【社長インタビュー】農業を支え70年、次に目指すは売上高100億円企業 冨山(新潟市北区)4代目・冨山浩明代表取締役社長

冨山の冨山浩明代表取締役社長

昨年設立70年を迎えた株式会社冨山(新潟市北区)。長年、肥料や農薬の販売を手掛け、新潟の農業を裏方から支えてきた。一方で約30年前、従来からの顧客である商店と協業し肥料・農薬・農業資材を取り扱う小売店を開店。現在は県内各地に「農家の店 とんとん」、新潟市内きっての観光地であるピアBandaiなどに農産物直売所「ピカリ産直市場 お冨さん」を展開。小売事業は今や、同社を支える柱の一つに育った。

そして2023年、同社4代目社長として就任したのが冨山浩明代表取締役社長だ。小売業をはじめ、鴨の養殖やスマート農業の展開など幅広く展開する同社だが「根になるのはあくまで肥料・農薬の販売。農家さんの困りごとの解決が、我々のミッション」と話す。人手不足や温暖化など、多くの課題に直面する日本の農業。それらを解決するために積極的に枝葉を伸ばす同社の若き社長に、これからの挑戦と目指す方向を聞いた。

 

目次

◯小売業への進出が成長のきっかけに
◯鴨の養殖やスマート農業…様々な領域へ枝葉を伸ばして
◯「過去最大の投資」ライスセンター

 

小売業への進出が成長のきっかけに

お冨さん ピア万代店(新潟市中央区)。ピアBandaiには近年、おにぎり店「さんかくともつ」もオープンした

冨山の設立は1954年。当初は肥料と飼料の卸売業者としてスタートし、後に農薬の取り扱いも開始。飼料の販売は停止したものの、長らく新潟の農家とともに歩んできた。ターニングポイントが訪れたのは1996年、先代社長の時代だった。「農家の店 とんとん」の開業だ。

「卸売業者が小売店を出すと既存の取引先と競合することになるので、かなりの反発もあったと聞いています」と冨山社長。30年ほど前まで、農家では収穫期に入る収入でその年の肥料や農薬などの代金を支払う、いわゆる「盆暮れ勘定」が当たり前だった。当然、冨山の売上もそれに影響される。小売業への進出は、年間で安定した収入を得る一手だった。「卸売業が小売もやるというのは、当時の業界的に求められていたことだったのかもしれません」と冨山社長は振り返る。

現在、冨山直営の「とんとん」は県内3店舗、「お冨さん」は県内2店舗を展開中。特に、「お冨さん ピア万代店」は年約6億5,000万円を売り上げる人気店。また、同店が農産物をブランド化することで、農家の収入の向上も図る。当時の挑戦あってこそ、現在の冨山があると言っても過言ではない。

 

鴨の養殖やスマート農業…様々な領域へ枝葉を伸ばして

冨山社長は1982年生まれ。大学卒業後、インターンシップで半年間イギリスの造園会社で経験を積み、帰国後は横浜の造園会社に就職。2009年、新潟に戻り冨山に入社した

小売業だけでなく、同社は農業に関する様々な事業に枝葉を伸ばしている。そして今年着手したのが、鴨の養殖業だ。「鴨猟は元々、農家の冬仕事だったんですよ」と冨山社長。農家の文化と、担い手不足となっている県内の鴨養殖業を今後も残すための事業だ。さらに、直売所での鴨肉販売や、現在鴨肉を取引している都内高級料亭などへの県産野菜の提案など、農産物販売との相乗効果にも繋げる狙いがある。

また、スマート農業への取り組みもしており、ドローンスクールや、従来のGPSよりも高精度な位置情報技術「RTK」の基地局設置を展開。その集大成となるのが、現在設置を計画するデモファームだ。スマート農業への転換は農家にとって大きな投資であり、その一歩は踏み出しづらい。冨山社長は「デモファームでドローンやトラクターの自動運転など、実物を見てもらえるようにして、さらにそこでドローンの免許が取れるようにもしたい」と構想を語る。

事業領域を広げる冨山。しかし、社長の意識は一貫している。「根っこにあるのは肥料・農薬の卸売業。そして、その先にいる販売店や農家さん。色々なことをやってますが、結果的には卸売業に繋がるような事業展開しかしていません」。直売所や飲食店は農家の収益向上、スマート農業は農家の持続可能性の確保……と、すべてが農家支援に結びつく。

「造園業の経験があるので、どうしても木に例えてしまう」と笑う冨山社長。会社の根となるのは卸売業と、顧客である販売店・農家。小売やスマート農業などの事業は枝葉。互いに影響して成長しあう関係だが、「例えば、小売という枝が重くなりすぎると木が倒れてしまう」とバランスの重要性を説く

 

「過去最大の投資」ライスセンター

こうした中、冨山社長が「過去最大の投資になるかもしれない」と語るのが、ライスセンターの建設構想だ。同社がここまでするのには、「農家が栽培に専念できる環境を整えたい」という思いがある。

「持続可能な農業への変革を加速していきたいと考えています。農家は激減していていますが、ゼロにはならない。日本の農業が無くなることはありません。残った農家さんが安心して農業を続けられる環境をつくるのが、我々の仕事です」(冨山社長)。

農家に合わせた肥料・農薬のカスタマイズから、テクノロジーによる省力化、さらに販売先やブランド化……農業周りのあらゆる部分を担い、一人の農家が発揮できる力の最大化を目指す。それは、就労人口が減っていくこれからの日本の農業に不可欠な取り組みだ。

「かつて弊社が成長したきっかけになったのは、小売業への進出です。当時としてはかなり身を削った投資でしたが、そのおかげでここまで来れました。今回のライスセンターも、チャレンジングな投資になります。覚悟を決めてやっていきたい」。──ライスセンターをバネに、冨山は売上100億円を目指す。そしてその力で、農家への支援をさらに強化させるだろう。長年、新潟の農業を支えてきた同社は、さらに大きな巨木へと成長しようとしている。

 

【関連リンク】
冨山 webサイト

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