【新潟のスゴいメーカー】オンヨネ(長岡市)が拓く「先端衣料」の世界、話題のリカバリーウェアから半導体業界まで

開発拠点となる長岡市のオンヨネ株式会社本社
スキーウェアで培った技術を、健康と安全を支える衣服へ
スキーウェアや登山用ウェアと聞けば、厳しい自然環境から身体を守り、運動時のパフォーマンスを高めるための衣服を想起させられる。しかし、こうしたスポーツ分野で磨かれた技術が、医療や健康、さらには半導体関連企業のユニフォームなど、まったく異なる領域で活用されていることは、意外と知られていない。
その技術を持つ企業が、新潟県長岡市に本社を置くオンヨネ株式会社だ。
1961年、長岡市で恩田米七商店として創業。スキーウェアを中心に事業を展開し、半世紀以上にわたって機能性衣料の開発に取り組んできた。かつては世界的なスキーブランド・SALOMON(フランス)との共同開発実績もある。

かつてはスキーウェアの世界的メーカーとして名を馳せた
現在は主に海外に量産のための生産拠点を置き、開発機能を長岡市本社で賄う「ファブレスメーカー」である。ただ従前のファブレスと違うのは、もともと工場出身であるため、生産管理や品質管理のリソースを持ち、生産現場で縫製指導などを行っている点だ。独自の卓越した技術力は健在だ。
近年では、スポーツウェアにとどまらず、ヘルスケア、メディカル、ワーキングなどへ事業領域を拡大。掲げる開発理念は「運動を科学した行動着」である。
同社のものづくりを理解する上で重要なのは、単に衣服をつくるのではなく、着用する人の身体や活動環境を科学し、その課題を衣服によって解決しようとしている点だ。
極限の環境で鍛えられた機能性衣料の開発力
スキーウェアに求められる性能は多岐にわたる。雪や風から身体を守る防水性、防風性、保温性はもちろん、激しい運動によって発生する熱や汗を適切に処理する透湿性も欠かせない。さらに、身体の動きを妨げない立体的な設計や、長時間の着用に耐える耐久性も必要となる。
こうした要求に応えるには、生地の選定だけでなく、繊維の特性、素材の組み合わせ、縫製、衣服全体の構造に至るまで、総合的な知見が必要だ。
オンヨネは、スキー競技のトップアスリートや各国のナショナルチームとの関係を通じ、実際の競技現場から得られる意見を製品開発に反映してきた。全日本スキー連盟のアルペン日本代表チーム「SNOW JAPAN」のオフィシャルユニフォームを手掛けるなど、その技術力は国内外の競技現場で評価されている。

(画像はオンヨネの公式ホームページより)過酷なコンディション下で光るオンヨネの技術
競技者が求める性能は年々高度化している。わずかな着心地の違いや衣服内の環境が、選手のパフォーマンスを左右することもある。だからこそ、現場の声を拾い、素材や形状を改良し続ける開発姿勢が重要になる。
こうして蓄積された技術とノウハウは、スキーウェアだけにとどまらない。身体の動きや負荷を考慮した衣服づくりは、異なる用途の製品にも応用できるからだ。
リカバリーウェアに見る、新たな成長領域
近年、同社が力を入れている分野の一つが、健康や休養をサポートするリカバリーウェアである。リカバリーウェア自体は、2025年の流行語大賞にもノミネートされ、これをきっかけに広く世間に周知された分野と言っても良い。
オンヨネが生産するリカバリーウェアの中核となるのが、独自の機能性繊維を用いた「A.A.TH(アース)」ブランド。身体から放出される熱や光などに着目し、特殊な加工を施した繊維を衣料に活用する。スポーツ時のコンディショニングだけでなく、休息時の着用も想定した製品開発を進めている。

「着る血行促進」と評されるA.A.TH(R) アース繊維(R) の異形断面糸
リカバリーウェア自体は、2025年の流行語大賞にもノミネートされ、これをきっかけに広く世間に周知された分野と言っても良いが、同社がこの分野に着手した時期はこれにかなり先行している。
同社は2016年から同分野の開発を進め、大学などの研究機関との臨床・検証にも取り組んできた。2020年には医療機器製造販売に関する許可を取得。翌2021年には、アース繊維を使用した医療機器製品の製造販売を開始している。
象徴的な動きが、福岡ソフトバンクホークスの周東佑京選手とのアドバイザリー契約。2026年8月には、同選手とA.A.THブランドの開発スタッフとして契約を締結した。着用者であるトップアスリートの意見を製品開発に生かし、競技中だけでなく、日常のコンディショニングや休息までを視野に入れた商品づくりを目指す。

プレスリリースより
同社はこれまでにも、野球のアンダーウェア「着るエアコン=ハイグレーター」の展開で名だたる一流プロ野球選手とアドバイザリー契約を結んでいる。現在LAドジャースのエースとなった山本由伸のNPB時代や近藤健介(福岡ソフトバンクホークス)、北山亘基(北海道日本ハムファイターズ)などその顔ぶれに圧倒される。野球界にとどまらず一流アスリートとのアドバイザリー契約実績は枚挙にいとまがない。
スポーツウェアメーカーが健康分野に進出する例は珍しくない。しかし、競技現場で培った知見を基礎に、素材開発から身体への作用の検証まで踏み込んでいる点に、オンヨネの特徴がある。
半導体から働く人の安全まで、広がる技術の応用先
同社の技術が活用されているのは、スポーツや健康分野だけではない。半導体関連企業のユニフォームなど、産業分野にも広がっている。
半導体の製造現場では、微細な異物の混入を防ぐための清浄度管理が欠かせない。そこで着用される衣服には、一般的な作業着とは異なる性能が求められる。身体を覆う衣服でありながら、作業者の動きや快適性にも配慮しなければならない。

制限の多い空間においても抜群の機能性を発揮する
また、工場や建設現場などで働く人々にとって、衣服は安全性や作業効率を左右する重要な装備でもある。スポーツウェアで培った動きやすさ、身体への負担軽減、衣服内環境のコントロールといった技術は、こうした現場でも価値を発揮する。
世界的半導体関連企業と共同開発したこのクリーンルームウェアは、2020年にグッドデザイン賞にも輝いている。


企画開発部の岩内部長が手に持っているクリーンルームウェア
同社はワーキング分野でも独自技術を生かした製品開発を進めている。例えば、腰への負担軽減を目指して開発した「肚力VEST」は、健康ビジネス協議会との共同開発による製品で、厚生労働省の2025年度SAFEアワードでブロンズ賞を受賞した。
スポーツ選手のパフォーマンスを高めるために磨いてきた技術が、今度は働く人の身体を守るために生かされている。ここにも、同社の事業展開の方向性が表れている。

建設現場で、オンヨネの「先端衣料」が活躍する
「衣服」の可能性を広げる長岡発の技術企業
アパレル市場は、価格競争や海外生産の拡大など、厳しい事業環境に置かれている。その中で、オンヨネが追求しているのは、単純な衣料品の供給ではなく、機能や付加価値によって選ばれる製品づくりだ。
素材から衣服全体の設計までを考え、用途ごとに異なる課題を解決する。スポーツ、医療、健康、産業と、一見すると接点の少ない市場を結び付けているのは、「人が着るもの」を科学するという一貫した開発思想だと言える。
1961年の創業以来、長岡を拠点に積み重ねてきた機能性衣料の技術。その蓄積は、いまやスキー場や登山のフィールドを越え、日常生活や医療、産業の現場へと広がりつつある。

衣服は、単に身体を覆うものではない。身体を守り、動きを支え、健康や安全にも寄与する可能性を秘めている。
「運動を科学した行動着」を掲げるオンヨネは、衣服の新たな価値を追求する長岡発の技術企業として、その可能性を切り開いている。
2026年には、ワークウェアが新潟県が推進する「Made in 新潟 新技術普及・活用制度」に登録された。もっと地元に認知が高まっているべき、新潟県が誇る企業がここにもある。
(文・伊藤 直樹)