【シン経営者インタビュー】パール金属・高波久義社長/キャプテンスタッグ・高波洋介社長 ― 進撃のブランドイノベーションへ ―

三条市のパール金属本社
家庭の台所からキャンプ場まで。パール金属株式会社(新潟県三条市)の製品領域は、暮らしの内と外を横断する。
鍋やフライパン、調理小物、インテリア用品から、テント、バーベキューコンロ、自転車、カヌーまで。社名を意識していなくても、その製品を一度は目にしたことがある人は少なくないだろう。
パール金属は1967年、高波久雄、文雄兄弟によって設立された。「燕三条の優れた製品を全国に届けたい」という思いが出発点である。台所用品「マダムハイライン」シリーズのヒットを契機に販路を広げ、現在は売上高365億円、従業員数700人を擁する企業グループへと成長した。これは工業産地・燕三条を背景にしたコングロマリットと言っても過言ではない形だ。
競争力を支えているのは、燕三条の産業集積、全国の販売現場からニーズを集める営業網、機動的な意思決定、そして大規模な物流基盤である。同社によると、営業部門と企画・デザイン部門の連携によって、年間約2,000点のオリジナル製品を企画・開発。三条市内を中心に、総延べ床面積約7万2,000坪の物流施設を構えている。
1976年にはアウトドアブランド「キャプテンスタッグ」を立ち上げた。家庭用品で培った開発力を屋外のレジャー分野へ広げ、バーベキュー用品からテント、サイクル用品、カヌー用品までを扱う総合アウトドアブランドに育てた。2012年にはキャプテンスタッグ株式会社を設立。2026年、ブランド創設50周年を迎えた。
その翌年の2027年には、パール金属が創立60周年を迎える。二つの節目を前にした2026年5月、パール金属では高波久義氏が代表取締役社長に、キャプテンスタッグでは高波洋介氏が代表取締役社長に就任した。それぞれ創業兄弟の次世代にあたり、家庭用品とアウトドア用品というグループの二本柱を担う。
新たな経営体制の下で、何を守り、何を変えるのか。両社長に、次代の経営構想を聞いた。

左が高波久義パール金属社長、右が高波洋介キャプテンスタッグ社長
守るべきは「信用」
―― 今回の組織改編による「代替わり」は、60周年の節目の年に合わせたものなのですか?
高波久義社長 代表(久雄会長)はなんとなく意識していたようではありますね。先日、某新聞に会長のインタビュー記事が掲載されまして「(60周年に)なんとか間に合った」というニュアンスで書かれていましたから。
―― 一方で、新たな経営陣であるお二人は、60年のその先を考えていかなければなりません。これまでのパール金属が培ってきた「守るべき」もの、新たな成長のために「変えるべき」もの、その両方があると思います。まずは「守るべきもの」からお聞かせください
久義社長 「果敢なる挑戦」という言葉を、当社の標語としてあらゆる場所に掲げているのですが、パール金属のここまでの成り立ちと歩みを考えた時、今の会社の形は「挑戦」と「努力」の先にあるものです。「挑戦」をやめない姿勢は創業以来変わっていません。この先につなげるためにも「挑戦」と「努力」なのでしょうね。
「守っていくべきもの」という観点で言えば、それは創業以来築いてきた「信頼」「信用」になるのでしょう。これはお客様に対する信頼関係、仕入れ先である協力会社との信頼関係、社員との信頼関係など全てに当てはまります。

「守らなければいけないものは、信頼」と高波久義社長
―― 今、協力会社のお話が出ましたが、パール金属と言う会社の繁栄は、燕三条という工業産地が背景にあります。もしパール金属がここ三条市でなく、別の土地に拠点があったとしても成立したと思われますか?
久義社長 それは間違いなく、成立しなかったでしょうね。この会社は、燕三条で作られた製品を関東へ持っていき、売り歩いたところから始まっていますから。
現在の商品開発力を支えているものの一つが、開発のスピードです。それが可能なのは、製品を作ってくれるメーカーが近隣に集まっているからです。
「このような商品を作ってほしい。打ち合わせをしたい」と連絡すれば、近隣の企業であれば担当者がすぐに来られる。この立地には大きな意味があります。毎日のように本社へ足を運んでくれる会社も少なくありません。「うちの社員ではないか」と思うほど、いつも顔を合わせる協力会社の方もいます。
長年取引が続いている企業も多いですね。取引先を広く浅く増やすのではなく、一社一社との関係を深めることを大切にしてきたのだと思います。
―― パール金属では年間約2,000点のオリジナル製品を企画・開発しています。その開発速度を支えるものは何でしょうか。
久義社長 まずお話ししたように、作ってくれるメーカーが周りにたくさんあること。そして何か新しいことをやる時に、決裁のスピードが他社に比べて早いこと。
それと常に100人以上の営業マンが全国の販売店を飛び回っていて、それぞれのバイヤーと会い、「こんな商品が作れないか」というような要望を吸い上げて商品開発のヒントにできることも大きいですね。
あとは「やる気さえあれば、たいていのことはやらせてもらえる」という社風だと思います。自由度が高く、発想があれば商品化してみよう、というような考えでしょう

「失敗を恐れずに商品開発していくこと」と高波洋介社長
マーケットインに、プロダクトインを重ねる
―― これはキャプテンスタッグの洋介社長にもうかがいたい。「失敗はしても良い」という哲学があるのですね
洋介社長 今までも第三者目線で見れば「失敗だったのでは」というものは山のようにあります。すぐに廃番になった商品なども数多い。全部失敗では困りますけど、その中からいくつかヒット商品が生まれれば、まあ良しとしよう、という。
ただ、基本的には「作った分を売り切ってしまえば失敗ではない」と考えると、製造ロット分は売り切ってしまえば完結するので。やっぱり商品あっての話で、商品を作り続けてきたからこそある会社だと思いますね。新しい商品を生み出して、またそれを深ぼりしたり横に展開したり。
―― そうした中で、パール金属の商品開発の考え方は圧倒的に「マーケットイン」が多いと聞きます。先ほども久義社長がお話しされましたが、全国の顧客から声を拾い上げて開発の源泉にしていくという。この考えもまた、次世代に引き継いでいかれるのでしょうか
久義社長 基本的なところは変わらないと思いますね。ただこれからは、ある程度プロダクトインの考え方も必要だと思っているのです。
パール金属の製品は全国で販売されていますが、「パール金属」という会社の名前は、意外に知られていません。キャプテンスタッグについては、ブランドが浸透してきたという実感があります。一方、パール金属本体は商品領域があまりにも広く、「パール金属といえばこれだ」と端的に示せるものがありませんでした。そのため、企業としてのブランディングが進みにくかったのです。
これからは商品を売るだけでなく、パール金属という社名やブランドの価値を伝えることにも力を入れていかなければなりません。それが、今後のパール金属に求められる変化の一つだと思います。

「商品を知っている」を「会社を選ぶ」へ
―― パール金属が打ち出しているブランディング戦略について教えてください
久義社長 3年前に「ブランドイノベーション事業部」を立ち上げまして、新たにマーケティングの専門家も招聘して取り組んでいます。
―― キャプテンスタッグのブランドを長年育ててきた洋介社長は、パール金属本体のブランディングをどのように見ていますか。
洋介社長 ブランディング戦略の起点は学ぶところからです。当社が総代理店をしている海外製品の「コレール」や「パイレックス」などは、ブランド力が確立していますから、彼らの「売り方」をしっかり研究して精査し、それを「Pマーク」(パール金属のロゴ)の方に活かそうと。代理店としての機能をしながら、学ぼうという戦略ですね。
今、力を入れているのはレシピ動画メディア「DELISH KITCHEN(デリッシュキッチン)」(月間動画再生回数6億回以上、ユーザー数約2000万人の国内No.1レシピサイト)とのコラボによる商品開発です。「デリッシュキッチン」×「Pマーク」ですね。このブランドでオリジナル商品を作って展開している、というのがパール金属としてのブランディング戦略のスタート地点です。

国内ナンバー1のレシピメディア「DELISH KITCHEN(デリッシュキッチン)」とのコラボ商品群

パールライフ オンラインショップより
―― これらに加えて、2025年からは新たなスタイルの直営店も展開し始めました。これまではアウトドア専門店の「WEST」のみでしたが、三井アウトレットパーク岡崎(愛知県)に「HOME&FIELD FACTORY STORE 」がオープン。「家庭用品」と「アウトドア用品」を両方揃えた店舗です
久義社長 2026年5月には滋賀竜王店もオープンし2店舗となりました。私もオープンの際に行って、お客様に話を聞いたりしたのですが、やはり「Pマーク」に見覚えはあるのですよ。「ウチにもこのフライパンあります」というような。そこをもう少し意識づけして「パール金属だから買おう」へと誘導したいところですね。
―― デリッシュキッチンとのコラボ商品が、ブランディング戦略の橋頭保になりそうですね。結びになりますが、お二人による「次世代経営チーム」は、ここまでの手ごたえはいかがですか
久義社長 おおまかには家庭用品部門とアウトドア部門で役割が分かれてはいますが、会社運営全体で考えなければいけないことはお互いに協力しながらやっていこうと思っています。
洋介社長 ちょうどよい関係性ですね、いとこ同士というのは。これが兄弟だとぶつかりそうですね(笑)この会社は家庭用品とアウトドアという二本の柱があるので、ちょうど役割も分かれますし、わかりやすいのが良いですね
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家庭用品とアウトドア用品。二本の柱を創業兄弟の次世代がそれぞれ担い、グループとして束ね直す。
守るのは、燕三条の産業集積と、顧客、協力会社、社員との間で積み上げてきた信用である。一方、変えようとしているのは、その価値を市場へ届ける方法だ。
パール金属が次の60年で問われるのは、膨大な商品を「売れるもの」として供給する力を、「この会社だから選ぶ」というブランド価値へ転換できるかどうかである。新たな経営体制の真価は、そこに表れる。
(文章・写真 編集部 伊藤 直樹)