【梅川リポート34】糸魚川市の電子地域通貨「翠ペイ」、利用額1億8600万円 地域内循環へ次の一手

糸魚川市産業労働課産業政策係主査の縄英明さん

新潟県糸魚川市で、スマートフォンを使う電子地域通貨「翠(すい)ペイ」の利用が拡大している。2024年2月の開始から約2年半で会員は約4,800人、加盟店は259店となった。2025年度の利用額は約1億8600万円で、前年度の約7300万円から2.5倍を超えた。市民が自ら入金したチャージ額も、2024年度の約4000万円から2025年度は約1億1000万円へ増えた。行政の給付やキャンペーンを地域内消費につなげる仕組みとして成果が表れる一方、日常利用の定着、加盟店の拡大、チャージ残高の有効期限など課題も鮮明になっている。

翠ペイは、専用アプリに現金をチャージし、市内の加盟店で決済するプリペイド型の電子地域通貨である。店頭に掲示されたQRコードを利用者が読み取り、支払額を入力して決済する。通常はチャージ額に1%のプレミアムが付く。利用先を市内に限定することで、市外の大型店やインターネット通販などへ流れる消費を少しでも地域内にとどめ、地元事業者の売り上げにつなげる狙いがある。

導入の背景には、地域内経済の循環に加え、行政事務のデジタル化とコスト削減がある。従来のプレミアム商品券は、券の印刷や販売、加盟店による裏書き、回収、換金といった作業が必要だった。電子化すれば、キャンペーンの設定はシステム上で行うことができ、加盟店の売り上げは定期的に自動で振り込まれる。市側も、店舗別の利用額などをデータで把握できる。紙の商品券をデジタルに置き換えるだけでなく、消費動向を捉え、施策の検証に生かせる点が特徴である。

運営は市の直営ではない。市や地域の金融機関、商工関係団体などで構成するデジタル地域通貨の振興協会が担う。行政だけでなく、地域経済を支える関係者が共同で運営する仕組みとした。加盟店からは決済額の2%を手数料として受け取り、運営費の一部に充てる。市担当者は、他のコード決済でも2~3%程度の手数料がかかることを踏まえ、「持続可能な仕組みにするため」と説明する。システム利用料や事務費などのランニングコストがかかる中、利用額の増加は手数料収入の増加にもつながる。

決済額が1億円なら、2%の手数料収入は200万円となる。手数料をゼロにすれば加盟店は参加しやすくなるが、運営費を行政が負担し続けることになる。翠ペイは加盟店にも一定の負担を求め、制度の自走性を確保する考え方を採った。一方で、事業全体にはシステム利用料と事務費がかかる。自治体が電子地域通貨を導入する際は、地域内で生まれる消費効果と、継続的な運営コストの双方を見極める必要がある。市担当者は、県内で同様の取り組みが多くない理由の一つに、こうした費用負担を挙げた。

行政給付を地域内消費へ

市は翠ペイを、行政給付を地域内消費へ結び付ける基盤としても活用している。妊娠届の提出時と出産後にそれぞれ10万円を給付する事業では、各給付のうち5万円分を翠ペイのポイントで付与している。給付されたポイントは市内加盟店で使われるため、子育て世帯への支援と地域事業者への需要喚起を同時に図ることができる。2025年度には、住宅リフォーム補助金でも翠ペイを活用した。現金振り込みの一部を地域通貨に置き換えることで、公費が市外へ流出するのを抑える設計である。

行政課題への活用は消費だけにとどまらない。市は、一定期間、1日8000歩以上歩くなどの条件を満たした市民にポイントを付与する健康事業にも翠ペイを使っている。市民の行動変容を促すとともに、獲得したポイントを市内で使ってもらう。給付、健康づくり、消費喚起を一つのデジタル基盤でつなぐ試みである。

利用を押し上げたのが、プレミアム付与やスタンプラリーなどのキャンペーンだ。2025年に実施した買い回り型のスタンプラリーでは、1店舗の利用ごとにポイントを付け、5店舗を回ると5000ポイントを加算した。約1800人が参加し、予定期間を待たずに終了するほど反響があった。市は、普段利用しない店に足を運んでもらい、市内にある多様な店を知る機会をつくることを目的とした。加盟店からは、新しい客の来店につながったとの声が寄せられたという。

民間主導の活用が持続性の鍵

翠ペイの機能を民間主導の販売促進に使う動きも出ている。加盟店は自らの負担でクーポンやポイント付与を設定できる。市内の祭りに合わせ、駅前商店街が独自のスタンプラリーを実施した例もある。市のキャンペーンだけに頼れば、国の物価高騰対策に伴う交付金などの財源がなくなった際、継続が難しくなる。店舗ごとの販促や商店街の回遊策に活用が広がれば、行政支出に依存しない地域通貨へ近づく。市担当者は、事業者の成功事例が横に広がり、新しい活用法が生まれることに期待を寄せる。

行政と民間の役割分担は、翠ペイを一時的な景気対策で終わらせないための論点である。市は新規会員の獲得や大型キャンペーンを担い、加盟店はクーポンや独自企画で来店を促す。利用者が増えれば加盟店の売り上げ機会が増え、使える店が増えれば利用者の利便性も高まる。市担当者は「市だけでやってもうまくいかない。民間にも活用してもらう機運をつくりたい」とする。行政、加盟店、利用者のそれぞれにメリットがある状態を目指している。

日常利用の定着になお課題

一方、利用の中身を見ると、キャンペーン依存からの脱却が課題である。市が2026年3月27日から5月31日まで実施した利用者アンケートには1000件を超える回答があった。毎週1回程度使う利用者は約1割で、月1回以上使う利用者を含めても約3割だった。満足する点の首位は、お得なキャンペーンだった。通常時の1%付与は、クレジットカードなど他の決済手段との差別化になりにくい。キャンペーン時には利用が伸びても、終了後は使われにくくなる傾向がある。

スマートフォン決済が広く普及したことも、導入時とは異なる競争環境を生んだ。翠ペイには市内で使った資金が地域内に残る利点があるが、利用者にとっては、普段から使っている全国規模の決済手段に加え、別のアプリへチャージする手間が生じる。市担当者は、電子決済の普及が想定以上に早く進んだ結果、新たな決済手段として選んでもらう難しさがあるとみる。地域貢献という目的に加え、使える店の多さや特典、操作のしやすさといった実利が必要になっている。

ただ、価格面以外の価値も見えている。アンケートでは、翠ペイの利用が糸魚川市の地域経済への貢献につながると感じている利用者が約4割に上った。地域内循環という制度の目的が、一定数の市民に共有されていることを示す結果である。市担当者は「みんなで使い、持続可能な街にしていきたい」と話す。お得さだけでなく、地域の店を支える決済手段として定着できるかが今後を左右する。

日常利用を増やすには、使える場所の拡大が欠かせない。加盟店は飲食、小売り、サービス、クリーニングなど259店に広がった。子育て給付の利用先を増やすため、2026年にはベビー用品を扱う西松屋が新たに加わった。一方、利用者アンケートでは、大手スーパーやドラッグストアなど、日常的に買い物をする店舗への加盟要望が多かった。市内スーパーのハピーなどで利用できるが、チェーン系の大型スーパーの加盟は十分に進んでいない。

障壁の一つがレジ処理である。翠ペイは、スマホのアプリで使うアプリ会員だけではなく、スマホを使えない人でも利用できるようにカード会員というものも用意しており、会員数は圧倒的にアプリ会員の方が多いが、カード会員も一定数いるという。

また、決済方法については、店頭に表示される二次元コードを読み取る方法だけではなく、客のスマホに表示される(もしくはカードの)二次元コードを店側がタブレットなどで読み取って決済する二種類の決済方法がある。

大手小売店では、レジ側がバーコードを読み取って決済する方式が一般的で、既存の販売時点情報管理システムとの連動が求められる。レジ周りが煩雑になるとの理由から加盟に至らないケースがあるという。利用者が増えなければ店舗側の導入効果が見えにくく、加盟店が少なければ利用者も増えにくい。市は大型店への働き掛けを続ける。

もう一つの課題は、チャージした残高の有効期限が6カ月であることだ。利用者から期限が短いとの声が寄せられている。市は資金決済法との関係や、通貨の発行主体を含む運営体制を整理し、期限を延ばす方法を検討している。地域の金融機関や商工関係団体と共同で運営する理念を維持しながら、利便性を高められるかが焦点となる。

チャージ型の地域通貨は、利用者があらかじめ自分の資金を移す仕組みである。クレジットカードのような後払いではなく、入金額を超えて使うことはないため、使い過ぎを避けやすい。半面、残高が残ったまま期限を迎える可能性がある。市には、使おうとした時に残高が失効していたとの相談も寄せられた。期限の延長と日常利用の拡大は、預けた資金を安心して使える環境を整えるという点で結び付いている。

会員6000人、加盟300店目指す

市は当面、人口の15%に当たる会員6000人、加盟300店を目安とする。現在の会員約4800人は人口の約13%で、目標まで約1200人となる。2026年8月末までは、国の重点支援交付金を活用して実施した新規会員に1000ポイントを贈るキャンペーンを実施している。チャージ額へのプレミアムは通常15%とし、抽選で100人に15%を追加して最大30%とする企画も展開する。チャージ上限は10万円である。

利用額とチャージ額は伸びており、翠ペイは地域内で動く資金を可視化する段階まで進んだ。ただし、交付金を原資とする高率のプレミアムや行政給付だけでは、持続的な利用基盤とは言い切れない。問われるのは、大型店を含む生活圏の加盟店を増やし、毎週使われる決済手段へ変えられるか、さらに民間が販促基盤として使いこなせるかである。市担当者は「市民にも事業者にもメリットがあるものにしたい」と語る。開始から3年目に入った翠ペイは、行政主導の消費喚起策から、地域の事業者と市民が育てる経済インフラへ移れるか、次の段階を迎えている。

現在8月31日までキャンペーン中である

 

(取材・文・撮影 梅川康輝)

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