【独自】AIで変える縫製の現場 技術を次世代へ えふ株式会社が進める「持続可能な縫製」(新潟県長岡市)

1987年の創業以来、40年以上にわたり長岡市で縫製業を営むえふ株式会社が、AIを活用したDXに乗り出している。紙の仕様書や口頭による伝達など、属人化していた業務をデジタル化し、生成AI「Claude(クロード)」を使った資材・在庫管理では作業時間を半日以上短縮。事業承継を機に社内体制の再構築も進める同社が見据えるのは、単なる業務効率化ではない。人材不足や職人の高齢化が進む縫製業界で、AIを技術継承や人材育成にも生かし、「長岡の縫製産業をなくさない」ための仕組みづくりに挑んでいる。

約40年以上にわたり、長岡の縫製業を支える えふ株式会社(同社提供)

事業承継を機に、会社を「再構築」

同えふ株式会社はアパレルブランドなどのOEM生産を中心に、パターンやサンプル製作から量産、品質管理まで、一着の洋服が完成するまでのものづくりを支えている。20代から70代まで幅広い世代が働くことも特徴の一つだ。

高田将輝代表取締役(46)が就任したのは2025年。新たなオーナーの下で、事業を再構築するタイミングだった。以前は事業会社でM&Aや内部統制などを担当しており、その経験を生かしながら、「経営者主導の経営からの脱却」を掲げ、会社の方針や情報を社員と共有する体制づくりを進めている。 その中でも重視しているのが「人への投資」だ。

一方、社内には業務の属人化や紙媒体によるやり取り、口頭での伝達といった課題があった。確認漏れやミスにつながるケースもあり、バックオフィスの効率化やペーパーレス化、データの蓄積・管理、工程の見える化を進めることにした。

取材に応じる高田将輝代表取締役

「人にしかできない仕事」に集中する 現場発のDX

その取り組みの一つが、生成AI「Claude」の導入だ。

Claudeを担当する荒木拓也さん(47)は、AIを活用したシステムをゼロから構築している。元々プログラムを学んでいたという荒木さんは、「AIを導入するということで、ちょっと遊び半分にどうなるかなと思ってやったのがきっかけ」と振り返る。

同社がClaudeを選んだ理由の一つは、柔軟にカスタマイズでき、特定のシステムに依存しない点だ。導入から3カ月ほどで、バックオフィス業務の効率化に大きな効果を感じているという。

現在、具体的な成果が出ているのが資材・在庫管理の部分だという。メーカーから仕様書が届くと、それをスキャナーで読み込む。AIが仕様書を読み取り、製造する数量などに応じて必要な資材と数量を計算し、リスト化する。さらに入荷した資材を確認し、不足しているものや入荷待ちのものを把握できる仕組みだ。

荒木さんによると、以前は仕様書を見ながら、何着作るのかを確認し、それに合わせて必要な資材を計算。入荷した資材と一つずつ照合していたという。

「パソコンを一切使わずに」行っていた作業をAIで効率化したことで、作業時間は「半日以上は縮まります」と荒木さん。時間短縮だけではない。「ミスがなくなるっていうのはやっぱり大きい」と話す。

現在は仕様書やファスナーなどの資材をスキャンし、入荷状況を確認する仕組みも整備。システムは「8割方できた」段階まで進んでいるという。

AIを活用した業務効率化について説明する荒木拓也さん

次の一手は「現場の見える化」 スマホで進捗を集計

荒木さんは今後、現場の工程管理にもデジタル技術を取り入れる考えだ。

現在、現場で何枚仕上げたかといった進捗は、スタッフがノートに手書きしている。これをスマートフォンから簡単に入力し、事務所側で集計できる仕組みを構想している。現場の進捗をデータとして蓄積することで、工程の見える化につなげる狙いだ。

一方、現在は通常業務とシステム開発を並行しているため、開発に専念する時間を確保することが難しいという。それでも、現場で生じている課題を拾い上げ、デジタル技術を活用して一つずつ解決しようとしている。

AIの先にあるのは「技術継承」

同社がAI・DXに取り組む目的は、単なる作業時間の短縮ではない。

国内の縫製業界では、約30年前から人件費の安い海外へ生産拠点が移り、国内の縫製産業は厳しい環境に置かれてきた。現在も人材不足や職人の高齢化は深刻で、長年培われてきた技術を次の世代へどうつないでいくかが課題となっている。

同社では、AIを人材育成にも活用することで、経験の浅い人材が早く成長できる環境をつくることを目指している。

ベテランが持つ経験や技術をデジタル化し、若い世代が学びやすい形にする。AI・DXを業務効率化だけでなく、技術継承のための手段として活用する考えだ。

縫製や裁断作業に取り組む従業員

「長岡の縫製産業をなくさない」

同社の長谷川拓也二課部長(45)は、国内の縫製業界について、30年ほど前から人件費の安い海外へ生産拠点が移り、国内の生産現場は厳しい状況に置かれてきたと話す。

価格面で海外製品と競争することは難しく、同社では国産にこだわるハイブランドなどを中心に、国内生産ならではの価値を生かしたものづくりに活路を見いだしている。一方で、人材不足や職人の高齢化による技術継承は大きな課題だ。

こうした状況を踏まえ、同社が掲げるのが「長岡の縫製産業をなくさない」という思いだ。長谷川部長は、自社だけで生き残るのではなく、地域の企業同士が協力し、地域全体で縫製産業を支えていくことが必要だと考えている。

「長岡の縫製産業をなくさない」と力強く語る長谷川拓也二課部長

一社だけでは残せない 必要なのは「地域連携」

長谷川部長が課題として挙げるのが、同業者同士の連携だ。

これまでの縫製業界では、経営者同士が自社の技術や情報を明かさず、協力関係を築きにくい面があったという。しかし、業界全体が厳しい環境に置かれる中、企業同士が競争するだけでは、地域の縫製産業そのものを維持していくことは難しい。

「地域の企業がそれぞれの強みを生かしながら協力することが必要。地域全体で取り組むことが、長岡の縫製産業を残していくことにつながる」と話す。

AIと人で、次の40年へ

同社が2026年のテーマとして掲げる「持続可能な縫製」は、環境面だけを意味するものではない。

職人の技術を次世代へ残すこと。若い世代がものづくりに関われる環境をつくること。年齢やライフステージが変わっても働き続けられる環境を整えること。そして、長岡に縫製という産業を残していくこと。そこにAI・DXという新たな技術を組み合わせる。

荒木さんが中心となって進めている在庫管理システムは、その一例だ。人が長年行ってきた作業をAIで効率化し、そこで生まれた時間やデータを、工程の見える化や人材育成へつなげていく。

事業承継を機に会社の仕組みを見直し、AI・DXを取り入れながら新たな体制を築くえふ株式会社。40年以上、長岡でものづくりを続けてきた同社が目指すのは、単に古くからの技術を守ることではない。新しい技術を取り入れながら、職人の技術を次の世代へつなぎ、長岡の縫製産業そのものを未来に残すことだ。

(文・写真 北条隆士)

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