地域建設業の「領域展開」― 廃校利用の「いちご工場」まで手を広げる小野組(胎内市)のハートウォーミング経営

株式会社小野組・小野貴史代表取締役社長

建設業の枠にとどまらない経営

戦後日本の高度成長期、バブルが象徴する日本経済興隆期、平成の大合併などを経て、令和の建設業に求められるものは確実に変化している。特に人口減少が顕著な地方社会では、かつてのように公共工事が潤沢にあるわけではなく民需も伸びない中で、従来の受動的な思想の中で経営を持続していくことは難しくなった。

特に近年の建設業における人手不足、採用難は深刻だ。10年前まではあまり見ることのなかった建設関連企業のテレビCMが、今は頻繁に流れてくる。CMの多くは「道路や橋、ビルをつくっている」建設業はカッコいい、を前面に打ち出した内容だ。建設業の3Kイメージの払しょくに躍起なのだろう。

胎内市の小野組本社

そんな中で、株式会社小野組(新潟県胎内市)のイメージ戦略が面白い。キャッチフレーズに「The Heartwarming Company」と掲げ、企業アイデンティティが「やさしさと思いやりで未来をひらく。」なのである。多くの建設業が「硬質なカッコよさ」を押し出す中で、人としての柔らかさ、やさしさをイメージとして掲げていることが、逆に浮き立って見える。こうした姿勢は採用面でも一定の効果を上げているとみられ、近年の採用は順調だ。

小野組が就活生に人気の理由は、イメージ戦略だけではない。1888年(明治21年)創業の地域建設業にして、近年は廃校跡にLEDを採用した「いちごの栽培」を技術開発、地域建設業における教育機関としての「一般社団法人 和合館工学舎」立ち上げなど、従来の建設業の枠に固執しない自由度も魅力として映っているのではないか。

また、採用だけでなく働き方改革にも早くから着手し、年間休暇枠の拡大や残業減らしなどにも積極的に取り組んだ結果、高い水準で若手が定着(直近2年は新卒定着率100%)となっている。建設業界の中では女性社員の比率も大きく、女性活躍の職場として歩んでいる。

小野組を志望する若者の多くは「建設業」を目指しているのではなく「小野組」という企業へシンパシーを抱く。地域建設業が未来に向けて持続していくにあたり、どうやら小野組の「立ち姿」から得られるヒントは多そうだ。

胎内市の小野組本社を訪問し、小野貴史代表取締役社長に話をうかがった。

小野組は歴史ある地域建設業者で、河川改修や交通インフラ整備をはじめ、港湾護岸工事や治水ダム、ニュータウン開発など社会基盤をつくる事業、公共施設や大型商業施設など建設事業に加えて、JP(日本郵便株式会社)関連の建築事業でも大きく実績を重ねている。

―― 「やさしさと思いやり」を企業アイデンティティとしています。これは小野組に脈々と流れる企業DNAが大きく影響していると感じるのですが、ルーツを教えてください

小野社長 小野家は、このあたりではかなり古い家柄で、平安時代あたりまでさかのぼります。ですから、ほとんど「言い伝え」のような部分も多いのですが、もともとは菅谷(現新発田市)のあたりの庄屋で、旧街道の開拓や治水工事にも携わったらしいです。江戸時代の後半に新田開発の奨励政策があり、農家を営みながら農地開発やそれに伴う土木工事を手掛けてきたと。

建設業をやっていると、様々な土地から労働者が来るのですが、寝泊りするところがないので本家を宿舎として使っていました。鉄道の羽越本線が開通した当時も、町には宿泊施設がなかったので旅館業のようなこともしていたそうです。

そういう意味では、何かを作ったり工事したりという仕事に限定せず、もっと広い意味でその時々の地域課題に向き合うのが建設業の仕事、という思想は創業当時からあったのだと思います。

―― 側面からだと「小野組は建設業の枠にとらわれず新しい経営を行っている」というように見られがちですが、小野組の「地域ソリューション企業」としての歩みを聞けば「目新しさ」ではなさそうですね

小野社長 そうなのですよ。創業当時から精神は変わっていないと思っています。地域に今必要なものをどう提供するか。地域課題というのはなくならないし、むしろ時代とともに増えていきます。これを解決していく上では昔の小野組と変わっていません。「これは地域の発展に使えるかな」という素材があれば仕入れて来て、地域課題に当てはめてみて、使えるか使えないか選ぶのが私たちの仕事です。だからビジネスモデルとは少し違い、もうちょっとシンプルで原始的な「商い」のあり方なのだと思います。

「なにかを作っていればよい、というのが建設業の仕事ではないと思います」と小野社長

LEDを活用したいちご工場

小野組は2013年に、廃校になった小学校跡地を利用し、世界初のLEDによる閉鎖型植物工場でのいちご栽培を開始。100%出資で「いちご工場」を運営する株式会社いちごカンパニーを設立した。現在も、独自開発した特殊LEDによる完全閉鎖型植物工場のノウハウ提供、いちごカンパニーで生産した大きく、甘く、香り高いいちごのブランド展開、最上級のプレミアムいちご「BRIX STRAWBERRY(ブリックスストロベリー)」の販売などを手掛けている。

2017年には奈良県の中村建設株式会社がノウハウを取得し「いちごカンパニー奈良」を設立した。奈良と言えば高市早苗総理のおひざ元だが、日本初の女性宰相は所信表明で「植物工場」による「稼げる農業」の推進に言及している。

2023年には、「まちの駅」が併設されたスイーツショップ『ICHIGO COMPANY SWEETS LAB』(いちごカンパニースイーツラボ)もオープンした。

世界初の閉鎖型いちご栽培室

―― いちごの栽培を始めたきっかけを教えてください

小野社長 これもまた、端緒はやはり地域課題だったのです。

当時、旧黒川村の小学校が統廃合によって廃校になるということがありました。校舎跡地にはその後、自動車関連の塗装工場が進出するという話も出ていたのですが、これに対して地域住民の方が不安を抱いていておられたので、なんとかならないかと。解体するのにもコストがかかりますから。

ちょうどその当時、新潟県では「いちごの栽培を奨励する」という施策が持ち上がっており、胎内でも葉タバコ畑が多く休耕地になっていたものですから、いちごのハウス栽培に転じる農家も出てきたのです。ところがハウス栽培は初期投資がかさむ一方で、奨励品種の「越後姫」は実が柔らかすぎて県外に出荷できない。そのうえ最盛期も短いということで、投資が回収できないためにとん挫する農家が多かったのです。なので校舎を使った植物工場ならできるのではないか、と。

東京の大学にLEDを使った植物工場を研究している教授がいると聞き、会いに行きました。その時点では実用には程遠かったのですが、ヒントは得た。自社でさらに改良を重ねて、いちごの栽培に最適な環境を作り出すことに成功しました。「人が快適に暮らせる環境をつくる」のが私どもの仕事なので、いちごにとってもその考え方は応用できたのです。

―― なにせ世界初の技術です。その後の展開は?

小野社長 当時、東京の表参道にあった新潟県のアンテナショップで販売したところ、飛ぶように売れました。しかしビジネスとしては成立しませんでした。新潟と東京では小売店の事情が違うのです。東京では「欠品こそ悪」というところがあり、新潟のように「売り切りごめん」は通用しないのですよ。前段でふれたとおり、越後姫は実が柔らかくて大量輸送が困難なので、常に売り場にある状態を作るのは難しいのです。

首都圏での販売はいったん撤退して、LED利用でいちごを栽培するシステムを売ることにしました。当初は「採算が合うのか」という懸念もありましたね。しかしある時、米カリフォルニア大学バークレー校の学生が、私たちが開発したシステムを興味を示し「バークレーで発表させてくれ」ということになりました。するとその発表が学長賞を受賞、投資家がついてニュージャージーで事業化することになったのです。

イチゴを使用したスイーツを販売する「スイーツラボ」

建設業の「領域展開」

―― 小野社長が思う、人口減少社会の中で地域建設業が持続していくための必要条件を教えてください

小野社長 建設業は今後、二極化していくでしょう。今後はDX化で小人化、いかに効率的に大量に作業ができるかどうかが競われるでしょうが、その反面で手間暇がかかって、再現性が低くて、希少価値がある仕事はやはり求められると思います。

DX化によって、図面は3D化され、出来上がるスピードも速くなるし、同じような規格のものがどんどん出来上がっていく。それとは逆に、相手に合った、カスタマイズされた仕事はやはり必要とされる。

小野組は、そういった目に見えない価値を追い求めたいという気持ちもありますが、古臭い会社になってもいけないので、学びは大切にしていくべきでしょう。

持続可能な建設業は「領域展開」できる会社

※          ※

小野社長が面白いことを言う。

「私が思う小野組のDX戦略は『デジタル・トランスフォーメーション』ではなく『ドメイン・エクスパンション』(領域展開)です」

何やらマンガ「呪術廻戦」のような話だが、ビジネスの世界にこの「領域展開」を落とし込んだ時に「自らの強みを生かし、自らが優位な状況、自らの世界観の中で戦うこと」をそれとするなら、まさに芯を食っている理論だ。

「地域のソリューション企業として存在する」という「ハートウォーミングな建設業」は、まさに小野組の「領域展開」だと感じる。「やさしさと思いやり」を掲げる建設業者だからこそ、地域課題に向き合い、「気づく」ことができるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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