【梅川リポート30】DXと高付加価値化で地域経済を動かす 妙高ツーリズムマネジメントの観光戦略

一般社団法人妙高ツーリズムマネジメントの馬場慎太郎事業部長(梅川康輝撮影)
新潟県妙高市の観光地域づくり法人(DMO)である一般社団法人妙高ツーリズムマネジメント(新潟県妙高市)が、デジタルトランスフォーメーション(DX)と高付加価値化を軸に地域観光の競争力向上を進めている。
インバウンド需要の回復を背景に、外国人宿泊実績は約14万8000人泊まで回復。その流れを受けて、妙高ツーリズムマネジメントは、国の補助制度を活用し、域内の宿泊事業者における高付加価値化の施設改修を実現させた。また、事業者においては、ゴンドラの搬器更新やキャッシュレス化の事業など、オーツシーズン型のマウンテンリゾートを目指し進みだしている。この地域事業者を巻き込んだ観光地経営は、「地域全体で稼ぐ観光」のモデルとして注目されている。
妙高市のインバウンド戦略は、長野・新潟両県が連携してオーストラリア市場を開拓したことから本格化した。現在もオーストラリアからの来訪者比率は高く、冬季には宿泊施設の予約が困難になる日もあるという。
宿泊需要は宿泊人数ではなく「人泊」で管理している。長期滞在型の旅行者が多いため、例えば1人が7泊すれば「7人泊」として集計する。この指標では、外国人宿泊実績は約14万8000人泊に達し、地域経済を支える大きな柱となっている。

妙高地域のスキー場はインバウンド効果で好調が続く
一方で、日本人スキー人口は減少傾向が続く。レジャーの多様化や円安によるインバウンド需要拡大を背景に、スキー場の料金も上昇している。他地域ではシーズン券が17万円台となる例もある中、妙高エリアでは共通シーズン券「Mt..MYOKO共通リフトシーズン券」を通常価格11万5000円、早期販売価格8万4000円で販売。バス乗り放題付きでは13万円前後となる。
この共通シーズン券は、インバウンド需要の増加を受けて、販売枚数が前シーズン比約1.5倍となり、購入者の約90%を外国人が占めている。ICゲートシステム導入によりICカードを携帯するだけで入場でき、バス乗車やスマートフォンとの連携にも対応するなど、利便性向上と運営効率化を実現した。
宿泊分野では、観光庁の高付加価値化事業の採択を受けて、約30事業者が施設改修に取り組み、補助金総額は約6億円に上った。客室を統合した高単価客室や露天風呂、サウナの整備、遊休施設の宿泊施設への再生などを進め、宿泊単価の向上を図っている。

日本百名山の火打山の麓にある高谷池ヒュッテ
日本百名山の火打山の麓にある高谷池ヒュッテの運営でも観光DXを推進している。電話予約中心だった宿泊予約をオンライン予約へ切り替え、24時間予約受付を実現。クレジットカード決済導入によりキャンセル料の徴収も確実となり、業務効率と収益性を改善した。さらに、日中空いていたロビースペースを活用し、カフェ営業やオリジナルメニューを展開し、宿泊者以外の日帰り客の需要の取り込みも図っている。
観光DXの推進と並行して、経営基盤そのものの強化にも取り組んできた。妙高ツーリズムマネジメントでは、収益事業の拡大を進めることで、自立した観光地域づくり法人への転換を図っている。冬季は共通シーズン券事業やスキー関連事業、夏季は山小屋運営やイベント運営などを収益の柱とし、年間を通じて安定した事業運営を目指す。
施設整備にとどまらず、大規模イベントに対しての配宿業務も行っている。代表例の一つが、信越五岳トレイルランニングレースへの対応である。同法人は選手や大会関係者を含め約1,600人規模の宿泊調整を担い、地域内の宿泊施設への配宿を一元的に行っている。大規模イベントを地域経済へ確実に波及させる仕組みを構築するとともに、宿泊施設の稼働率向上にもつなげている。
さらに、受託している指定管理施設における施設受付や宿泊受付での電話対応や予約管理など、従来は人手に依存していた業務をデジタル化やキャッシュレス化を図ることで、限られた人員でも効率的に事業を運営できる体制を整備してきた。観光需要が拡大する中でも業務負担を抑えながらサービス品質を維持する取り組みは、人手不足が深刻化する地方観光地における先進事例の一つといえる。
また、8月から9月かけて、妙高山麓で採れる「高原トマト」を活用した「お山のとまと食堂」では、約30社の旅館やホテル、飲食店、スイーツ店、カフェなどが参画し、一斉に「高原とまと」を提供し、食の地域ブランドづくりも推進している。飲食店や生産者を巻き込み、宿泊客が翌日の昼食まで地域内で消費する仕組みを整えることで、観光消費額をさらに高める考えだ。

赤倉観光リゾートスキー場スカイケーブル
今後は冬季だけでなく、グリーンシーズンの需要創出にも力を入れる。ゴンドラの夏季運行やマウンテンバイクのダウンヒル、ジップツアーなどに加え、地域周遊パス構想も検討している。観光ゴンドラや各種体験コンテンツ、展示施設などを共通チケットで利用できる仕組みを構築し、更なる滞在時間の延長による観光消費額の拡大を目指して行く。
妙高ツーリズムマネジメントは、スキー場や宿泊施設、交通事業者、飲食店、農業生産者、更に行政の枠組みを超えた司令塔として機能している。観光DXや高付加価値化の推進に地域連携を組み合わせた取り組みは、交流人口だけでなく観光消費額の拡大を目指す、人口減少時代の地方観光政策における一つのモデルケースとなりそうだ。
(取材・文 梅川康輝)