががんで亡くなったことをきっかけにがん治療の研究を志し、東北大学薬学部製薬化学科を卒業。大学時代には新潟県出身の同級生もいたことから、当時より新潟にはよく遊びに来ていたという。

「薬科大学」という枠を超える──2027年の大学開学50周年という節目に、新潟薬科大学(新潟市秋葉区)は「新潟科学大学」へ名称を改める。薬学を核に、看護や臨床検査、さらに農業・食品・バイオテクノロジーなどへ教育・研究領域を広げてきた同大学はさらに「救急救命学科」と「グリーン・デジタル学科」を新設。「文系×理系」の新たな学びを打ち出す。

大学名称変更に込めた思いと、次の50年を見据えた人材育成のビジョンを、同大学の杉原多公通学長に聞いた。

 

目次

○新潟を支える人材を輩出して50年──大学の歩み
○新潟科学大学へ──名称変更と新学科
○学生の将来で花開く「文系×理系」の大学
○これから医療を目指す若者たちへ──県内の薬剤師不足

 

新潟を支える人材を輩出して50年──大学の歩み

──まず、新潟薬科大学と新潟科学技術学園の歩みについて教えてください。

当学園は最初、自動車整備士を育成する北都工業短期大学(1968年設立 現・新潟工業短期大学)からスタートを切りました。そこで地域の様々な方から意見を聞いていくと、医療系の職種、特に当時は臨床検査技師の重要性が気づかれておらず、育成する機関がないという状況が分かり、新潟医療技術専門学校(1971年設立 現・大学附属医療技術専門学校)を立ち上げ、臨床検査技師科をスタートさせました。

その少しあと、新潟県及びその周辺県で薬学部がなかったことから、「医療の9割以上が薬を使うため、薬の専門家が必要になるであろう」と当時考え、新潟薬科大学が開学しました(1977年設立)。

新潟薬科大学・新津キャンパス(提供写真)

──大学の名称から薬学部など医療系のイメージがとても強かったので、薬科大と津南町が協力して「雪下にんじん」を活用するプロジェクトを知り、驚いたことがあります。

薬科大は長らく薬学部の単科大学でしたが、病気は病気になる前の「未病」の段階も非常に重要です。普段の食事や運動もちゃんとしていると、病気にかかりにくいですよね。なので、食事や食品に関することを研究する学部・学科を設けたほうがよいと考え、現在の応用生命科学部(こちらも「食農情報学部」へ名称変更を予定)ができました。

応用生命科学部だけは医療系の資格が取れない学部なのですが、その分、地元の企業や自治体と密接に関係して色々な研究を進めたり、商品開発をしたりと、医療系とはまた違う形で地域で必要とされる人材を育成しています。

 

──約20年前に薬学部は4年制から6年制に変わりました。なぜでしょうか?

近年は実践的な学びが問われるようになっています。4年制の頃の教育は「薬のこと」について教える教育でした。一方で、「薬をちゃんと使える」というのが6年制教育の柱です。例えば、現場では「その薬は副作用が出るから、こっちの薬に変えた方がいい」や「その薬よりも、多少副作用が出てもこっちの薬のほうが早く治せる」など患者のニーズに合わせて薬を選ばなければいけません。

一方で、現在はスマートフォンがあります。これまでは「1000種類の薬を全部覚えなければいけない」という教育でしたが、現在「そんなことはスマホに任せて、それよりも、糖尿病の患者本人に状態や考えを聞いて、それに合った薬を選ぶことが重要だ」と教えるように変わっています。つまり暗記ではなく、同種同効の薬の利点と欠点をそれぞれ把握して、それを患者のニーズに合うか判断できるようにならなければいけない。

昔の教育はそこまでは問われませんでした。しかし現在は、薬学だけではなく看護や臨床検査、救急救命など他のコメディカル(医師以外の医療従事者)もより実践的になっている傾向があります。

 

新潟科学大学へ──名称変更と新学科

2016年にできた新潟薬科大学・新津駅東キャンパス

──50周年になるこのタイミングで、大学名称の変更に踏み切ったきっかけを教えてください。

実は応用生命科学部を開設した約25年前にも、大学の名称を変えるべきだという議論がありました。2023年に医療技術学部看護学部を開設し、そろそろ「薬科大学」という名前には収まりきらない大学に発展してきたことで名称変更の機運が高まり、現在、創立50周年の記念行事の1つとして名称変更することを決断しました。

「科学」という名称は元々、学校法人としては「新潟科学技術学園」という名前であるというのが理由が一つです。一方で、これまで行われてきたエッセンシャルワーカーの育成も、「科学という視点」が不可欠です。「科学を用いてこの世の中を良くしていく」ような人材を新潟県に輩出し、新潟が大きく変わっていくよう期待を込めました。

 

──将来を考えている高校生、例えば「食材・農業関係の仕事をしたい」という人の目にも止まりやすくなりますね。

先ほど「雪下にんじんの取り組みが意外だ」という話がありましたが、名前を変えることで薬学部以外の学部学科も光ってくると考えています。薬学部が核であることは変わりませんが、大学としては医療系だけではなく様々な職種の人を育成し、新潟の発展に色々な形で助力したいと考えています。

同時に、新潟科学大学で「新科大」という略称ですが、「新しい」科学の大学としても売り出していけたらと思っています。さらに、50周年から次の50年へさらに「進化」を続けたいということ、そして新しいだけではなく「深化」して、学問領域を一生懸命深く探求し、その成果を新潟地域に還元していきたいという考えもあります。

新潟薬科大学は2027年、救急救命学科とグリーン・デジタル学科を新設する(写真は2025年夏のオープンキャンパスに出展していたブース)

──今回、救急救命学科とグリーン・デジタル学科が新設されますが、この2つを新設する理由を教えてください。

まず救急救命学科について。元々、専門学校で救急救命士の育成をしていましたが、医療の高度化に伴い、より多くの知識を必要とされるようになりました。救急救命学科に限らず、コメディカル人材の教育はできるだけ4年制大学にしていきたいという思いがあります。約10年前、学園全体で高等教育に集約していくという方針を理事会が決定し、その流れで看護学部や臨床検査学科も専門学校から大学化しています。

今回もその流れで、専門学校から1年伸びる分様々なことを学び、実践能力を養って社会に出てほしいと考えています。特に、救急救命士は患者の生死に関わる場面で働く人なので、判断を間違えると命に関わります。「患者がどのような薬を飲んでいるのか」「過去に飲んでいたのか」といった状況を見て、現在の状況を判断することも、特にファーストエイドでは重要です。

 

──グリーン・デジタル学科についても教えてください。

(AI時代において)AIを作っていく人と、AIをうまく使って実生活に活かしていく人の両方が必要になります。新潟は農業県なので、本学では農業関係や食品関係で後者の人材を育成したいと考え、応用生命科学部のなかにDX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を推進するような術を学ぶ学科をつくりました。AI農業の話をよく聞きますが、「マシンはあっても、使いこなせない」という話もよく聞きます。これをサポートできる人材を育成したいと考えています。

 

──「グリーン・デジタル」という名称ですが、農業に限らずDX・デジタル関連の広い進路があると思います。また、医療でもDXや、AIを駆使したビッグデータの解析がトレンドになっています。

機械と実生活を繋ぐような人材を育成したいと考えています。今、人材不足が深刻化しておりその一部がAIに代替されていますが、そうした社会でもAIを使いこなし、課題を解決できるような教育をしたいですね。

既存の学科の学生にも便利な知識なので、グリーン・デジタル学科の学生以外もこの授業を履修できるようにします。実際には資格試験などもあるので(他学科の授業の履修は)難しいかもしれませんが、門戸は開放しているので興味のある学生は受けてほしいですね。

 

学生の将来で花開く「文系×理系」の大学

杉原学長は、文理問わず様々な分野を学ぶ学生同士が交流することの重要性を説く

──テレビCMなどを拝見すると、「文系×理系」というのが新しい新潟科学大学のキーワードの一つになっているように感じました。

薬学などのコメディカルはメディカルサイエンス、応用生命科学部もアグリサイエンスで、科学が中心にあるのは間違いありません。しかし、応用生命科学部の生命産業ビジネス学科ではソーシャルサイエンスも学びます。そうした領域を増やしていくと、同じように授業を受けている学生も刺激を受けるようになるのではないかと思います。

かっちりと計算で考えるのではなくて、何かモヤッとした感覚的な分野もとても重要です。(医療系・科学系の学生にも)そうした感性を持ってもらいたいので、文系の学生も積極的に入れていきたいと思っています。どうしても「科学大学」というと理系の人に目がいくのですが、そうではなくて、文系の方々にも科学のテイストを感じてもらいながら、その感性で科学技術を発展させてもらいたい。それを大学としてサポートしていきたいと考え、「文系×理系」というキャッチを作りました。

 

──新学科に目が行きがちですが、既存の学科にも新しい授業や視点など、好影響が期待されますね。

大きな総合大学を含め、大学教育はこの2、30年、授業が縦割りになってきています。せっかく1年生や2年生の時にしがらみを持たず知り合えて、一緒に学びあえるはずなのに、サークル活動以外の教育はそうなっていません。しかし、文系も理系も混ざり合って刺激を受けあって勉強していくというのが重要なのではないか、と考えています。

それを実践するために、2027年度からのカリキュラムでは1年生の科目が全員共通化されます。同じ授業を色々な学科の学生が一緒に受け、一緒に喧々諤々やりながら宿題をやったりすると、文系とか理系の垣根を超えて物事を見る視野も広がります。こうした学び方ができる上限が500人ぐらいで、当大学の規模に見合っていると思います。大きな大学だと一学部だけでそれぐらいの定員になってしまいますので。

新潟薬科大学が津南町と協力して作った「雪下にんじんドレッシング」

──確かに、現代は学生も大学側も効率優先で「大学卒業の資格が取れればよい」といった雰囲気はありますね。

学生時代の友人とはとても長く付き合えます。しかも自分と同じ分野の仕事だけではなく、異業種に進んだ友人もいれば、まさに自分の人生の財産になります。例えば卒業して20年後、自分が働き盛りの頃に悩みを相談するのが同業者だけなのか、異業種にも相談できるのかではまったく状況が違います。様々なコネクションが若い頃にできると、20年後の世界が変わっていきます。

そう考えると、学生の将来のためにはやはり垣根を取り払って、文理混ざって一緒に学ぶ時期をなんとか設定したいという思いが強くあります。こうした機会を作ることができるのが大学だと思っています。

 

──企業では一般社員も経営の視点を持って仕事をすることが推奨されるようになっています。先ほどの「文系×理系」の話にも繋がりますが、コメディカルや農業・食品関連でもそういった視点が必要になっていくと思いますか?

なると思います。エッセンシャルワーカーは使われるだけの人ではなく、会社や病院の方向性を決める人材も必要です。そういった場面では、ビジネス感覚も必要になります。

個人の能力や個性に合わせてそうした分野も学べるようにし、教育機関はその場を提供するべきです。(縦割りで)何か仕切りを立てるようなことはしたくありません。様々な授業科目の中から好きなものを選び、その中で自分の方向性を探してほしいと思っています。

 

これから医療を目指す若者たちへ──県内の薬剤師不足

新潟県内の薬剤師不足について語る杉原学長

──新潟県内だと長らく医師不足が問題になっていますが、薬剤師の分野はいかがでしょうか?

県内は薬剤師も不足しています。大手の薬局に就職する学生が多いのですが、その大手も県内の店舗数は決まっているので、県外に配属されたり、就職後に異動で県外へ出ていく人もいます。しかし、一番深刻なのは病院です。病院で高度な薬物治療をしているにも関わらず、そこに薬剤師が足りないという状況になっています。

当大学の新卒では、薬局が8割、病院が2割ほどです。様々な原因がありますが、病院は予算的にもだいぶ厳しい状況があるので、たくさん人を採ることができない、採用の計画が立てづらい、という状況があります。また、薬局に比べて病院の採用計画は公表されるのが遅いことも要因の一つです。やはり学生としては早く就職先が決まらないと困るので「病院へ就職したいけど、まずは薬局で内定を決めよう」「病院の採用に空きが出来たら転職しよう」という人もいます。

 

──なるほど、構造的な問題もあるのですね。

日本では4月スタートのスクールイヤーが決まっていて、それに合わせて様々なことが動いていきます。海外では病院でも就職の時期が決まっていないので、そうした型にはまらない形になれば門戸は広がるかもしれません。

様々な要因があるので一朝一夕で解決できるものではありませんが、大学でも、病院で働くことのメリットを授業を通して伝えており、高度医療を担っていただけるような学生を育成することに力を入れています。近年も「絶対に病院で働きたい」という学生も増えてきているので効果は出ていると思います。

 

──今の学生や、これから医療系を目指して「新科大」への入学を考えている中高生へ、一言アドバイスをください。

コメディカルの仕事を目指す上で、「優しさ」は持っていてほしいと思います。この仕事は、人に接する仕事です。他人に対するいたわりの心は何よりも重要で、常に優しさだけは持っていてほしいです。

本学の卒業生は合計で約8,000人。学園が運営している学校全体だと2万人を超える卒業生がいます。その皆さんには新潟を好きになり、新潟が住みやすい街になるよう力を注いでいただければと思っています。

 

(インタビュー・撮影 鈴木琢真)

 

【関連リンク】
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