「上越の町並みにボンネットバスが走った日」えちごトキめき鉄道株式会社 代表取締役社長 鳥塚亮

えちごトキめき鉄道ではコロナの出口が見えてきたゴールデンウイークに、直江津D51レールパークを中心に昭和のボンネットバスを走らせました。

直江津D51レールパークは国鉄形急行列車とSLのD51を動く状態でお楽しみいただこうというコンセプトで2021年4月に開園し、年間1万人以上の皆様にご来園いただいている人気スポットです。時代考証としては大阪万博が開催された昭和45(1970)年から、国鉄線上からSLが消えた昭和50(1975)年の5年間にスポットを当てて、当時の雰囲気をお楽しみいただこうと考えていますが、その当時を思い出すと切っては切れないのがボンネットバスということで、私の友人が所有する昭和39年製のボンネットバスを借りて、体験乗車をしていただいたものです。

 

なぜ、ボンネットバスなのか?

新潟県上越市高田地区を走るボンネットバス

上越市の中川市長が掲げる観光のテーマに「通年観光」があります。この通年観光というのがどうも皆様方にご理解いただくのが難しいように私には見えますが、通年観光に対する言葉としてはイベント観光があります。

イベント観光はご存じの通り、お祭りを開催して観光客にいらしていただくもので、東北4大祭りや京都の祇園祭など全国各地にあります。では、なぜイベント観光ではなく通年観光かというと、イベント観光はわずか数日です。その間だけ観光客が町中にあふれかえりますが、それが終わるとシーンとしています。

昨今では観光というのは一つの立派な産業であり、地方都市がこれからの時代を生き延びて行くためには観光が一つの柱になるというのが常識になっています。そういう時にわずか数日だけ人がやってきて、それが終わったらシーンとしているのでは残りの360日、どうして稼いでいくのですか? というのが、中川市長さんが通年観光を唱える意味だと私は考えます。

では、年がら年中観光客があふれかえるようになるとどうかと言えば、毎日がお祭り騒ぎになりますから、地域の人たちは疲弊してしまいます。つまり、受け入れるキャパが小さい町には、通年観光と言っても、ふだんの生活の中で程よい数の観光客にいらしていただく道を探る必要があるのです。

そこで私が考えたのが町の中にボンネットバスを走らせてみたらどうか、ということです。えちごトキめき鉄道沿線の直江津、高田、新井といった町並みはしっとりとした風情があり、都会人が好む景色がそこかしこにあります。ただ、現状の古い町並みだけでは見せ方としては今一つなので、そこにボンネットバスを置いてみたら町並みそのものがもっと引き立って、画像を発信していくことで都会の人たちに注目していただけるのではないか、というのが、私がえちごトキめき鉄道の社長として考えて実施したことです。

写真をご覧いただければ、高田も新井も二本木も、ボンネットバスを1台置いてみるだけでぐっと引き立つことがお分かりいただけることと思います。実にわかりやすいコンテンツ。それが昭和のボンネットバスなのです。

 

上越に可能性はあるのか?

電車と並ぶと、ぐっと引き立つ

観光地としての可能性のお話しです。

私は東京生まれの東京育ちで、上越に来て4年になります。その私の目から見たら、上越は神奈川県の鎌倉と同じように見えます。鎌倉と言えば、今では何のイベントをしなくても毎日のように観光客が大勢来るところですが、私が子供の頃、昭和40年代の鎌倉は遠足の小学生や修学旅行の学生が行く程度で、観光地としては人気がない所でした。皆様ご存じの江ノ電という電車がありますが、今では鎌倉のシンボルと言われているあの江ノ電は、昭和40年代には赤字に悩む廃止対象路線だったのです。

その鎌倉が、ある日突然、若者たちのあこがれの場所になりました。そのきっかけはテレビドラマです。
当時はテレビの全盛時代。60歳以上の方でしたらご記憶だと思いますが、鎌倉を舞台にした青春ドラマが大ヒットしたのです。

後に千葉県知事になられた森田健作さん主演の剣道のドラマでしたが、剣道着を着た主人公が海岸線を走る。その後ろを江ノ電の電車が通っていくシーンが毎週毎週テレビで放映され、わずか1年足らずで鎌倉は若者たちが押し掛ける場所になったのです。

私は今高田に住んでいますが、ここ高田の町も、何かのきっかけで鎌倉のように大ブレイクする。そういう可能性が私には見えるのです。

もちろん、ここは歴史の町ですから、正統派的には上杉謙信で行きたいところですが、上杉謙信というのは何百年も前の話ですから、すでに上杉謙信や春日山をお目当てに来ている人は来ているのです。これを顕在顧客と言います。すでに興味を持っていただいていらしていただいているお客様です。

その顕在顧客だけではどう見てもこれから観光でこの町が生きて行くには足りないと私は思います。であるならば、新規顧客を開拓しなければなりませんね。つまり、まだいらしていただいていない未来のお客様にどうやっていらしていただくかということを考えなければなりません。

まだいらしていただいていない未来のお客様のことを潜在顧客を呼びます。
今、上越に必要なのはどうしたらこの潜在顧客を顕在化していくのかということなのです。

昭和の時代はテレビが全盛でした。テレビドラマに取り上げていただくことが一番手っ取り早い方法でしたが、それは50年も前の方法です。今の時代はネットでの口コミであり、画像や動画をどうやって興味ある人たちにお届けするかが問われています。そして、その方法であれば大きな予算も必要ありませんし、時間もかかりません。

「おっ、すごいな。」「行ってみたいな。」と思っていただけるような写真をインターネットで拡散することで、極端な話、次のお休みには皆さん来てくれる。今はそういう時代なのです。

今回はえちごトキめき鉄道が直江津D51レールパークのイベントとしてボンネットバスの体験乗車を行いましたが、これは一つのきっかけにすぎません。

町の中をバスを走らせることはえちごトキめき鉄道の仕事ではありませんが、こういう方法が有効であるという事例をお示しさせていただきましたということになります。

あとは、地域の皆様方がどう考えて、中川市長さんが提唱されている通年観光というものをどうやって自分たちのものとしてやっていくか。それは地域の皆様方がどうしたいのかということになると思います。

つまり、上越地域の将来の可能性をどうやって引き出して発展させて行くのかは、地域の皆様方にかかっていると私は考えています。

ぜひ、10年後は鎌倉を凌ぐほどの都会の若者たち、あるいは海外の人たちの憧れの場所になってほしいなと私は考えています。

 

鳥塚亮

1960年東京都生まれ。明治大学商学部を卒業後、外資系航空会社に就職。2009年に公募でいすみ鉄道社長に就任。2019年、公募でえちごトキめき鉄道の社長に就任。鉄道に関する著書も2冊ある。

 

【過去の連載記事】

「新潟ワンダーランド」(えちごトキめき鉄道社長 鳥塚亮)

「ありがたや、上越新幹線 上越新幹線開業40周年で思うこと」えちごトキめき鉄道社長  鳥塚亮

「新潟は航空の過疎地という現実 」えちごトキめき鉄道株式会社 代表取締役社長 鳥塚亮

「えちごトキめき鉄道のダイヤ」 えちごトキめき鉄道株式会社 代表取締役社長 鳥塚亮

こんな記事も

 

── にいがた経済新聞アプリ 配信中 ──

にいがた経済新聞は、気になった記事を登録できるお気に入り機能や、速報などの重要な記事を見逃さないプッシュ通知機能がついた専用アプリでもご覧いただけます。 読者の皆様により快適にご利用いただけるよう、今後も随時改善を行っていく予定です。

↓アプリのダウンロードは下のリンクから!↓