【入居者募集中】閉校小学校が最先端の生産拠点へ、新潟県新発田市に2つ目の市営シェアオフィス「キネス本田」がオープン 高機能キノコ・イチゴ室内LED栽培など新たな産業の芽

オープンを控え、改装が進む「キネス本田」(2026年2月撮影)
新潟県新発田市に3月27日、廃校を活用した新たなシェアオフィス「キネス本田」がオープンする。2022年10月に開設した市営のシェアオフィス「キネス天王」の兄弟施設となるこの施設では、高機能キノコ栽培 やイチゴの通年生産など、単なるオフィス提供にとどまらない、ユニークな事業がすでに動き出している。
「研究」から「生産・事業化」へ
2022年10月にオープンした1号店の「キネス天王」は旧市立天王小学校を改修したシェアオフィスで、多様な企業な入居し、市内のIT分野やDX、コンテンツ産業の推進・研究拠点として機能している。
今回オープンする2号店の「キネス本田」は、キネス天王で培われた研究成果を、実際の事業化やビジネス創出につなげる「実証の場」として位置づけられており、「新たなビジネスが生まれる場」という性格を持つ。
「当初から、二階堂馨市長は、『天王は研究を行う場、本田は事業化に繋げる場』という役割で構想してきた。今後は研究成果の発信や企業同士の共同事業を推進するため、これらのオープンイノベーションに対して、市と長岡技術科学大学が技術面と資金面で支援を行っていく。本田のオープンによってキネス構想の第2章が始動する」と市担当者は説明する。

キネス本田の基本の居室。教室を改装したオフィスは十分な広さがある

電子ロックと館内警備システムも完備。入居者は24時間出入り自由だ
地域に親しまれた校舎に、オフィスとしての新たな価値を

学校の雰囲気が残るクリーンな館内
キネス本田は2021年3月に閉校した旧市立本田小学校を活用。元教室の壁・床を補修し、電子錠を設置するなどオフィスとして改装しており、約25の部屋が設けられている。部屋ごとに広さや使用料は少しずつ異なるが、光熱水費込みで1室月額5万円前後から。
また、新発田市では近年、起業・創業、スタートアップのサポートに力を入れてきた。市の助成金や、商工会議所と連携した「創業塾」の開催を実施してきており、キネス天王にはIT、デジタル関連のスタートアップが現在4社入居している。キネス本田ではスタートアップ向けの安価でコンパクトなブースも用意しており、スタートアップ企業向けには賃料が通常の半額となる優遇制度も設け、少ない初期投資で事業を始めやすい環境が整えられている。
施設内は光回線を引き込み済み(プロバイダ契約は各社が自由に行える)。警備会社の警備システムを完備し、入居者は24時間入退室が可能となっている。リフレッシュのためのシャワー室や共用の会議室、体育館に加え、この地域で湧く良質な井戸水も使用可能だ(一部は要予約)。
体育館や理科室などは設備をそのまま残しており、こうした部屋では地域の子どもたち向けの夏休み実験教室イベントなどを開催していく予定だという。
また、入居企業にとっての大きな魅力の一つが、長岡技術科学大学や他の入居企業との交流、連携の機会を得やすいことだろう。天王には同学のサテライトオフィスが設けられているが、本田でもその学術的視点から入居企業の事業を支援していく。
これまでも年に1、2回、キネス天王関係者の懇談会が行われてきたが、今後は本田の入居企業も仲間入りし、大きなコミュニティになっていくことで、より活発な動きになっていくことだろう。

スタートアップ向けの小規模なブース
キネス本田の入居条件は、「IT、DX、スマート農業関連などの分野で、革新的な技術や先進的なサービスを活用した事業、研究を行う企業または個人であり、市外に本社を有する者またはスタートアップ(創業から3年未満あるいは創業予定者)」だという。
現在も随時、入居者を募集中だ。
地元のバイオマス資源を使った「高機能キノコ」

鹿児島工業高等専門学校教授の山内正仁氏(写真左)と、株式会社アイビーシステム最高顧問の若桑茂氏(写真右)
第1号入居者として注目されるのが、「キネス本田 高機能きのこ栽培事業コンソーシアム(仮称)」だ。この取り組みを進める若桑茂氏は、キネス天王に入居する株式会社アイビーシステムの最高顧問を務めており、「IT企業によるキノコ栽培」という異色の挑戦となる。
きっかけは、若桑氏がキクラゲの健康効果を知り、キノコ栽培の可能性を探り始めたことだった。そして、長岡技術科学大学の紹介で、機能性キノコを研究している鹿児島工業高等専門学校教授の山内正仁氏に出会い、本格的に研究を開始する。
山内氏とタッグを組み、地元の老舗酒蔵・菊水酒造から酒粕の提供を受け研究を重ねた。その結果、酒粕を栄養剤に混ぜて育成に使うことで、血糖値の上昇を抑制する効果が期待できるキクラゲの栽培に成功した。

キネス本田内の一室。今後、キノコ栽培に用いられる予定の部屋だ
現在はキクラゲに加え、ヒラタケやタモギタケの研究も進める。タモギタケは聞き慣れないが、強力な抗酸化物質を豊富に含み、ストレス緩和や認知症予防などへの効果が期待されているキノコだ。タモギタケには新発田市内のバイオマスを活用して栽培研究をしている。
ヒラタケとタモギタケのカリウム含有量を抑える研究も進めている。例えば、腎臓病患者はカリウム摂取を厳しく制限されているが、現在流通している低カリウム野菜や果物は価格が高く、継続的に入手することが難しい。低カリウムで栄養価・風味も高いキノコは医療・福祉分野での活用が期待される。
キネス本田ではまずキクラゲの栽培からスタートし、タモギタケとヒラタケの栽培へも展開していく予定。2026年冬の発売開始を目指す。出荷先は市内の道の駅や販売店、飲食店などから始める。また、キネス本田は県内屈指の温泉街・月岡温泉に近い。「湯治」と「健康食材」という組み合わせで、新たな地元の名物として売り出す形も期待される。

高機能キノコ開発の経緯を語る若桑氏

現在市場に流通するキクラゲは海外産が大半を占める。安全性や供給の安定性などを考えると、国産である点も重要だと山内氏は指摘する
閉校した地元の学校でイチゴ栽培、通年出荷へ

写真提供:新発田ファーム
もうひとつの入居企業として決定しているのが、新発田市内の農業法人「新発田ファーム」だ。こちらはキネス本田で、LED照明を使ったイチゴの栽培を始める。育てる品種は、同市発祥のブランドイチゴ「越後姫」だ。イチゴは収穫時期が冬から初夏に限られるが、室内での温度・環境管理を行うことで夏や秋にも出荷可能になる。
新発田ファームはキネス本田から車で15分ほどの場所に本社を構え、イチゴ・メロンの栽培を手がけ、グループ企業で農産物直売所を展開。キネス本田でのイチゴ栽培施設は、将来的には見学も受け入れていく構想があるという。
同社は「市内の月岡温泉に来られた方に、温泉や食を楽しんだあとにここへ立ち寄って見学してもらい、『昨日食べたイチゴは、こんなクリーンな部屋で作られたんだ』と最先端のアグリテックを体感してもらうようなツアーも考えられる」と構想を膨らませている。
温泉街から施設まで車でわずか5分という近さは、観光との連携においても大きな武器だ。新発田の新たな観光スポットの誕生に期待したい。
【関連リンク】
新発田ファーム webサイト
閉校小学校から生まれる新たな産業

キネス本田として地域とともに新たな歴史を刻んでいく
近年、全国各地で、増え続ける廃校を活用し、旅館などを運営する取り組みが増えている。新発田市はその潮流に乗りつつ、キネス天王を皮切りに地域と連携しながら新たなビジネスの種を生み出してきた。
キネス本田が誕生し、ここから生まれる成果やビジネスモデルが、どのように地域に還元され、市を盛り上げていくのか、今後の動向が注目される。
キネス本田は2026年3月27日オープン予定。入居に関する問い合わせは、新発田市商工振興
課まで。
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