【営業の常識を疑え!】 社長!若手の営業が育たないのは、 営業マネージャーの責任ではありません! ~プレイングマネージャーが営業組織を弱体化させる3つの理由~ 長谷川博之(株式会社リンケージM.Iコンサルティング)

こんにちは。営業コンサルタントの長谷川博之です。このたび、にいがた経済新聞で連載を担当させていただくことになりました。私は35年以上、営業の現場に携わり、2001年に独立してからは、中小企業を中心に営業力強化、営業人材育成、営業組織改革のお手伝いをしてきました。
このコラムでは、教科書に書かれている理論だけではなく、実際の営業現場で見て、聞いて、経験してきたことをもとに、経営者や営業マネージャーの皆さんに役立つ情報をお伝えしていきます。
さて、第1回目のテーマは「営業マネージャーと部下育成」です。突然ですが、経営者の皆さんに質問です。
「御社の営業マネージャーは、部下を育てる仕事をしていますか。それとも、自分が売上をつくる仕事に追われていますか?」
この質問に、自信を持って「部下育成です」と答えられる経営者は、どれくらいいるでしょうか。
私がこれまで関わってきた多くの中小企業では、営業マネージャーが自分の営業活動を行いながら、部下のマネジメントも担当しています。
いわゆる「プレイングマネージャー」です。実は、この仕組みこそが、営業マンが育たない大きな原因の一つになっているのです。
なぜ、優秀な営業マンが優秀な営業マネージャーになれないのか?中小企業では、営業成績の良い人が営業マネージャーに昇進するケースが少なくありません。トップセールスマンだから、営業のことをよく知っている。だから部下の指導もできるだろう。経営者はそう考えます。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。「自分が売れる能力」と「部下を売れるように育てる能力」は、まったく別の能力だからです。
例えば、プロ野球の名選手が、必ずしも名監督になるとは限りません。営業も同じです。
自分が商談すれば契約を取れる。しかし、部下に契約を取らせる方法がわからない。そんな営業マネージャーが、現場には数多く存在しています。しかも、彼らの多くは決して怠けているわけではありません。むしろ、誰よりも一生懸命働いているのです。それなのに、なぜ部下が育たないのでしょうか。
私は、大きく3つの理由があると考えています。

理由①自分の営業目標があるから、部下育成が後回しになる
プレイングマネージャーには、自分自身の営業目標が課せられています。
例えば、自分の月間目標が500万円、部下3人の目標がそれぞれ300万円だったとします。月末が近づき、自分の目標達成が危うくなったら、どうなるでしょうか。
当然、自分の商談や見込み客への追客を優先したくなります。
部下から相談されても、
「ごめん、今忙しいから後にしてくれ」
となってしまいます。
さらに厄介なのは、自分が目標を達成していないと、部下に対して強く指導できなくなることです。
「自分だって達成していないのに、部下に目標を達成しろとは言いづらい……」
そんな心理が働きます。
結果として、マネージャーは自分の数字を追いかけ、部下は放置される。
つまり、会社が設定した目標管理の仕組みそのものが、部下育成を妨げている可能性があるのです。
理由②忙しすぎる上司には、部下が相談できない
次に問題となるのが、時間です。
プレイングマネージャーの一日は、本当に忙しい。
自分の営業活動、顧客対応、見積書作成、会議、売上管理、クレーム対応……。
気がつけば、一日が終わっています。
そんな上司の姿を見て、部下はどう感じるでしょうか。
「今、相談したら迷惑かな……」
「また忙しいって言われそうだな……」
「こんなことを聞いたら怒られるかもしれない……」
そう考えるようになります。
そして、次第に相談しなくなるのです。
さらに問題なのは、たまに相談できたとしても、上司に時間的余裕がないことです。
部下が商談について相談すると、
「もっとお客様の話を聞け!」
「提案の仕方が悪いんだよ!」
「とにかく行動量を増やせ!」
こんな抽象的なアドバイスで終わってしまう。
上司としては、短時間で的確な指導をしたつもりかもしれません。
しかし、部下にしてみれば、
「それができないから相談しているのに……」
という気持ちになります。
これが繰り返されると、部下は上司の指導に不信感を抱くようになります。
上司は指導しているつもりでも、部下は何も教えてもらっていないと感じている。
この認識のズレが、営業組織に大きな問題を引き起こすのです。
理由③そもそも、部下の育て方を教わっていない
私は、この3つ目が最も深刻な問題だと考えています。
営業マネージャーの多くは、営業の経験は豊富です。
しかし、部下育成の専門的な教育を受けたことがない人も少なくありません。
商談の進め方は知っている。
クロージングの方法も知っている。
お客様との関係構築も得意。
ところが、それを部下にどう教えればいいのかがわからない。
その結果、どうなるのか。
「俺の商談についてこい。見て覚えろ!」
となります。
まさに、昭和の営業教育です。
もちろん、同行営業そのものが悪いわけではありません。私自身、同行営業は非常に効果的な教育方法だと考えています。
問題は、ただ商談を見せるだけで終わってしまうことです。
何を見てほしいのか。
なぜ、その質問をしたのか。
お客様のどんな反応を見て、提案内容を変えたのか。
こうした営業技術を言語化しなければ、部下は理解できません。
特に、優秀な営業マンほど、経験や感覚で自然に商談を進めていることがあります。
本人にとっては当たり前のことでも、経験の浅い部下にはわからないのです。
営業ができることと、営業を教えられることは違う!
この事実に気づかないまま、営業マネージャーを任せている会社が多いのではないでしょうか。
最も恐ろしいのは、部下が上司の機嫌をうかがい始めること
ここから、さらに深刻な問題が始まります。
営業マネージャーは、自分の目標達成と部下の管理に追われ、心身ともに疲弊していきます。
余裕がなくなれば、部下への言葉もきつくなりがちです。
「何でそんなこともできないんだ!」
「何回同じことを言わせるんだ!」
「もっと考えて行動しろ!」
本人は部下を成長させるために叱っているつもりかもしれません。
しかし、部下の心理は違います。
「今日は上司の機嫌が悪そうだから、報告は明日にしよう」
「失敗したことを話したら怒られそうだ」
「相談するより、自分で何とかした方がいい」
こうして、部下は仕事の成果よりも、上司の機嫌を気にするようになります。
すると、報告・連絡・相談が減っていきます。
商談がうまくいっていないことも、顧客からクレームが発生していることも、上司に伝わるのが遅くなる。
問題が大きくなってから発覚し、上司はさらに怒る。
そして部下は、ますます相談しなくなる。
悪循環です。
最終的には、
「この上司の下では成長できない」
「この会社にいても将来が見えない」
と考える社員が出てきます。
その先に待っているのが、若手社員の離職です。
ここで経営者の皆さんに考えていただきたいことがあります。
「部下が育たないから上司が疲弊する」のではなく、「上司が疲弊する仕組みだから部下が育たない」のではないでしょうか。
営業マネージャーを変える前に、会社の仕組みを変える
では、どうすれば営業マネージャーが部下を育てられるようになるのでしょうか。
「もっと部下の面倒を見ろ!」
「マネージャーなんだから、しっかり指導しろ!」
経営者がいくら発破をかけても、残念ながら問題は解決しません。
なぜなら、営業マネージャー本人の意識だけで解決できる問題ではないからです。
私は、経営者が取り組むべき改革は大きく3つあると考えています。

①営業マネージャーの個人目標を減らし、部下育成を評価する
例えば、営業マネージャー自身に月間500万円の個人売上目標が課せられているとします。
自分の目標を達成できなければ評価が下がる。そうなれば、自分の商談を優先するのも当然でしょう。
そこで、例えば個人目標を500万円から300万円に引き下げ、空いた時間を部下育成に充てるのです。
もちろん、これは一例です。会社の規模や営業体制によって、適切な目標設定は異なります。
また、個人目標を減らした分を、すぐに部下へ上乗せすればよいというものでもありません。育成に必要な期間を考慮し、チーム全体の目標を設計する必要があります。
そして、目標を減らすだけでは不十分です。
評価基準も変える必要があります。
例えば、
・チーム全体の売上・粗利益は伸びているか
・部下それぞれの受注率は改善しているか
・部下が一人で商談を進められるようになったか
・計画的な個別指導が実施されているか
こうした項目をマネージャーの評価に加えます。
重要なのは、「自分がどれだけ売ったか」だけでなく、「部下をどれだけ売れる営業マンに育てたか」を評価することです。
経営者が評価基準を変えれば、営業マネージャーの行動も変わり始めます。
②部下育成の時間を、強制的にスケジュールへ組み込む
営業マネージャーに「時間があるときに部下を指導してください」と伝えても、なかなか実行されません。営業の仕事には、常に緊急の案件が発生するからです。
そこで、部下育成の時間を業務スケジュールに最初から組み込むのです。
例えば、部下が4人いるマネージャーなら、
・毎週月曜日…部下4人と各20分の個別面談(合計80分)
・毎週水曜日…商談のロールプレイング(30分)
・毎週金曜日:失注案件の振り返り(30分)
これだけでも、週140分、約2時間20分の育成時間が確保できます。
ここで大切なのは、個別面談を単なる売上確認にしないことです。
「今月の売上はどうなっている?」
「あと何件受注できそうだ?」
これでは、従来の営業会議と変わりません。
そうではなく、
「今週、最も苦労した商談は?」
「その商談のどこで困った?」
「次回、どうすればうまくいきそう?」
と質問するのです。
例えば、部下がこんな相談をしたとします。
「お客様に見積書を提出したのですが、2週間たっても返事がありません」
ここで、
「そんなの、早く電話して確認しろ!」
と答えてはいけません。
「見積書を提出したとき、お客様と次に連絡する日を決めた?」
「いいえ、決めていません」
「では、次回からは見積書を提出するときに、回答の予定日を確認してみよう」
このように、具体的な改善行動を一緒に考えるのです。
そして翌週、実際に取り組めたか確認する。
これなら、部下は何を改善すればいいのかが明確になります。
さらに、毎日15分程度の相談時間を設けるのも効果的です。
「忙しそうだから相談できない上司」から「相談できる時間が確保されている上司」へ変える。
これだけでも、部下の行動は変わってくるはずです。
ただし、育成時間を確保するためには、経営者がマネージャーの業務を減らすことも必要です。
仕事を減らさずに育成業務だけを追加しては、かえってマネージャーを疲弊させてしまいます。
③「見て覚えろ」をやめて、営業の教え方を統一する
営業マネージャーに必要なのは、営業の技術だけではありません。
部下に営業を教える技術です。
例えば、部下が商談に失敗したとき、
「もっとお客様のニーズを聞き出せ!」
と指導しても、部下は何をすればいいのかわかりません。
そこで、指導を次の5段階に分けます。
「見せる→解説する→練習する→実践する→振り返る」
この5つを教育の基本サイクルにするのです。
例えば、上司が部下を商談に同行させる場合を考えてみましょう。
商談前には、
「今日は、お客様の課題を引き出す質問に注目してほしい」
と伝えます。
商談後には、
「私がお客様に、現在の設備で困っていることを聞いた場面があっただろう。あの質問をしたのはなぜだと思う?」
と確認します。
そして、
「お客様は最初、特に困っていないと話していた。でも、具体的な場面を質問したら、作業効率に問題があることがわかったよね」
と解説します。
さらに、上司がお客様役になり、部下に同じ質問を練習させるのです。
翌週の商談では、その質問を実際に使ってみる。
そして、商談後に結果を振り返ります。
これなら、ただ上司の商談を見ているだけの同行営業とは、学習内容が大きく変わります。
ベテラン営業マンが長年の経験で身につけた技術を、部下が理解できる言葉と行動に置き換える。
これが営業教育です。
営業マネージャーの経験を、個人の財産から会社全体の財産へ変える。
それこそが、営業組織を強くするために必要な改革なのです。
【実例】
営業マネジメントを変えたら、売上が1.5倍になった!

ここで、私が実際にコンサルティングを行った、新潟県内のある商社の事例をご紹介しましょう。
この会社では、営業チームに新たな営業マネジメントを導入しました。
その結果、売上が従来の1.5倍になったのです。
では、何を変えたのでしょうか。
特別な営業手法を導入したわけではありません。
営業マンに「もっと頑張れ!」と発破をかけるような取り組みでもありません。
実施したのは、大きく3つです。
①営業プロセスの見える化
まず、営業活動を数字で把握できるようにしました。
見込み客は何社あるのか。何社と商談し、何社に提案し、何社から受注できたのか。
こうした営業プロセスを明確にすることで、営業マン一人ひとりの課題を把握できるようにしたのです。
売上という結果だけを見ていても、なぜ売れないのかはわかりません。
例えば、商談件数が少ないのか。それとも、商談件数は十分にあるのに、受注率が低いのか。
原因が違えば、対策も変わります。
売上という結果を管理するのではなく、売上につながる営業活動を管理する。
これが第一歩です。
②ロールプレイングと同行営業による商談力強化
次に取り組んだのが、営業マンの商談力強化です。
単に「もっと提案力を高めろ」と指示するのではありません。
実際の商談を想定したロールプレイングや同行営業を通じて、質問の仕方、提案の進め方、クロージングなどを具体的に指導しました。
例えば、
・商談でお客様の課題を十分に聞き出せていないのであれば、その場面を再現して
練習する。
・案後にお客様の反応が悪くなるのであれば、何が問題だったのかを分析する。
重要なのは、営業マンが何を改善すればよいのかを明確にすることです。
「営業は経験を積めば上達する」
確かに、経験は大切です。
しかし、同じ失敗を繰り返しているだけでは、何年営業をしても成長しません。
経験を学習に変えるためには、具体的な指導と練習が必要なのです。
③継続的な振り返りと改善
そして、営業活動を定期的に振り返り、改善につなげるマネジメントを実施しました。
例えば、商談で失注した場合。
「なぜ契約が取れなかったんだ!」
と叱るのではなく、
「お客様が購入をためらった理由は何だったのか?」
「次の商談では、どの質問を変えればよいのか?」
と、具体的な改善策を考えます。
そして、次の商談で実践し、その結果を再び振り返る。
この繰り返しです。
・営業活動を見える化する。
・課題に応じたトレーニングを行う。
・実践した結果を振り返り、改善する。
この3つを実際に導入した結果、この商社では売上が1.5倍になるという成果を上げることができました。
もちろん、同じ取り組みをすれば、すべての企業で売上が1.5倍になるわけではありません。
しかし、私がこの事例でお伝えしたいのは、優秀な営業マン個人の能力だけに依存するのではなく、組織として営業力を高めることの重要性です。
営業マネージャーの仕事は、自分が売上をつくることだけではありません。部下が売れるようになる仕組みをつくることなのです。
まずは3ヶ月、営業マネージャーの仕事を変えてみる
経営者の皆さんに提案があります。
いきなり大がかりな組織改革をする必要はありません。
まずは3ヶ月間、営業マネージャーの仕事の配分を見直し、部下育成の仕組みを導入してみてください。
最初の1ヶ月は、営業マネージャーの業務を洗い出すことから始めます。
・自分の営業活動に何時間使っているのか。
・部下の指導に何時間使っているのか。
・会議や資料作成に、どれくらい時間を取られているのか。
そして、減らせる業務を整理し、週に2〜3時間の育成時間を確保します。
2ヶ月目は、個別面談とロールプレイングを継続し、部下ごとの課題を明確にします。
3ヶ月目には、取り組みの成果を確認します。
具体的には、次の項目です。
・部下からの相談は増えたか
・部下が一人で対応できる商談は増えたか
・部下ごとの受注率は改善しているか
・ロールプレイングや個別面談は計画どおり実施されているか
・営業マネージャーの残業時間や負担は減ったか
もちろん、3ヶ月で売上が劇的に伸びるとは限りません。
しかし、部下が自分で考え、行動し、相談するようになれば、それは営業組織が変わり始めた重要な兆候です。
何より大切なのは、部下育成を営業マネージャー個人の努力に任せず、会社の仕事として位置づけることです。
社長!営業マネージャーを「最も忙しい営業マン」にしていませんか?
最後に、経営者の皆さんにお伝えしたいことがあります。
中小企業において、プレイングマネージャーという仕組みが、必ずしも悪いわけではありません。
限られた人員で売上をつくるためには、マネージャー自身が営業活動を行わなければならない会社もあるでしょう。
しかし、だからといって、部下育成を後回しにしていいわけではありません。
営業マネージャーが一人で月1,000万円売る組織と、5人の部下がそれぞれ月300万円売れる組織。
どちらが将来性のある組織でしょうか。
もちろん、売上だけで単純に比較できるものではありません。
しかし、特定の一人に売上を依存する組織よりも、複数の営業マンが継続的に成果を出せる組織の方が、経営上のリスクを分散できます。
そして、営業マネージャーが自分の売上をつくることに追われ続けていれば、そうした組織はいつまでたっても育ちません。
私は、営業マネージャーの本当の価値は、部下の成長によって測られるべきだと考えています。
そのためには、経営者自身が、営業マネージャーの役割、目標、評価、時間の使い方を見直す必要があるのです。
ここで、一つだけ質問させてください。
「社長!部下を育てろと言いながら、営業マネージャーに、部下を育てる時間も、方法も、評価も与えていないのではありませんか?」
部下が育たないからといって、営業マネージャーを責める前に、まずは会社の仕組みを見直してみてください。
もしかすると、御社の営業マネージャーは、誰よりも頑張っているのに、誰よりも報われていない人なのかもしれません。
営業マネージャーが変われば、部下が変わる。
部下が変われば、営業組織が変わる。
そして、営業組織が変われば、会社の未来が変わります。
この連載を通じて、新潟の中小企業の営業が、もっと強く、もっと楽しく、もっとやりがいのある仕事になるお手伝いができれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【著者プロフィール】
長谷川 博之(はせがわ ひろゆき)
株式会社リンケージM.Iコンサルティング代表取締役。営業コンサルタント。
新潟県三条市出身。営業歴35年以上。2001年に独立後、法人営業・新規開拓営業を中心に、全国の中小企業の営業力強化、営業人材育成、営業組織改革を支援。
創業25年で150業種、1万回以上のコンサルティングと同行営業を実施。
クライアントへの売上貢献額は100億円以上。
机上の理論ではなく、営業同行、商談指導、ロールプレイング、営業目標達成マネジメントなど、現場で成果を生み出す実践型のコンサルティングを得意とする。
「すべての営業マンに成功のチャンスを!」をミッションに、営業を楽しく、やりがいのある仕事へと変える活動を続けている。