サッカーをしながら里山で暮らすという提案、移住者で構成する新潟県十日町市女子サッカーチーム「FC越後妻有(つまり)」の挑戦


「FC越後妻有」のメンバー

棚田の保全活動、サッカー選手、現代アート……。一見、何も関係がないように見えるこの3要素が結合している女子サッカーチームが新潟県十日町市にある。それは、都市の女子サッカー選手が新潟県十日町市の越後妻有(つまり)地域に移住・就農してプレーする農業実業団チーム「FC越後妻有」だ。

このチームは、「サッカーをしながら里山で暮らす」新しい暮らし方の提案であり、日本全国でも類を見ない先駆的なプロジェクトとして始まったものだ。このチームは、現代アートの祭典「大地の芸術祭」の運営など、地域活性化に取り組むNPO法人越後妻有里山協働機構(新潟県十日町市)が2015年に発足させた。

このプロジェクトが生まれた背景には、女子サッカーが2011年ワールドカップで優勝しメディアに出るようになったものの、プロ契約の壁が他のスポーツよりも高いゆえに、働きながらプレーする環境が整っていないという問題点があった。

 

農業の担い手不足解決とサッカーを続ける環境の整備

大地の芸術祭の舞台である越後妻有は高齢化が進み、美しい棚田を守る農業の担い手不足が深刻な課題だった。そこで、女子サッカー選手が越後妻有に移住・就農しプレーすることで、選手は働きながらプロリーグを目指す環境を得られ、また、若者が農業の担い手となることで高齢化の進む地域問題の解決の糸口にしたいという狙いから、このプロジェクトが生まれた。

2016年に選手2人が加入しスタートしたが、現在は選手12人となった。2021年度から北信越女子サッカーリーグ2部に所属、結果は3位で1部昇格を逃したが、今年度は新戦力も加わり、1部昇格を目指し日々練習に励んでいる。

現在は選手が増えたこともあり、農業のほか大地の芸術祭運営にも励みながらプレーしている。年齢層は18歳から32歳までと幅広く、2人新潟市出身者がいるが、それ以外は東京都、神奈川県、関西など県外出身者だ。

 

キャプテンが地元農家と結婚し、出産

田植えの様子(写真Yanagi Ayumi)

選手はNPO法人に所属し、給料を得ているが、サッカーの時間も業務として認められている。キャプテンの選手は2月に出産を経験。兵庫県出身で、十日町市の農家の男性と結婚した。まさに、十日町市の人口増に貢献しているのだ。

FC越後妻有の元井淳GM兼監督は千葉県出身の元千葉県立高校の体育教諭で、サッカーJリーグ大宮アルディージャのコーチ経験もある。

「FC越後妻有の過疎高齢化が進む中山間地に移住して、芸術祭運営や棚田の保全などの社会課題を解決しながらサッカーに向き合う取り組みに興味を持ち、監督のオファーを受けた。スポーツの新しい形や在り方を発信できる可能性があると思った。豪雪で知られる越後妻有は助け合わないと生きていけない厳しい環境だからこそ、人と人との強く暖かい繋がりが都会にはないものだと感じる。便利さはないが、四季の移り変わりや美しい棚田、里山の風景、季節の食べ物など豊かさに満ちている。選手たちはトップアスリートではないが、このクラブの面白さは多様性にある。経験者もいれば、このクラブに来てサッカーを始めた選手もいる。多様性については抜きんでた存在だと思う」と元井監督は話す。

また、「試合結果も大切だが、何より選手1人1人がサッカーを通して成長していくこと、地域の方々との関わりを深めていくこと、『大地の芸術祭』で輝くことが大切だ。スポーツは狭い世界なので、いろいろな人と関わることが、彼女たちを成長させる。カテゴリーを上げていくという目標や結果のウエイトが大きくなりすぎて大切な価値を見失ってはいけない。優秀な選手を連れてくることより、在籍している選手の成長を第一に考えている。その点で、昨シーズン共に戦った選手全員が残っていることが誇らしいし、積み上げもある。スポーツや芸術、農業はそれぞれ分断されたものとして考えられがちだが、リベラルアーツの観点では同じ領域のものだと私は思う。農業の世界は過酷だが、そこには喜びや豊かさがある。そういう経験ができるサッカークラブは他にないと思う。私は選手に『様々な領域で意識的にプロフェッショナルでありなさい』と伝えている」とも話した。

棚田での収穫風景

 

副キャプテン「今は全く後悔していない」

一方、渡邊彩海(あやか)副キャプテンは神奈川県出身。ポジションは守備的ミッドフィルダーのボランチだ。

渡邊選手は、「越後妻有FCに入って、今年で3年目になる。十日町市は教科書でしか見たことがなかった。ここはどこもやっていない農業やアートなどサッカーとかけ離れた仕事と組み合わされていてそこに惹かれた。どうしても女子サッカーは練習をして、半日は工場でアルバイトなど仕事がやりがいを感じにくい環境が多い。それでは現役を引退した後に今後のキャリアに何も繋がらないと思った。ここでなら、農業やアートにやりがいを持って取り組めると思った。言い方は変だが、私たちのカテゴリーでサッカーをやって給料がもらえるのは恵まれている環境なので、感謝してやらないといけない」と話した。

また、「十日町市の生活は雪が大変だ。星峠の棚田からはずれの棚田まで担当する。どうしても、サッカーと農業の繁忙期が同じなので大変だ。平日の1日のスケジュールは基本的に午前中はサッカーの練習、午後は農業。選手の中には、農業だけではなく、アート作品のメンテナンスなど芸術祭の運営担当もいる。FC越後妻有に入る時は『この決断で良かったのか』と悩んだが、今は来てよかったと思うし、全く後悔はしていない。ポジション的には司令塔的な立場だが、このチームは1人1人が司令塔となるのがベストだと思う。今年は『越後妻有大地の芸術祭2022』が開催されるので、十日町市で行うホームゲームに見に来てもらいたい。私たちが広告塔になって人を集めたい」とも話した。

サッカーを続けたいというアスリートとしての純粋な想いで、見知らぬ土地で泥だらけになりながら、農業とサッカーに奮闘する選手たち。里山の地域おこしを担う彼女たちの大いなる挑戦にエールを送りたい。

試合の様子(写真ホシノミホ)

 

(文・梅川康輝)



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