食と農の未来を切り拓く―― 卒業生が語る「新潟食料農業大学の学び」と「農業現場でのリアルな挑戦」

新潟食料農業大学は2018年4月、地域経済の基盤である「農」、人々の健康を支える「食」、新たな食料産業を創造する「ビジネス」を一体的に学ぶ大学として開学した。フードチェーンをけん引する「食のジェネラリスト」の育成を掲げ、食料産業の現場に人材を送り出している。
2022年3月の第1期卒業生から2026年3月卒業生までの5年間で、卒業者は計639人、就職者は計571人、大学院などへの進学者は計42人となる。各年度の就職率も、2022年3月卒業生98.8%、2023年3月卒業生99.1%、2024年3月卒業生100%、2025年3月卒業生100%、2026年3月卒業生99.3%と高水準で推移している。
卒業生の多くは、フードチェーンに関係する企業やJA、地方自治体などに就職している。一方で、同大学で学んだ知見を携え、就農した卒業生も5年間で63人いるという。
今回は、就農した1期生の2人を招き、同大学の青山浩子教授を交えて対談を企画。若手農業者としての実感、大学での学び、農業現場で直面する課題を率直に語ってもらった。
プロフィール
沖津 和明
1997年10月31日生まれ。神奈川県大和市出身。就農5年目。新潟食料農業大学1期生としてアグリコースで学ぶ。卒業後、家業の農業を母親とともに切り盛りする。農業法人の名称は「OkiVege(オキベジ)」。約2haの農地を耕作し、主に露地野菜を年間50品目栽培している。スーパーや飲食店、学校給食など独自の販路を開拓し、直売を行う。大和市のサツマイモ栽培体験や食育の講師、都内でのコラボイベントなどを通じて、多くの人たちが農業に関われる機会を創出している。

小松 凌
1999年9月1日生まれ。茨城県潮来市出身。就農5年目。新潟食料農業大学1期生としてビジネスコースで学ぶ。卒業後、家業の農業法人・株式会社松稲園に入社した。現在、同法人では約65haの農地で、あきたこまち、コシヒカリ、にじのきらめきなど5品目の水稲を栽培している。JAや集荷業者を通じて米を出荷する。農業用ドローンや自動操縦農機などICTを積極的に導入しながら、大規模経営の効率化を目指している。

聞き手 青山 浩子/新潟食料農業大学教授
愛知県生まれ。筑波大学生命環境科学研究科博士後期課程修了。農学博士。旅行会社や外資系商社を経て、1999年から農業ジャーナリストとして活動。2020年に新潟食料農業大学講師に就任した。農業関連の月刊誌、新聞などに連載多数。著書に『強い農業をつくる』『「農」が変える食ビジネス』(日本経済新聞出版社)、『農産物のダイレクト販売』(共著、ベネット)、『現代農業入門』(共著、家の光協会)などがある。

米どころ新潟で学ぶ、農業の現在地
青山 二人とも、お久しぶりですね。社会人として、とてもたくましい顔になりました。農学系の大学を卒業し、就農する人の割合は全国的に低いなか、本学の卒業生の就農率は比較的高いほうです。二人が新潟食料農業大学に入学したきっかけを教えてください。なにせ1期生ですから、当時はどのような大学なのか、まだ見当もつかなかったはずです。
沖津 私は卒業後に家業の農業を継ぐ意思がありました。米どころとして有名で、国内でも「農業の本場」というイメージがある新潟で学ぶことに魅かれたのが大きかったです。もう一つは、やはり「1期生」になれるという魅力ですね。その年しかチャンスはないわけですから。
小松 私も将来的に米農家をやっていくつもりでいたので、日本一の米どころでもある新潟で学ぶことに魅力を感じました。まだ開学していない大学でしたから、確かに情報は少なかったのですが、不安よりも期待の方が大きかったと思います。ウィンタースポーツも好きだったので、雪国であることも大歓迎でした。
青山 先ほど二人の近況を伺いましたが、とても優秀で、しっかり説明できることに少し感慨深さもあります。大学での学びと、就農してからの農業現場で感じたギャップ、あるいはこの5年間で発見した農業の面白さについて教えてください。
小松 在学中に課外活動などで米作りを学んだのですが、それらはある意味で「丁寧な、理想の農業」でした。いざ農家を本業にしてみると、時間やコストの制約もあり、なかなか理想通りにはいかないものだと感じています。
現在は、この4年間で県内の同業者とも数多く知り合う機会をいただいたので、教えを乞うこともあります。教わることが多過ぎるくらいです。
沖津 就農した時には、すでに父が亡くなっていたため、技術面で直接指導を受けることができませんでした。いきなり実践の場に立つことになり、1年目には防除のタイミングを誤って、冬キャベツを穴だらけにしてしまいました。
学んできたことと実践のギャップは、当然あります。そこで一念発起し、(神奈川県の農業大学校である)かながわ農業アカデミーの技術専修化という社会人コースで1年間リスキリングすることにしました。座学や実習を通じて、栽培技術や農業経営について学び直しました。その1年があったおかげで、県内の農家ともつながりができ、栽培技術の情報交換などを行うようになりました。

学びを広げた、学外ネットワークの力
青山 お二人は、卒業研究ではどのようなテーマに取り組みましたか。
沖津 私は「サツマイモの肥大化」がテーマでした。施肥の仕方(肥料の入れ方)でサツマイモの生育がどう変わるか、という研究です。家業でもサツマイモを栽培していたので、卒業後に家業へ戻った際、役立てられることを期待していました。
実際に現場ですぐに役立ったかと言われると、栽培環境の違いなどもあり、簡単にはいきませんでした。ただ、研究にはかなり集中的に取り組んだので、サツマイモを学び直す機会にはなりました。それが、今取り組んでいる食育の活動にもとても生きています。
あとは、多角的な見方をして物事を考えられるようになったのは、この大学と卒論のおかげです。「なぜこの事象が起きたのか」という理由を、一方向ではなく、さまざまな視点から検証していく姿勢を学びました。
小松 多角的に物事を見られるようになったというのは、確かにあります。それは経営にも生きていて、従業員に対しても一面だけで評価しなくなりました。持ち味は人それぞれですから。
青山 小松さんはドローンの研究でしたね。ご実家の米作りには役立っていますか。
小松 そうですね。ちょうど農業用ドローンがこれから普及するという時期でした。ただ、実家ではすでに導入されていました。大学では「新しい技術が世に出た時、どういう意思決定の下で導入されるのか」ということを学びました。農業用ドローンは、その一つの事例でした。
ただ、ドローンだけでなく、ICTに関しては実家の農業法人でも導入し始めています。ここ1〜2年では、トラクターや田植え機の自動操縦システムです。これは既存の農業機械に後付けするもので、GPS信号によって、畔に沿ってまっすぐ進んでいきます。端まで進んだら人が操縦してUターンしなければなりませんが、常にハンドルを握り続ける必要があるかどうかで、日々の疲労の蓄積はまったく違います。

小松さんが活躍する農業法人では65haの圃場で稲作を行っており、ICT農業も実践されている
沖津 大学で学んだことも多かったのですが、私はむしろ学外のコミュニティでできた人とのつながりから学んだことが多かったように感じています。
2年生の時に新潟市で「G20農業大臣会合」が開かれました。学内でも農業学生ボランティアが募集されており、それに参加した縁で、ある市職員の方と出会いました。その方は、県内まちづくりの分野ではよく知られた方で、地域を盛り上げる活動を積極的に行っていました。とにかく「新潟愛」がすごい方で(笑)。その方との出会いで、卒業後もつながっている地域や人とのご縁、まちづくりへの関心を得ることができました。そして現在は、地元で農家としてまちづくりに携わっています。そうした意味でも、きっかけをくれた大学には感謝しています。
小松 私も学外での人とのつながりは鮮明に覚えています。私の場合は、3年間続いた課外実習で、胎内市坂井集落の米農家さんと一緒に稲作をした経験です。これは沖津君も一緒でした。
この大学には「学外の世界に積極的に触れさせよう」という方針があるようで、とてもありがたいことだと思います。1〜2年生の間は田植え体験などを通じて実践農業に触れてきました。本来は3年時の課外実習で試験的な栽培を行い、その実験結果を地域にフィードバックできれば、いくらかの地域貢献にもなったのですが、残念ながらそのタイミングでコロナ禍になってしまいました。
青山 学外のコミュニティに積極的に関わりを求めることは、学びも多いと思います。残念ながら最近の学生を見ていると、外に出ていく人が少なくなったように感じます。不安が先に立つのかなと思うのですが、一歩踏み出すきっかけは、どのようにすれば得られるのでしょうか。
小松 私が坂井地区の課外活動に参加したのは、題材が米作りだったからというのもあります。どれだけ興味を持てるか、ですよね。自分で「面白がれる」ことが大切だと思います。この大学は、学外との連携事業や地域連携も多いので、機会には恵まれていると思います。
沖津 今の学生たちは、他人と比較して無意識のうちに高いゴール設定や行動のハードルを自分自身で上げてしまっているのかもしれません。学外の活動を始めることを、そこまで難しく考えなくてもよいのではないでしょうか。
農業経営の課題に、大学での学びを生かす
青山 5年間で571人の卒業生が就職しており、そのうち就農者が63人います。二人のように家業を継いだ人が20人で、ほかは雇用就農、数は少ないですが新規独立就農もいます。改めて見ると、一定の割合で就農者がいるのだと再認識しました。
一方で、農業の後継者不足は深刻な課題です。原因の一つは、農業法人の新卒募集の時期が一般企業より遅い点です。一般企業の就職活動が先に始まり、内々定が出てしまうため、農業法人が募集を始める頃には、すでに進路を決めている学生が多いという事情があります。もう一つは、やはり「稼げない」「休みが少ない」というイメージが定着してしまっていることです。そのあたりはいかがですか。

「ビジネスの視点はもちろん大事だが、数字に換算できない農業の喜びこそが、持続的な農業を育てていくのでは」と青山教授
小松 農業は、稼ごうと思ったら、それこそ「やれば、やっただけ」だと思います。確かに、どうしても休めない期間はありますが、それはあくまで経営する側の話で、雇用される立場であれば話は別です。しっかり休みは確保しています。給与面でも、時給換算した時に他の業種と同水準では来てもらえないので、それなりに高い給料を払っています。
農業で休みを確保し、収益を上げるには、突き詰めれば規模拡大と集約化が必要です。ただし、これは自助努力だけではどうにもならないところもあります。
沖津 うちは個人事業主なので、また事情が違います。販路が広がれば、それこそ「やれば、やっただけ」に近いリターンはあります。ただ、収入はどうしても天候に左右される面が大きい。少量多品目栽培でやっているので、全体量でカバーできないところもあります。だからこそ、単価を上げるための付加価値化を考えなければなりません。
付加価値を考えるうえで大事なのが、「その人が作った野菜だから買いたい」と思ってもらうファンマーケティングです。地域の人たちにとっての「推し農家」になることを目指しています。そのためには、自分がやっている仕事の「見える化」も必要です。
これは、実は農繁期の人手不足対策にもなり得るのではないかと考えています。今取り組んでいる食育などの地域活動を通じて、農業や食に関心のある方々にボランティアなどで農作業に関わってもらうことができます。農業の「関わりしろ」を増やすのです。畑の仕事は、われわれ農家にとっては当たり前の日常でも、消費者にとっては非日常だったりします。そこがひとつの付加価値になると考えると、消費者と距離の近い都市農業だからこそ、生きてくると思います。

「消費者との距離を縮め、農業への『関わりしろ』をつくりたい」と沖津さん
青山 二人とも、農業をビジネスとして捉えながらも、地域を支えていこうという意識も確立していて感心しました。確かにビジネスの視点は必要です。しかし、ただ「儲けよう」を原点にすると、見失うものも多い。持続的な農業を実現するには、お金だけではない「得られるもの」を追求し、結果的に経営の持続性につなげていく考え方が大事なのだと思います。
沖津 同じことを、アグリコースの先生にも言われたのを思い出しました(笑)。無理にビジネス一辺倒に考える必要はない、と。「儲かるから」という理由が先行して農業を志す人は、あまりいないと思いますが。
青山 最後に、卒業生の二人から、新潟食料農業大学への進学を考えている人にメッセージをお願いします。
小松 「大学でこれを学んで、こういう道に進みたい」ということが、まだ決まっていない人にこそ、特にすすめたい大学です。これほど学びのジャンルの「振り幅」が大きい大学は、なかなかありません。学外活動へのサポートも手厚い大学です。
沖津 広い分野を見ながら、専門性を極められるのがこの大学の魅力です。迷いの中での出会いや気づきもありますし、回り道もありますが、そこにまた魅力がある大学だと思います。
青山 学生時代を有意義に過ごしてきた二人だからこそ、この5年間で大きく成長されたことを強く感じます。プロの農業者として地域や消費者と向き合い、とても良い仕事をされていますね。大学での学びが、それぞれの現場で確かに生きているのだと思います。
