連載 新潟の農業 活性化の処方箋は園芸にあり 第6回「農業大国に回復に向けた新潟の取り組み」

西区赤塚に整備された園芸団地

農業大国でない新潟県

コシヒカリや「新之助」を有する新潟は、東北の日本海側の県(青森、山形、秋田)や隣の長野と比べても農業大国である――。こう考える読者は少なからずいると思う。だが、この連載の第1回でも取り上げた通り、新潟大学名誉教授の伊藤忠雄氏が検証した結果によると、これは間違いである。

伊藤氏が農水省のデータなどを基に作成した2つの表によると、たしかに米の生産額では、新潟県はダントツにトップだ。しかし、農業全体の産出額を見ると、新潟県の2,388億円に対し、青森県は3,068億円、長野県は2,420億円と新潟県を上回っている。山形県も2,282億円と新潟県とほぼ同額なのだ。

青森、山形、長野が05年から15年にかけて農業産出額を伸ばした一方で、新潟と秋田は農業産出額を落としてしまった。新潟や秋田が生産額を落とした理由は「(価格の下落傾向が続く)コメ単作から脱却し、(付加価値の高い)園芸にかじを切ることができなかったことが大きな原因」(伊藤氏)という。
これに対し、周辺県は、高付加価値な園芸を拡大し農業産出額を伸ばしてきた。例えば青森県では、園芸拡大を推進してきた結果、15年時点で50億円以上の産出額がある品目を12品目も抱えるまでになっている一方、稲作単一経営比率も32%と低い。「第3次農林水産業元気再生戦略」を推し進めている山形県でも、以前から園芸を推進。50億円以上を超える品目は9品目あり、稲作単一経営は46%となっている。これに対し、新潟県では稲作単一経営の比率が858%と高く、米価下落などの影響をもろに受け、農業産出額が縮小してしまったのだ。

秋田県も、新潟と同様にコメ単作からの脱却に乗り遅れた。だが14年から15年にかけて農業産出額は増加に転じている。背景には、知事が先頭になり、14年から園芸メガ団地(大規模な園芸産地)の育成事業に乗り出し、“コメの一本足打法”からの脱却を加速しているのだ。具体的には秋田県が2分の1、地元市町村が4分の1、JAなどの農業団体が4分の1を出し、JAなどの農業団体が主体となってハウスや設備を建設する事業を始めた。

「新潟市高収益園芸農業支援プロジェクト」チームを発足

こうしたなか、新潟市議会議員の佐藤幸雄氏は、一昨年の9月、新潟市議会の特別委員会「農業活性化調査特別委員会」において伊藤氏の話を聞き、新潟の農業生産額が“一人負け”の状況であるという話を聞いて愕然としたという。佐藤氏は、14年前に発足した農業活性化調査特別委員会の初代委員長を務めたほか、現在、新潟市農政議連の会長を務めるなど、長く農業活性化に尽力してきた。佐藤氏「農業の活性化に頑張ってきたつもりだったが、新潟県では15年間、ずっと下がり続けていて、それも下がり続けているのが新潟県だけだった。その衝撃的な事実を知らされ、驚愕した」と振り返る。同時に、もっと新潟市でも園芸を振興していかないと、後継者や若手生産者を呼び込むことができず、持続可能な農業を構築できないと危機感を抱いたという。

伊藤氏の話を聞いたその年の12月に佐藤市議は、毎年、農業活性化調査特別委員会で意見交換している関係者(市内にある4JA=農業協同組合、6農業委員会、7土地改良区)に集まってもらうとともに伊藤氏を招いて講演会を開催した。参加者たちも、うすうすとは気が付いていたが、データに基づいた「新潟県が農業衰退県」であるという話を聞き、よりいっそう新潟の農業に対し危機感を抱くようになったという(また同じ頃、伊藤氏も市長と面談し新潟農業の深刻な現状について話をしたという)。

これを受け、その勉強会の場において参加者で『新潟市高収益園芸農業支援プロジェクト』チーム(代表は、当時、新潟市農業協同組合代表組合理事長だった坂井一郎氏、顧問は伊藤忠雄氏)を立ち上げた。

翌年1月には早速、県知事、新潟市長に、秋田モデルの園芸ハウス整備事業費を新年度予算に計上することを要望した。園芸ハウスなどの建設費を県が2分の1、市が4分の1負担するという事業で、ハウスの建設者(JAなど)は残りの4分の1を負担すれば、ハウスを建設できることから、この事業が実現すれば、新潟市でも一気にメガ産地化が加速することが予想された。

「新潟市高収益園芸農業支援プロジェクト」チームが県に提出した要望書

ただ、これまで県と市が同じ事業に同時に補助金を出すということがなかったという。しかし、この“ハードル”を必死の要望で乗り越え、早くも新年度には事業化できた(新潟市の事業は、園芸活性化事業「新たな園芸産地づくり支援」で予算額は1億円)。

当時の篠田昭市長は、この園芸活性化事業を含む新年度予算を審議する平成30年度2月定例会本会議の中で「元気な新潟市農業を推し進めるための園芸元年となるよう、新潟県や農協、地域の農業者とともに取り組んでいきます」と答弁した。じっさい、これまでの園芸振興の遅れを取り戻すかのように、事業が予算化されて以降、新潟市内では、西区赤塚に20棟、北区南浜に21棟、西区内野に28棟建設された(※今年度も西蒲区角田浜に建設予定)。また枝豆の自動収穫機、選別、箱詰めなどを自動で行う選果場なども整備され、新潟市の園芸を取り巻く環境が大幅に変わった。

一方、「生産だけでなくだけでなく、出口(販路)戦略も重要である」と佐藤市議は話す。具体的には、他県を含む直販所での販売強化、輸出強化、加工品の生産などをあげ、こうした課題にも取り組んでいきたいと意欲を見せていた。

新潟市議会議員で、新潟市農政議連会長の佐藤幸雄氏

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