【特集】新潟の農業を守る最前線に 新潟食料農業大学卒業生、三条農業普及指導センター入庁2年目の森谷太樹さん

森谷太樹さん

4月下旬、新潟県加茂市の農園でナシの木へ真剣な眼差しを向ける若者がいた。森谷太樹さん──三条地域振興局農業振興部(三条農業普及指導センター)入庁2年目の新人職員だ。森谷さんは中学生の時に果樹に興味を持ち、新潟食料農業大学(新潟県胎内市)へ進学。そこでの恩師との出会いも経て、現在の仕事に就いた。

そして現在、重要な仕事の一つが西洋梨の病害の防除だ。実は今、県の特産品「ル レクチエ」の農家はセイヨウナシ褐色斑点病などの被害に悩まされている。病気の防除含め、果樹農家には大変な作業も多い。「農作業を省力化して、高収益な営農ができるような体系づくりに関わっていきたい」──農業の人手不足が深刻化している現代、現場の最前線に立つ若者を追った。

 

目次

◎中学校での職場体験と、大学での恩師との出会い
◎生産者をサポートする仕事へ
◎県の特産品を守る最前線で

◎学校情報

 

中学校での職場体験と、大学での恩師との出会い

東北地方とはいえ太平洋側の出身。胎内市へ移り住んで、雪の多さに最初は戸惑ったと笑う

森谷さんは福島県福島市の出身。果樹に興味を持ったきっかけは、中学2年生の頃の職場体験だった。

「当時、県の果樹研究所へ職場体験へ行きました。1週間、月曜日から金曜日まで学校へは行かず、研究所で果樹の病気について学んだり、畑にいる虫を調べてそこから分かることをプレゼンしたり……」と森谷さんは振り返る。中でも特に興味を抱いたのが、品種改良の仕組みや考え方についてだった。

「将来、果樹に関する仕事がしたい」。そう決心して高校卒業後に選んだのが、新潟食料農業大学だった。同学は食と農の分野に特化した単科大学だが、生産だけでなく加工、流通、販売までを網羅し「食の総合大学」を標榜する。また、実学や実践的な学びを重視し、農場での実習のほか、農家や研究機関と連携した取り組みも特徴だ。

そして大学在学中に出会ったのが、松本辰也教授だった。松本教授は県職員として農業総合研究所園芸研究センターで約30年間、果樹の育成方法や新品種の開発に携わってきた、まさに森谷さんが中学時代に憧れた道を歩む人だった。

松本辰也教授

「大学のモットーは『現場に直結する研究』ですが、彼はそれを実践していました」と、松本教授は当時の森谷さんについて語る。森谷さんは大学4年時、和梨の新品種「新碧(しんみどり)」について、農薬の影響や栽培の省力化といった現場の作業に直結する研究を進めた。なお、森谷さんが残したデータは後輩たちに引き継がれ、現在も研究が進められている。

新潟食料農業大学内の農場施設

果樹の摘果について説明する松本教授

同大学では1年時は実際に農作業を体験する。また2年時に「アグリ」「ビジネス」「フード」の3コースに別れるが、一部の授業はコースの垣根を超えて学ぶ。研究者としてだけではなく、生産者や経営者、食品加工などの広い視野を持てることも特徴だ。「よく授業で先生方が『畑から食卓まで』とおっしゃっていた。他の農業系の大学よりも、広く勉強できた」と森谷さんは話す。様々な分野の人と関わる県職員だからこそ、そうした経験は活きるだろう。

 

生産者をサポートする仕事へ

三条地域振興局の事務所で働く森谷さん 普及指導員は農家への技術指導や農園の調査など、現場に出ることも多い

森谷さんは大学卒業後、恩師の背中を追い県職員の道を選んだ。現在の仕事は主に、果樹の生態や生育状況などに関する調査。そして、その情報を農家へ提供し、農業技術や経営の改善などを行うことである。

具体的に言えば、剪定に関する技術の指導会の開催や、現在発生している病害虫の被害調査、そしてその対策を農家に情報提供することなど様々だ。担当エリアは主に三条市、加茂市、田上町。同地域はナシやモモなどの一大産地で、特に西洋梨「ル レクチエ」は県の推進ブランド品目にも認定されている特産品。やりがいとともに、その責任も大きい。

また、新規就農者や若手農家の支援も業務の一つ。「今は地域の4Hクラブ(20から30代の農業者が集まるクラブ)の担当をしています。若い生産者が抱える課題の解決のサポートをしていますが、自分もまだ2年目なので、一緒に勉強している感じですね」(森谷さん)。

左から、大久保宇啓課長代理、日水亮太普及指導員、森谷さん

インタビューでは謙遜気味に話す森谷さんだが、職場での信頼は厚い。「果樹に関する知識はあるし、仕事の飲み込みも早い。話していて、本当に新人? と思いますよ」と笑うのは、森谷さんの上司である大久保宇啓課長代理だ。「大学で松本教授に師事していたこともあって、やはり果樹への興味がほかの人とは違う。まさに即戦力だった」という。

先輩の日水亮太普及指導員も「普通は1年目は、なかなか仕事の進め方も分からないし、そもそも大学で学んだ専門的な知識と、現場で普及員として農家さんに指導する時の知識は少しズレていたりすることもある。でも森谷さんは普及センターの資料で勉強しながら、指導にあたっているので、1年目から非常に優秀な仕事ぶり」と評価する。

二人は、森谷さんを優秀な職員として評価し「これから入ってくる新人の指導やサポートにも注力して、自分の成長と後輩の成長、両方を目指せるような普及指導員として進んでいってほしい」と期待をかける。

 

県の特産品を守る最前線で

加茂市の農園で「ル レクチエ」を観察する森谷さん この日は市の担当者やJAなどと協力し、セイヨウナシ褐色斑点病を含めた病害虫の調査を行った

三条や加茂の西洋梨農家で現在、重要な課題になっているのがセイヨウナシ褐色斑点病の防除である。その名の通りナシの葉や実が黒く変色する病気で、品質や収量の低下を招く。特に昨年2024(令和6)年は大きな被害を出した。

病害の対策と調査は、地道な作業の連続だ。ナシの葉に原因菌が付着して感染したのち落葉する。その落ち葉が翌年の発生源となるため、三条農業普及指導センターでは関係団体と協力しながら農園の落ち葉を収集し、落ち葉から飛散した胞子の量を調べ、農家へ情報提供している。まさに、特産品を守る最前線だ。

現状は特効薬がないため薬剤防除だけでは十分な効果が期待できず、落ち葉をこまめに除去することなども必要である。しかし広い農園内で、しかも気象にも左右されるため、常に落ち葉を除去し続けるには多大な労力がかかる。「それをどうやったら省力化できるか、実証圃として農家さんから協力していただきながら、一緒に検証しています」(森谷さん)。

また病害の防除以外にも、果樹栽培は大変な作業の連続だ。森谷さんは力を込めて語る。「将来的には、高収益な営農ができるような体系作りに関わっていきたいと思っています。現代はタイムパフォーマンスが重要視される時代。(若い就農者を増やすためにも)農作業を簡略化できる仕組みづくりをしていきたい」。

「今は学ばせてもらうことが多いと思う。でも、いつか返せる時が来る」──奮闘する森谷さんにそうエールを送るのは、恩師である松本教授だ。農業大国・新潟の今と未来を背負う若者に、これからも注目していきたい。

 

(文 鈴木琢真)

 

学校情報

新潟食料農業大学 胎内キャンパス(新潟県胎内市)

学校法人 新潟総合学園 新潟食料農業大学
胎内キャンパス(新潟県胎内市平根台2416)
新潟キャンパス(新潟市北区島見町940)

新潟食料農業大学 webサイト

新潟食料農業大学は、食・農・ビジネスに特化した実学重視の大学として、2018(平成30)年に開学した私立大学。開学以来、「食のジェネラリストの育成」を掲げ、農業生産から食品加工・流通・販売、さらには経営戦略までを一貫して学べる教育カリキュラムを展開。実習を重視した教育方針により、地域農業や食品関連企業との連携も活発で、新潟県内外の食料産業界に即戦力となる人材を輩出している。

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