【特集】農業系の大学から金融業界へ? 新潟食料農業大学1期生、協栄信用組合の上原栄喜さん

協栄信用組合の上原栄喜さん

「お客様のライフスタイルに合わせた提案をして、それで感謝されるのが一番のやりがいですね」。営業の外回りから戻り、そう話すのは、新潟県燕市を中心に展開する金融機関・協栄信用組合上原栄喜さん。

上原さんは新潟食料農業大学(新潟県胎内市)の卒業生。農学分野である同学からの進路先としては意外に見えるが、興味を持ったきっかけは大学でのファイナンスの授業だった。「金融の分野から地元に貢献したい」……地元愛を語る若者が歩んできた道のりを辿った。

 

目次

◎新潟の農業へ貢献するために…開学直後の大学へ
◎「食の総合大学」で金融業界との出会い
◎地域の住民に寄り添った仕事

◎学校情報

 

新潟の農業へ貢献するために…開学直後の大学へ

胎内市と新潟市北区にキャンパスを持つ新潟食料農業大学、写真は「新潟キャンパス」(新潟市北区)

上原さんは新潟市西蒲区の出身。高校では理系のコースに進み勉強していたが、進学先を考えた時に興味を抱いたのが農業だった。「地元に就職したいと考えていたので、自分なりに『何かできるか』を考えた時、思いついたのが農業でした。また、ドローンを駆使したIT農業など、従来とは違う農業なども出始めた時期だったので興味がありました」(上原さん)。

その際、ちょうど開学目前だった新潟食料農業大学を知った。とはいえ当時は開学前だったため、先輩の意見も就職先の実績もまだない状況。キャンパスも完成しておらず、初めて校舎に入ったのも入学式の時だったという。実家が農家でないということもあり、両親からは心配する声もあった。

それでも新潟食料農業大学を選んだのは「新しいことに挑戦してみたい」という気持ちだった。「元々、私は何かに挑戦しようとするタイプではありませんでした。だからこそ、一歩踏み出したいと思ったんです」(同)。当時、同じ高校からの新学生はおらず、知り合いもゼロ。それでも「興味のある分野を学びたい」という思いを貫いた。

上原さんは高校時代からチームスポーツ「カバディ」をやってみたいと思い、大学で自ら仲間を募り、サークルを立ち上げた。当時、新潟県内では唯一「カバディ」をやっていたグループだったため、独学で練習方法なども考えたという。大学の1期生だったため当時はサークルやクラブ活動も存在せず、その点でも挑戦だった

 

「食の総合大学」で金融業界との出会い

新潟食料農業大学ビジネスコース長の高力美由紀教授

新潟食料農業大学は農学分野の単科大学である一方、生産だけでなく加工、流通、販売までを学ぶことができる点が特徴で、学生は2年時から「アグリ」「フード」「ビジネス」の3コースに別れてそれぞれの分野の知識を深める。上原さんは高校時代から興味を持っていた分野を学ぶため、「ビジネスコース」へ進んだ。

「食を総合的に学ぶことができるのが本学の特徴」と話すのは、同学ビジネスコース長の高力美由紀教授だ。「ビジネスコースは、生産物を作り加工するところから、「食べる」に繋げるまで……つまり消費者へ届けるまでの過程を特に詳しく勉強します」(高力教授)。単に作り手としての専門知識だけではなく、経営の知識やプロモーションの経験、そして消費者目線のものづくりという視点などを育むことを目指す。

もう一つビジネスコースで重視している点が、「地域から学び、地域へ還元すること」(同)だという。大学が所在する胎内市や新潟市北区周辺の地域の農家や自治体、企業と協力し、特産品を使った地域活性や事業開発などを行っている。特に上原さんは、阿賀野市と協力して特産品のサーモンのプロモーションを行う実習が印象に残っていると話す。

新潟食料農業大学ビジネスコースでは外部の企業・団体による講義を行う。新潟食料農業大学新潟キャンパス・大講義室(写真提供:新潟食料農業大学)

新潟食料農業大学新潟キャンパスの「社会連携推進室」では、連携企業・団体との打ち合わせなどが行われている(写真提供:新潟食料農業大学)

一方で、上原さんのその後に大きな影響を及ぼしたのが、「ビジネスコース」のなかで受けた金融についての授業だった。「ファイナンス関連の授業がコースの必修授業でありました。それがきっかけで金融に興味を持ったのが、大学3年生の始め頃です。生産でも加工でも、お金が関係ないことはないと気づき『お金の流れって面白い』と思いました」(上原さん)。

4年時のゼミでも、金融関係出身の先生に師事。金融業界の視点からSDGsや地域貢献などについて研究した。

 

地域の住民に寄り添った仕事

協栄信用組合吉田支店・南吉田支店

就職活動では様々な分野の企業を受けたが、やはり選んだのは金融業界。特に燕市を拠点にし、地元・西蒲区にも支店がある協栄信用組合だった。

「元々燕や三条に住んでいる親戚も多く、燕三条地場産センターのイベントなどにもよく家族と行ったりしていたので燕三条地域には馴染がありました。そうした中で、燕の世界に誇る洋食器の文化や産業を支えていけるというところが魅力的でした」と上原さん。また、非営利組織であり客層も中小企業などが多い信用組合は、「お客様に寄り添った提案ができる」(同)点も決め手だった。

上原さんの顧客には農家も多い。「私自身は農家の生まれではないので、大学で学んだ知識はあってよかったと思いますね。お客さまとも『大学時代に実習でやりましたが、すごく大変で……』と盛り上がります」と上原さんは笑う

また、大学では知り合いもおらず、農家や研究機関、加工業者やプロモーションに関わる行政の担当者など、多種多様な職業の人と関わる機会も多かった。「元々は人見知りな方だったので、知らない人や外部の人とコミュニケーションをとる経験しておいてよかったな、とこの職についてから思いました」という(写真は窓口で接客対応する上原さん)

就職後は最初、中之口支店へ配属。預金業務や融資業務の補助などの経験を積み、現在は吉田支店で営業職として勤務している。「お客様ごとのニーズや、ご家族のライフステージなども見てご提案しています。ご融資させていただいた時、個人のお客様からは『おかげで車買えたよ』とか、事業をされている方からは『この設備入れられたよ』と言っていただいた時、一番やりがいを感じます」(同)。

一方で、顧客と関わる機会が多いだけに大変な時もあるという。「お客様に質問された時、すぐ答えられなくて、持ち帰ってから回答することもあります。でも、お客様からしたら私達は金融機関のスペシャリスト。もっとお客様に寄り添って、納得してもらえる回答ができるように、日頃から勉強して知識を磨いていきたいです」と上原さんは力を込めた。

先輩の髙津烈生さん(写真右)は、上原さんを「真面目でひたむき」だと評価する

先輩の髙津烈生さんは上原さんの姿を「真面目でひたむきに一軒一軒お客様のもとを確実に回って、断られてもへこたれない……そんなイメージですね」と評価する。上原さんは今年で配属3年目。今年からは2人の後輩もでき、指導する機会も増えた。「今後は、後輩の手本になれるような人になってもらえれば。また、人に教えることで自分も知識がつく部分もあると思う」。プレッシャーを感じる上原さんへ、髙津さんはそう激励する。

農業へ興味を持って新潟食料農業大学へ進学し、そこで金融と出会った上原さん。紆余曲折はあったが、変わらないのは「地元・新潟のために何ができるか」。高齢化や担い手不足が地域の中小企業へのしかかるなか、地元に密着する信用組合の重要性は増していくだろう。大学入学から始まった上原さんの「挑戦」は、これからも続いていく。

 

学校情報

新潟食料農業大学 胎内キャンパス(新潟県胎内市)

学校法人 新潟総合学園 新潟食料農業大学
胎内キャンパス(新潟県胎内市平根台2416)
新潟キャンパス(新潟市北区島見町940)

新潟食料農業大学 webサイト

新潟食料農業大学は、食・農・ビジネスに特化した実学重視の大学として、2018(平成30)年に開学した私立大学。開学以来、「食のジェネラリストの育成」を掲げ、農業生産から食品加工・流通・販売、さらには経営戦略までを一貫して学べる教育カリキュラムを展開。実習を重視した教育方針により、地域農業や食品関連企業との連携も活発で、新潟県内外の食料産業界に即戦力となる人材を輩出している。

 

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