【コラム連載②】掲載される文章の書き方

生成AIやSNSの普及によって、誰もが容易に情報を発信できる時代となった。企業経営者、自治体職員、営業担当者、個人事業主など、多くの人が日常的に文章を書き、自らの考えや活動を発信している。
一方で、発信される情報量が増加する中、「読まれる文章」と「読まれない文章」の差は広がっている。さらに新聞や雑誌、ウェブメディアなどに掲載される文章には、単なる自己表現とは異なる技術が求められる。
こうした状況の中、これが社会人向けの文章講座となるが、この講座が特徴的なのは「読まれる文章」ではなく、「掲載される文章」を目指す点にある。
この講座では文章力と発信力の向上を目的とし、実際に文章を書きながら学ぶ実践形式を採用している。文章力向上によって期待される効果は多い。SNSでの発信力向上や仕事への活用に加え、小説やエッセイのコンテスト応募、さらにはフリーライターとしての活動にもつながる可能性もある。
この講座では、まず、一流作家のような美文を目指さない。文章を書く際、多くの人は美しい表現や難しい言葉を使おうと考えがちである。しかし実務文章や記事において重要なのは、誰にでも理解できる分かりやすさである。
私は新聞社の新米記者時代、上司のデスクから「その辺の土方のおっちゃんにも分かる文章で書かなければならない」と教えられた。これは読者を軽視する意味ではない。専門的な内容であっても、できるだけ平易な言葉で説明することが書き手の責任であるという考え方だ。
難しいことを難しく説明するのは容易である。しかし難しいことを分かりやすく説明するには技術が必要となる。新聞記事の本質もそこにある。
分かりやすい文章を書くための基本原則として、主語と述語を近づけることが重要かつ一番簡単な方法である。日本語は比較的自由な語順を持つ言語である。しかし主語と述語の距離が離れすぎると、読者は文意を理解しにくくなる。文章が長くなるほど、この傾向は強くなる。
また、具体的事実や固有名詞を積極的に盛り込むことも大事だ。人名、地名、企業名、数字、商品名などを具体的に示すことで文章の説得力は高まる。逆に抽象的な表現ばかりでは内容が伝わりにくくなる。
さらに、同じ言葉の繰り返しを避けることも実践的な技術である。例えば「言った」という表現だけを繰り返すのではなく、「話した」「述べた」「語った」など状況に応じて言い換えることで文章にリズムが生まれる。
さらに、新聞記事の基本として説明されるのが「5W1H」である。「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」という要素を整理することで、読者は情報を正確に理解できる。
また紙媒体の記事には逆三角形の構造が求められる。タイトル、リード、本文という順序で構成し、最も重要な情報を先頭に配置する。これは紙面編集の過程で後ろを削除されても重要な情報が失われないようにするためである。リード文は本文全体の要約であり、記事の内容を短時間で伝える役割を担う。

AI時代に求められる文章術とは
一方で、ネット記事には異なる特徴がある。ネット記事は紙媒体とは別の発想が必要である。紙媒体では記事内容を端的に伝えるタイトルが求められるが、ネット記事ではクリックしてもらうことが重要になる。そのためタイトルは内容をすべて説明せず、読者の関心を引く工夫が必要となる。
またサムネイル写真も重要な要素である。ネット上ではタイトルと写真が第一印象を決定するためである。こうした違いは、紙媒体とウェブ媒体のビジネスモデルの違いとも密接に関係している。
最後に上級テクニックについても触れてみよう。会話から文章を始める手法や比喩表現、倒置法などである。特にノンフィクションや小説では冒頭部分が作品全体の印象を決定することが少なくない。
一方、記事では主観を極力排除し、事実によって内容を伝える姿勢が求められる。文芸作品と報道文章の違いを理解することも、文章力向上の重要な要素である。また、論文では引用元を明示すること、小説では起承転結を意識することなど、ジャンルごとの特徴も紹介している。
私のジャーナリスト専門学校時代の恩師の言葉として、「文章力は読書量に比例する」という考え方がある。小説、ノンフィクション、エッセイなど、ジャンルを問わず多くの文章に触れることが文章力向上につながるという。
そして読むだけではなく、実際に書くことも重要である。ブログ、フェイスブック、インスタグラム、エックスなど媒体は問わない。文章を書き続けることで技術は向上する。
ちなみに、私は高校時代までは国語が苦手で、大学時代に大量の読書を行い、村上春樹作品との出会いをきっかけに作家を志した。2020年には約100社の出版社に断られながらも、『村上春樹論』を自費出版した。その後、この著作は早稲田大学内の村上春樹ライブラリーに所蔵された。
文章力は生まれつきの才能ではない。技術であり、訓練によって向上する能力である。情報発信が日常となった現代社会において、文章力は特定の職業だけに求められる能力ではなくなった。経営者、会社員、研究者、行政職員、学生など、あらゆる人に必要な基礎スキルとなっている。
AIが文章を生成する時代だからこそ、何を伝えるのか、どのような事実を示すのか、誰に向けて書くのかという本質的な力が重要になる。
文章力は特別な才能ではなく技術である。
(梅川康輝)