【コラム連載最終回】相手から本音を聞き出す技術

AIの急速な普及により、文章作成や情報収集のあり方が大きく変化している。一方で、経営者や専門家から直接話を聞き、本音や背景を引き出す「インタビュー力」の価値はむしろ高まっている。情報があふれる時代だからこそ、一次情報に触れ、事実を確認し、自ら考える姿勢が求められている。本稿では、インタビュー術の基本から新聞業界の変化、AI時代のジャーナリズムの課題までを整理し、現代社会における報道リテラシーの重要性を考察する。
インタビューは単なる質問と回答のやり取りではない。私は、相手の経験や価値観、企業の戦略や将来像を引き出すコミュニケーションであり、セッションであると考える。この講座ではまず、取材前の下調べの重要性を強調している。
取材対象のホームページや過去記事を読み込み、社長あいさつや沿革、社員数、売上高、取引先などの基本情報を確認する。過去の記事を調べることで、既に報じられている内容と、まだ語られていない内容を把握できる。そこから新しい切り口を見いだし、独自性のある取材につなげるという考え方だ。
実際のインタビューでは、あらかじめ10項目以上の質問を準備する。しかし、それを順番に聞いて終わりではない。回答に応じて追加質問を重ね、内容を掘り下げることが重要になる。「その点について詳しく教えてください」という一言が、本音や背景を引き出すきっかけになる。あとは相手を褒めることだ。
また、経営者取材では現在の事業内容だけでなく、学生時代や創業時の経験など、人物のバックボーンを聞くことも欠かせない。企業の方向性や経営判断の背景には、経営者自身の人生経験が大きく影響しているからである。
私はインタビューの手法は2つのタイプに分類できると思っている。一つは黒柳徹子型である。徹底した事前調査を行い、相手への理解を示しながら話を引き出していくスタイルだ。もう一つは田原総一朗型である。政治や社会問題などに対し、鋭く切り込みながら真相を追究する手法である。
いずれの手法にも共通するのは、一次情報を重視する姿勢である。インターネット上の情報だけでなく、実際に現場へ足を運び、本人から話を聞き、裏付けを取る。この基本動作こそがジャーナリズムの土台となる。
取材対象が企業の場合には、マーケティング視点も重要になる。この講座ではマーケティングの4P理論を紹介している。商品(プロダクト)、価格(プライス)、立地(プレイス)、販売促進(プロモーション)という視点から企業活動を分析し、差別化戦略や顧客満足度向上策、新規顧客開拓策などを聞き出すことで、より深い経営分析が可能になる。
一方で、メディア業界を取り巻く環境は大きく変化している。全国紙各社の発行部数は長期的な減少傾向にある。インターネットの普及により、人々の情報取得行動が変わったためだ。特に若年層では、ニュースだけでなく買い物や映像視聴、音楽鑑賞までネット中心へ移行している。
地方においても状況は同様である。新聞社の支局体制は縮小傾向にあり、限られた人員で取材活動を行うケースが増えている。その一方で、ネットメディアは速報性に優れ、全国や世界へ瞬時に情報を発信できるという強みを持つ。
広告市場の変化も象徴的である。インターネット広告は成長を続け、広告主の予算配分も大きく変化している。メディア企業は従来の紙媒体中心のビジネスモデルから、新たな収益構造への転換を迫られている。
こうした環境変化の中で注目されているのがAIである。生成AIは文章の要約や整理、見出し作成などを短時間で行うことができる。しかし現時点では、現場へ赴いて取材対象と信頼関係を築き、本音を引き出すことはできない。また、誤情報や不正確な内容を生成するリスクも指摘されている。
そのため、AIは記者を完全に代替する存在ではなく、取材活動を支援するツールとして活用される段階にある。特に交通情報や天気情報など定型的な記事作成では効果を発揮する一方、人間同士の対話から生まれる独自情報の価値は依然として高い。

相手からどう本音を引き出すか
ジャーナリズムの本質は権力の監視にある。日本では第二次世界大戦中、大本営発表をそのまま報じたことへの反省から、戦後に報道の自由や知る権利が重視されるようになった。報道機関は行政、立法、司法に続く「第四の権力」とも呼ばれ、社会のチェック機能を担っている。
しかし現代のメディアには課題もある。視聴率やアクセス数を重視するあまり、同じ話題に報道が集中する傾向がある。発表資料を基にした記事は効率的に制作できるが、それだけでは独自性が失われる。
今後求められるのは、発表資料の転載ではなく、現場に足を運び、人と会い、独自情報を掘り起こす取材である。他社が扱わないテーマや地域課題を発掘することが、メディアの存在価値につながる。
最終的にジャーナリズムの質を決めるのは、記者一人一人の人間力である。人脈を築き、専門知識を深め、多様な分野への好奇心を持ち続けることが重要だ。特に地方メディアでは幅広い分野を取材する機会が多く、柔軟な知識と行動力が求められる。
情報があふれる現代社会では、何を信じ、何を疑うのかが問われる。AIやSNSが普及した今だからこそ、新聞や書籍を読み、多様な情報源に接しながら、自ら考える姿勢が重要になっている。インタビュー術は単なる取材技法ではない。人の話を聞き、事実を確認し、社会を理解するための実践的な教養なのである。今こそ、報道リテラシーが必要な時代といえよう。
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(梅川康輝)