【特集】30周年企業が挑む“地域共創” ベルナティオ×津南醸造、「大人のチョコダイヤモンド」に込めた思い

左から、津南醸造株式会社半戸高明さん、係長 統括マネージャー金子光子さん、株式会社当間高原リゾート調理部シニアコーディネーター板場文生さん、ゲストリレーション部支配人田村一樹さん。
新潟県十日町市のリゾートホテル「あてま高原リゾート ベルナティオ」と、新潟県津南町の酒蔵「津南醸造」が、両社30周年を記念したコラボレーションスイーツ「大人のチョコダイヤモンド」を開発した。プロジェクトは2025年6月ごろから本格的にスタートし、約10カ月かけて商品化に至った。
県内では日本酒を使ったスイーツや企業同士のコラボ商品は珍しくない。一方で今回の取り組みは、単なる“酒チョコ”にとどまらない。背景には、「地域と共に歩む」という理念や、地域全体で価値を発信していこうとする背景があった。
今回、ベルナティオを運営する株式会社当間高原リゾート ゲストリレーション部支配人の田村一樹氏、同社パティシエの板場文生氏、津南醸造株式会社の半戸高明氏、同社統括マネージャーの金子光子氏に話を聞いた。

30周年記念コラボ商品「大人のチョコダイヤモンド」
30周年を契機に、地域連携を形に

東京ドーム約109個分にあたる510ヘクタールの広大な敷地を有する「あてま高原リゾート ベルナティオ」。ホテル、温泉、レストラン、ゴルフ場、自然体験アクティビティなどを備え、2026年10月1日に開業30周年を迎える
──今回のプロジェクトの発起人は、ベルナティオの田村さんとお聞きしました。最初からスイーツを作る発想だったのでしょうか。
田村 きっかけは、30周年を迎える中で「お客様への感謝を何か形にしたい」という思いでした。ベルナティオの経営理念には「地域と共に」という言葉があります。当社単体ではなく、地域と一緒に30周年を表現したいという思いがありました。そんな折に、パートナー企業の津南醸造さんも2026年1月に30周年を迎えられると知って、「ぜひ一緒にコラボ商品を作れないか」と考えたのが始まりです。
最初は、日本酒を使ったスイーツを館内喫茶で限定提供する案もありました。ただ、それだと届けられる人数に限界がある。せっかくなら、より多くのお客様に楽しんでいただきたいと思ったんです。そこで、もともと当館でSDGsの観点から展開していた「チョコボール」と並べる形で、レストランでも提供することにしました。現在、ビュッフェレストラン「森のシンフォニックダイニング コスモス」で提供しています。

30周年記念コラボについて語る、発起人の田村一樹支配人(右)と、商品開発を担当したパティシエの板場文生さん(左)

同館で2017年に開発された人気スイーツ「チョコボール」。ケーキスポンジの切れ端やフルーツの端材など、本来廃棄される食材を活用したSDGsスイーツとして、現在も館内ビュッフェで提供されている
──津南醸造側は、最初に話を受けた時どう感じましたか。
半戸 正直、驚きました。ただ、以前から売店での販売や試飲会、酒蔵見学ツアーなどで関係性はありましたし、「これまでにない面白い取り組みになりそうだな」と思いました。
金子 30周年として何か企画を考えていたわけではなかったので、このタイミングでお話をいただけたことは嬉しかったです。弊社としても、これまで他社さんとコラボレーションをした経験がなかったので、これを機に何か新しい取り組みができるかもしれないという期待感もありました。
既存スイーツを起点に、新たな価値を開発

津南醸造の金子光子 統括マネージャー(左)と蔵人 半戸高明さん(右)
──「大人のチョコダイヤモンド」は、どのように形になっていったのでしょうか。
板場 津南醸造さんからは3種類のお酒「GO(郷) DOLCE」「GO(郷) VINTAGE」「つなん 白」をご提案いただき、それぞれのお酒で試作品を作りました。さらに、もう一歩踏み込んだものを作れないかと試作を重ねる中でたどり着いたのが、「お米を使う」という発想でした。チョコの中にお米を入れる形にも挑戦し、最初の試食会に臨みました。
半戸 3種類のお酒それぞれで作った試作品を食べ比べながら、チョコレートとの相性を確認していきました。それぞれかなり味わいが違いましたね。ドルチェは甘酸っぱさがありましたし、ヴィンテージは古酒らしいコクがありました。その中で「つなん 白」は、チョコレートに負けない香りがあり、バランスが非常に良かったです。
金子 最初は「お酒の風味がちゃんと残るのかな」という不安もありました。ただ、実際に食べてみると、しっかりお酒の風味と香りを感じたんです。さらに、中にお米の粒が入っていたことにも驚きました。食感のアクセントにもなっていて、チョコレートとの相性も良く、素直においしかったです。

今回の「大人のチョコダイヤモンド」に使用された津南醸造の純米大吟醸「つなん 白」。津南町産五百万石と豪雪地の超軟水を使用した日本酒で、全国新酒鑑評会金賞受賞のほか、IWC2025でもSilverを受賞している
板場 津南醸造さんとの試食会は本当に緊張しましたね。皆さんが丹精込めて作った日本酒なので、その味や香りをなくしてはいけないと思っていました。そして、中に入れたお米ですが、最初はブランド米「新之助」を使用していたのですが、半戸さんから「せっかくなら酒米も使えないか」という提案をいただいたんです。実際に「つなん 白」の原料にもなっている津南産の酒米「五百万石」を使うことで、より津南醸造さんらしさや、日本酒とのつながりを表現できるのではないかと考えました。
半戸 提案したものの、会社に帰って杜氏に話してみたら「酒造り用の米も不足している中で、本当に分けられるのか」という慎重な声もありました。津南醸造は、もともと五百万石の生産農家を守る目的で立ち上がった酒蔵でもあります。それだけに、酒米は特別な存在なんです。
ただ今回は、単なる話題性ではなく、地域の背景ごと伝える商品になるということを丁寧に説明しました。実際に試作品を食べた杜氏も、「しっかり、うちの酒の味わいを感じるし、とてもおいしい」と驚いていましたね。最終的には、「それなら意味がある」と理解してもらえました。
希少化する酒米「五百万石」がつないだ地域の物語

日本有数の豪雪地・津南町にある津南醸造。冬には深い雪に覆われる自然環境の中、雪解け由来の超軟水と地元産酒米を使った酒造りを行っている
──今回の商品には、酒米「五百万石」も使用されています。津南醸造にとって、酒米にはどのような意味があるのでしょうか。
金子 津南醸造は1996年に、JAや津南町、酒米農家などが中心になって立ち上げた酒蔵なんです。もともと「酒米農家を守りたい」という背景がありました。酒米は、食用米以上に管理が難しい部分があります。等級管理も厳しいですし、プレッシャーも大きい。今は五百万石を作る農家さんもかなり減っています。
板場 最初に食べた時、「これがどうやってあのお酒になるんだろう」と思いました。普段食べているお米より甘みも少なく、粘り気も違うんです。ただ、そのお米が「つなん 白」になる。その変化にすごく感動しました。最終的には、新之助と五百万石をブレンドする形に落ち着き、味わいとしてだけでなく、「地域の酒米を守りながら酒造りを続けてきた津南醸造さんの背景や思い」とも、より自然につながる商品になったと感じています。

「大人のチョコダイヤモンド」。チョコレートの中にミルフィーユ状に重ねることで、断面の美しさと、お米ならではの粒感や食感を楽しめる
田村 既存のチョコボールは丸型ですが、今回はアルコール入りということもあり、差別化が必要でした。そこで、採用したのが古来より成長を意味する「ひし形」。津南醸造とベルナティオ、十日町と津南という四辺が等しく共に成長していけるように、という思いを込めています。また、高級感も意識し、ダイヤモンド型にすることで特別感を表現しました。表面にかけたチョコレートソースのラインは、両地域をつなぐ存在として津南町と十日町市を流れる信濃川をイメージしています。
“点”ではなく“面”で地域を発信

ビュッフェレストランで提供中の「大人のチョコダイヤモンド」。土産物として商品化を望む声も上がっているという
──今回の取り組みには、「地域全体で価値をつくる」という考え方も感じます。
田村 そうですね。ベルナティオだけではなく、地域全体を魅力として感じてもらいたいという思いがあります。以前から津南醸造さんの酒蔵見学ツアーなども実施してきました。「宿泊」「食」「酒」「地域体験」を別々にするのではなく、一つの流れとして届けたいと考えています。点ではなく、面で地域を発信していきたいんです。
半戸 酒蔵単独では伝えきれない魅力もありますし、ホテル単独でもそういう部分はあると思います。地域の中で、それぞれがつながることで見えてくるものもある。今回の取り組みは、その一つの形なのかなと思います。
板場 今回、酒米や日本酒について改めて深く知る機会になりました。商品を作るだけではなく、その背景にある地域や人、生産者の思いまで含めて届けることが大事なんだと感じました。
金子 十日町や津南には、まだまだ知られていない魅力があります。地域の企業同士が一緒に発信していくことは、今後さらに大事になっていくと思います。
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地方観光を取り巻く環境が変化する中、企業単独での発信には限界も見え始めている。
今回の対談から見えてきたのは、ベルナティオと津南醸造が、単なる「企業同士のコラボ商品開発」ではなく、「地域全体をどう体験してもらうか」という視点で取り組みを進めていることだった。実際、今回の商品には、日本酒だけでなく、津南醸造の酒米「五百万石」も使用された。そこには、酒米農家とともに歩んできた歴史や、地域の背景まで伝えたいという思いが込められている。
またベルナティオ側も、館内だけで完結する商品ではなく、酒蔵見学や地域体験まで含めた“面”での発信を意識していた。
「地域と共に」という理念のもと、ホテルと酒蔵が互いの強みを持ち寄り、一つの商品に地域性や物語を織り込んでいく。今回の取り組みは、地域企業同士がつながりながら、「この土地だからできる体験」を再編集し、新たな地域価値を生み出そうとする挑戦の一つと言えそうだ。
(記者:新井まさみ)
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