【トップインタビュー】新潟ヒロタカデザイン事務所・土田隆太郎社長 「本物のデザイン」を通して、100年先の新潟を豊かにする

新潟ヒロタカデザイン事務所の土田隆太郎社長

新潟市中央区に本社を構え、商業施設・医療施設・住宅・オフィスと多彩な建築デザインを手掛ける新潟ヒロタカデザイン事務所。創業57年のDNAは「広い視野と高い視座」であり、長年定評のあるデザインのみならず、性能や構造面の強化、人間工学の知見を取り入れた多角的なデザインで、業界をリードし続けている。三代目の土田隆太郎社長に、創業秘話から事業展開、その根底にある企業理念、現在の取り組みまでを聞いた。

 

三条の街を変えた酒屋の主人

新潟市中央区にある新潟ヒロタカデザイン事務所

同社の起点は、新潟県三条市にある。江戸時代から続く卸酒屋「ヤマニ」を継いだ創業者である土田社長の父・土田隆義氏は、文化や芸術への強い関心を持つ人物だった。中学生の頃には夜行列車を使い、一人で東京までシャンソンショーを観に行ったという逸話が残る。当時の東京は日帰りができるような距離ではなく、それだけ強い好奇心と行動力を持った人物だったことがうかがえる。

隆義氏はバーやレストランのオーナーに酒を卸す傍ら「東京ではこういった店が流行っている」と店づくりのアドバイスをするようになった。その助言をもとに手がけた店が三条市内で評判を呼び「ヤマニに頼めば繁盛する店ができる」という口コミが広がっていった。依頼が増えるにつれ、隆義氏は建築会社をつくることを決断し、1968年(昭和43年)にヒロタカデザイン事務所を創業した。

「父はさまざまなものを見てきた人で、東京で今流行っているお店の話をお客様にするのが好きだったようです。そこで工務店を連れてきて指揮を執り、できあがったお店が三条ではなかなか見たことのないようなものだったことから、次から次へと声がかかるようになったと聞いています」(土田社長)

ちなみに、社名の「ヒロタカ」は人物の名前ではなく、「広い視野と高い視座」という考え方から付けられた。「お父様の名前ですかとよく聞かれるんですが、そうじゃないんです。設計やデザインをする上で、広い視野と高い視座が大切だという父の思いを込めた名前です」と土田社長。探求心の強かった創業者らしい、会社の姿勢を端的に示す社名だ。

その後、二代目社長の大竹健一氏を経て、2013年に土田社長が三代目として就任。以来、店舗などの商業施設に加え、住宅・医療施設へと事業のバリエーションを広げながら、「本物のデザイン」を追求してきた。「本物のデザイン」とは、時の移ろいや流行の変遷に朽ちず、歴史に磨かれて輝きを増すものだと土田社長は定義する。

土田社長は社員を連れた東京視察も定期的に行っている。最新のオフィス環境、感動できる飲食店を訪れて「感動の質」を肌で学ぶことも仕事の一部と位置づけている

「そのためには、社員一人ひとりが感性を磨き続けることが前提になります。芸術でも食でも、ジャンルを問わず本物に触れることをライフワークにしています」と土田社長。サグラダ・ファミリアが設計から1世紀以上を経ても人を魅了し続けるように、一時代の流行に乗るだけでなく、普遍的な美的感覚と時代の最先端を融合させることを同社の理想としている。

 

創業時から培った商業施設の設計技術を多角的に展開

写真左からはつね寿司本店(新潟市中央区)、ぱんや徳之助(新潟市西区)

写真左からみらいクリニック南笹口(新潟市中央区)、Chareir Rendez-vous シャレル・ランデヴー(新潟市中央区)など店舗設計の実例

同社では近年、創業時から得意としてきた商業施設の設計をメインに、年間棟数を限定しながら住宅事業「+HOUSE」にも少しずつ行なってきた。事業展開において大きな転機となったのが2020年の新型コロナウイルス禍だ。飲食店向け商業施設の仕事が落ち込む中、赤道直下の温暖な国でも感染が広がるというニュースを受けて「長引く可能性がある。新しいチャンネルを作らなければ」と土田社長は判断。以前から口コミを中心に手がけていた住宅事業を本格的に立ち上げ、ホームページの整備やモデルハウスの建設に着手した。

「JAPANESE MID-SENTURY 」緑景と繋がる邸宅。建物全体を貫く水平ラインが、この邸宅に落ち着きのある品格をもたらす

「アルパインハウス」アルプスの山荘〈ヒュッテ〉を思わせる、落ち着きと力強い佇まいを住まいに重ねた

「新潟の歴史と生きる家」街並みに敬意を払いながら、外観は現代的な解釈による「蔵」を作意した

さらにウッドショックや資材高騰が続き、新築の住宅事業に影響が出る中で、リフォーム事業「+REFORM」も新たに立ち上げた。その根本にある考え方が、「デザインは構造の上に成り立つ」という土田社長の思想だ。

「デザイン性には自信を持っていますが、構造がしっかりしていて、断熱・気密の快適性が担保されてこそ、デザインが活きてくると考えています」と土田社長。同社は住宅の長寿命化にも力を入れており、制震ダンパーの導入もその一環だ。地震の揺れを吸収するこの装置を取り付けることで、大きな地震が来ても揺れを軽減し、建物の寿命を延ばすことができる。断熱性能についても、日本は欧米に比べて20〜30年遅れている部分があると土田社長は指摘する。現在の日本で最高水準と言われているものが、欧米では既に当たり前になっており、そういった建築の“現実”を知った上で、同社は設計に向き合っている。

リフォーム事業の実例

「私たちが目指すのは、欧米のような高寿命型の住まいです。欧米では親がしっかりした家を建てると、子世代はその家を受け継ぐ。だから子世代は別荘を建てる余裕ができて、孫世代は家にお金を使わなくていい分、趣味や旅行に使えるようになる。日本はスクラップアンドビルドを繰り返してきましたから、そういう豊かさの連鎖が生まれにくいように感じています。資産価値ある住まいを1棟でも多く作りたいのは、こうした思いが背景にあります」(土田社長)

「デザインは構造の上に成り立つ」という思想を語る土田社長

 

令和版オフィスは「働く人が主役のオフィス」へ

現在、同社が新たに本格展開しているのがオフィス事業だ。顧客からの依頼で以前から取り組んでいたが、今は積極的に情報発信を行なっている。

「背景には新潟の人口減少、若者の流出率全国ワースト3の常連であることなどが挙げられます。このまま30年が経過すれば、若者がいないワースト1位の県になるという試算も出ているくらいです。東京に行かなくとも、新潟で質の高い環境で働けるということを示すことが、我々にできる地域貢献の一つだと考えています」

土田社長が同社のオフィス事業で目指すのは「働く人が主役のオフィス」だ。机を並べるだけの従来の発想ではなく、動線の設計、カフェコーナーの配置、照明の色温度、香り、音、植栽のバランスまで、人間工学の知見を踏まえた設計を行う。さらに、エンゲージメントの向上、企業イメージの向上、社員の健康と福祉、コミュニケーションの促進、イノベーションの促進、リクルート効果という6つの要素を設計に組み込むことが、現代のオフィスには求められると説く。

D社のオフィス改装の実例。写真左からリフォーム前→リフォーム後

新潟ヒロタカデザイン事務所のオフィス改装事例。写真左からリフォーム前→リフォーム後

「空間の色が人に与える影響もあります。例えば、赤い部屋の空間では心拍数が上がり、時間の経過が早く感じられ、青い部屋では心が落ち着き、1時間が長く感じられるなど、実際に精神面にも作用します。上司と部下が1on1で行うミーティングも、ただ無機質な会議室で向き合うのと、適切な環境が整えられた空間で話すのとでは、お互いの満足度も引き出される内容も異なります。こうした知識を設計に組み込むことで、働く人の集中力やコミュニケーションが変わっていきます」と土田社長。

また、オフィス改装による生産性向上の効果にも着目している。エンゲージメントが上がると生産性も上がり、改装によって10〜14%程度の効率性が高まるというデータもあるという。人口が減っていく中で、一人ひとりのパフォーマンスを引き上げることが、地域全体の底上げにつながるというわけだ。

この知見は、57年にわたって商業施設・医療施設・住宅を手がけてきた経験とノウハウによるものが大きい。レストランでは心が躍るような高揚感を、医療施設では安心感や信頼感を、住宅では居心地の良さや家族とのつながりを、それぞれ追求してきた。オフィスはそれらの要素が全部詰まっている空間設計である。

社内には建築家 ル・コルビュジエのリトグラフが飾られている

「本物のデザインは、時の移ろいや流行の変遷にも朽ちず、むしろ魅力を増していくものだと考えています。建物だけでなく、会社の姿勢も同様です。どれだけ良いものを作っても、世の中に知れ渡らなければ宝の持ち腐れになってしまいます。スティーブ・ジョブズが自ら前に出て製品の良さを発信したように、経営者が積極的に情報を発信することが大切だと思っています。目に触れる機会があるなら、どんどん前に出ていく。それがこれからの姿勢です。変化を恐れずに常に最善を追い求め続けることが、本物であり続ける条件だと思っています」と土田社長。

会社のパーパスは「建築を通して100年先の豊かな新潟を作る」。同社ではオフィスの見学会やオフィスに関する無料研修会も予約制で開催し、今求められているオフィスとその役割について独自に発信している。住宅の高寿命化によって世代を超えた豊かさの連鎖を生み出し、商業施設のデザインで地域の商売を活性化させ、オフィス環境の改善で若者が新潟に留まれる職場をつくる。それぞれの取り組みは、一本の線でつながっている。

【株式会社新潟ヒロタカデザイン事務所】
新潟県新潟市中央区堀之内南2-19-14
TEL:025-243-2828
WEB:https://www.n-hirotaka.com/
オフィス見学会、オフィスに関する無料研修会(いずれも予約制)開催中

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