【コラム連載①】AI時代の今こそ問われる「メモ力」

人工知能(AI)の急速な普及により、情報収集や文章作成の環境は大きく変化している。一方で、自ら考え、情報を整理し、文章として発信する基礎能力の重要性はむしろ高まっている。そうした中、記者歴20年のライターである私が実践してきたメモ術を体系化した「メモ文章講座」をご紹介したい。

このコラム連載は、開志専門職大学(新潟市中央区)からの要請をきっかけにスタートした。大学側からは「今の大学生はメモの取り方が分からない人が多い。スマートフォンで写真を撮って終わりになってしまう」との課題が示された。

高校までの学習環境では、教師が板書し、生徒はそれを書き写すことが中心となる。しかし大学では、自ら考え、重要な情報を選択しながら記録する能力が求められる。この講座は、そうした現代的な課題に対応する実践講座として位置付けられている。

講座の特徴は、単なる記録技術ではなく、「知的生産につながるメモ」を重視している点にある。日常生活の中で「すごい」「面白い」といった漠然とした感想で終わらせるのではなく、なぜそう感じたのかを一歩踏み込んで考えることが本質的なメモのあり方である。

このなぜそうなるのかを考えるという点では、次週から掲載する連載コラムの「人生を楽しむ学校 経営者のための人生の経営戦略」と共感する部分がある。このコラムは自己実現に関する自己啓発的な内容になっているが、「なぜそうなるのか」という答えの中に、思い込みや先入観の奥に隠れていた本当の自分につながる小さな糸口があると言えるからである。自己実現に興味がある経営者の方はあわせてそちらの講座もおすすめしたい。

メモによって得られる効果としては、文章作成などの知的生産能力の向上、思考の整理、さらには新たな発想の創出が挙げられている。特に手書きによる記録は脳への刺激となり、思考の整理に役立つ。

東京、新潟、上越で約20年間にわたり取材活動を続けてきた私は、新人記者時代から取材メモの重要性を徹底的に指導された。現在もA4判の大学ノートを愛用し、コクヨの「キャンパス」シリーズの100枚ノートを使用している。取材ノートには、利用開始年月日や取材先一覧を記録する。見開きで使用し、右上には西暦年月日、取材先、取材相手、取材開始時間を記入する。右ページには質問事項を箇条書きで整理し、取材に臨む。

ただし、取材中は相手の話すスピードに合わせてメモを取るため、全てを書き取ることは不可能である。そのため重要となるのが「キーワードの記録」である。

実際の著者のノートメモ

特に新聞記事では、数字や人名、地名、商品名、ブランド名といった固有名詞が重要な要素となる。そのため、記事執筆時に録音を聞き返さなくても内容を再現できるよう、数字などの固有名詞を重点的に記録することが大事だ。また、漢字が分からなければひらがなで記録しても問題ないとする。取材メモはあくまで自分のための記録であり、人に見せることを目的としないためだ。

ノートを美しくまとめること自体を否定しているわけではない。しかし、きれいなノートを作ることが目的化してしまうと本末転倒である。重要な箇所は丸で囲み、話題の区切りには横線を引く。筆記具は黒色ボールペンを使用し、重要事項は後から赤色ボールペンで整理する。取材現場ではインク切れに備え、複数本のペンを携帯している。

一方で、この講座は手書きメモだけに限定していない。現代のビジネス環境ではスマートフォンの活用も重要視している。思いついたアイデアを即座にメモし、必要に応じて写真を撮影する。さらにAIサービスを活用し、その場で情報整理や壁打ちを行うことで、企画立案や記事作成の準備につなげる。こうした手法について私は「スマホがミニ編集室になる」と考えている。記録した情報をその場で整理し、企画や原稿構想へ発展させることで、情報の鮮度を維持しながら知的生産につなげることができるという考え方だ。

メモに関する参考文献としては、前田裕二氏の著書「メモの魔力」を挙げたい。同書は累計75万部を超えるベストセラーとして知られる。講座では、メモによって自分の考えや夢が可視化され、繰り返し見返すことで意識に定着していくと説明している。結果として、目標達成に必要な行動や課題が明確になっていくという。

また、ジャーナリストの故立花隆氏の著書「知のソフトウェア」によると、新聞の切り抜きやスクラップブックをきれいに作ること自体が目的化すると、その先の知的生産につながらない場合があるという指摘がある。この考え方はメモにも共通する。きれいにノートを取ることが目的ではない。メモの本来の目的は、情報を文章化し、思考を深め、新たな知識や成果物を生み出すことにある。

録音アプリなどのデジタルツールも有効ではあるが、それらも最終的には文章化や発信のための補助的な手段であるという位置付けだ。この講座は、2025年まで2年連続で実施した開志専門職大学での講義内容を基礎としている。今回は初級編に当たり、このほか実践編や上級編も用意されている。

実践編では文章の書き方、上級編ではインタビューの手法を扱う予定だ。AIが普及し、誰もが大量の情報にアクセスできる時代だからこそ、情報を取捨選択し、自らの思考として整理する能力が問われている。

(梅川康輝)

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