【特集】令和のオフィスは「働く場」から「働きたい場」へ。エンゲージメントと健康経営から、今、新潟で求められる職場環境を考える
株式会社新潟ヒロタカデザイン事務所 土田隆太郎代表取締役社長 × 株式会社アイセック・木村大地代表取締役CEO クロストーク

対談する土田社長(写真左)と木村CEO(写真右)
労働人口の減少が続く時代に、企業は「人」をどう守り、活かしていくのか。新潟県では若者の県外流出も長く続いている。
そんな時代背景のなか、いま注目されているのが「オフィス環境」と「健康経営」を掛け合わせた経営戦略だ。ただおしゃれな空間をつくるのではなく、社員が生き生きと働き、生産性を高め、結果として企業の競争力につながるオフィスとは何か。
空間デザインで多くの実績を持つ新潟ヒロタカデザイン事務所・土田隆太郎代表取締役社長と、県内外の企業の健康経営を支援する株式会社アイセック・木村大地代表取締役CEOが対談。新潟の企業が抱える課題を起点に、令和のオフィスに求められる視点を語り合った。
昭和・平成・令和。オフィスに求められるものは、変わり続ける
――オフィスは、時代とともにどう変わってきたのでしょうか。
木村
日本の産業構造とオフィス環境の歴史には、フェーズが3つあります。最初のフェーズは、農業中心社会から富国強兵のもとで産業化が進み、軽工業から重化学工業化が進んだ産業の時代で、炭鉱の労働災害や、結核などの感染拡大などが大きな課題でした。それを防ぐために法律が整備され、健康で安全に働ける環境をつくり始めたのが、日本の労働法制のスタートです。
次のフェーズは、戦後の高度成長期において、大きな工場に大勢の人が集まって労働安全法制度のもと、産業が発達し、日本は労働人口も豊富でしたから、健康で安全に働くことを重視した時代です。多くの企業にとって、オフィスは「人を集めて、安全に働かせる場所」で十分機能していました。
そして3つ目が、今の令和のフェーズにいたるまでです。労働人口が急速に激減する局面に入り、多様な働き方が進展し、今いる人がより生き生きと、生産性高く働ける環境が必要になってきました。男女雇用機会均等法、育児介護休業法、働き方改革関連法など、国もワークライフバランスを重視しながら、生産性を上げるために、人への投資や健康づくりを先に進めていこうという方針を打ち出しています。
土田
新潟は特に少子高齢化に加えて若者の流出もありますので大切なことですよね。だからこそ、私たちに出来ることを真剣に考えていかなければならないと思っています。
オフィス環境においてもエンゲージメントを高めるオフィス作りが重要で、エンゲージメントが高まれば、社内のコミュニケーションが促進され、帰属意識も育つ。採用面での効果や、離職率の低下にもつながる。昭和感漂うようなオフィスや見た目がおしゃれなだけのオフィスではなく、人に優しく、人に影響を与える側面を持っていることが大事だということです。そのためにはデザインだけではなく、仕掛けづくりも必要になっています。

新潟の企業が直面する人手不足を背景に、空間デザインと健康経営の融合をテーマに対談
木村
土田社長がいう仕掛けづくりという面で、働く環境の研究も進んできています。空間に緑が入るだけで従業員のストレスが軽減され、モチベーションや生産性が向上するという研究結果もあります。世界的に権威のある医学誌の論文でも、働く環境の改善が従業員の健康とパフォーマンスを高めることが医学的に示されています。そうしたエビデンスがようやく蓄積されてきたのが、現時点なんですよね。
土田
デザインというと、少し構えてしまう方もいるかもしれませんが、空間に緑が入るといったこともデザインの一つです。室内の空間がどうデザインされているかで、人のコンディションは大きく変わってきますし、実は人間はデザインから、思っている以上に影響を受けているんですよね。
オフィスは、社内で勤務している人にとって1日8時間以上を過ごす空間です。出社時のコンディションは人それぞれで、疲れ具合も違う。だからこそ、さまざまな状況に応じてストレスを軽減するデザインが必要だと考えています。植栽グリーンを適材適所に程よく設置するだけでも、ストレス軽減やコミュニケーション促進の効果が実際にあります。ただ箱をつくるのではなく、考え抜かれた形に整えることで、人に見えない効果が得られる。これがデザインの力だと思っています。
木村
そうですね。まさに「安全に働ければいい」という時代から、誰もが「生き生き働ける環境」へ、オフィスに求められるものが変わってきました。だからこそ、空間デザインと健康経営を結び付けて考える必要が出てきたというわけです。
仕掛けで人は変わる。生産性と健康投資の見える化
――新潟ヒロタカデザイン事務所は、数年前に自社オフィスをリノベーションしました。
土田
以前の社内環境は、お恥ずかしながらスチール什器に囲まれた、まさに昭和型のオフィスでした。社員にとって決して良い環境とは言えず、ちょうど働き方改革の時期と重なったこともあり、「人に優しく、生産性を高めるオフィスとは何か」を研究し、環境改善に取り組むことを決意しました。
まずは東京の先進企業やオフィス機器メーカーを訪問し、多くのオフィスを見学することからスタートしました。さらに、さまざまな企業の働く環境を視察し、数多くのセミナーやデータを読み解く中で、現代のオフィスにおける「良い・悪い」を判断する独自の基準を構築していきました。
その基準は、デザイン性や流行ではなく、エンゲージメントの向上や生産性の向上、コミュニケーションの活性化、健康経営の推進など、エビデンスやデータに基づいた“令和時代に求められるオフィス”の要素が備わっているかどうかという視点です。私たちはそうした知識を学ぶだけでなく、自ら実践者として自社オフィスの改善を繰り返し、その効果を検証してきました。

新潟ヒロタカデザイン事務所のリノベーション事例
――改装後、社員の方々にはどんな変化がありましたか。
土田
些細なことなのですが、挨拶の声が明らかに変わりました。それまでは、スタッフの小さな声の挨拶から「今日も会社来るのダルいな……」という空気が伝わってくるような感じでした(笑)。それが、オフィスを改装してから、事務所の奥まで届く声が増えて、社内の雰囲気が明るくなりました。気付いている人と気付いていない人がいると思いますが、会社へ出社することはもちろん、仕事への向き合い方も変わったと感じています。
そのため、現在ご提案しているオフィスづくりは、多くの企業視察や研究から得た知見に加え、自社での運用・改善を通じて培ってきた経験とノウハウを活かしたものです。机上の理論だけではなく、実際に働く人の変化や成果を見ながら積み上げてきた知見を、お客様のオフィスづくりにも反映しています。
――木村さんから見て、健康経営の進んだ企業ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
木村
都内を中心に健康経営を推進する一つの施策として、スタンディングデスクの導入が進んでいます。スタンディングデスクは、長時間椅子に座っていると死亡リスクや生活習慣病リスクが高まることから、自然と意図的に立たせる設計にしているものです。座らせないための仕組みですね。

スタンディングデスクや健康階段など、木村CEOが先進企業の事例を紹介した
土田
そうですね。どのようなオフィス什器を入れるのかで健康や効率にも大きく影響してきますからね。スタンディングデスクは新潟でも取り入れている企業はあるのですか?
木村
積極的に取り入れているという話は、まだあまり聞かないですね。県内のある製造業の企業では、社長自らスタンディングデスクを使用し、人間工学的に椅子もこうした方がいいと考えている方はいました。ですが、このような健康に配慮した環境の仕組みづくりは、空間や家具などの専門家がデザインも含めてサポートすることが重要と、私は考えています。
他にも面白い事例では、廊下のデザインもあります。航空会社では飛行機のマーク、動物がマスコットキャラクターになっている大手生活用品メーカーでは動物の足跡が、それぞれの廊下の床に描かれています。身長に合わせた歩幅の場所に、飛行機や動物の足跡のマークが描かれているのですが、人は自然とそのマークに歩幅を合わせようとして、いつもより歩幅が自然と大きくなり、足腰の筋力アップや運動効果を狙えるというわけです。
健康経営が始まった2013年ごろに話題になった事例では、某電設会社の「健康階段」がありました。普通の「階段」の表示の前に「健康」と二文字加えるだけで、社員がエレベーターではなく階段を使うようになったといいます。階段昇降による消費カロリー値も階段に表記することで、短時間の運動が健康増進につながるという意識づけになるわけです。お金をかけなくても、いかに自然と健康行動に促すか。多くの事例をマネするだけでも環境づくりはできる好事例ですね。
土田
行動心理学を使った仕掛けですね。ちょっとした行動を後押しする「ナッジ」というものでしょうか。仕掛けづくりは本当に重要だと感じます。

新潟ヒロタカデザイン事務所のオフィスリノベーション事例。エントランス部分はグリーンを多く取り入れた某社。改修前は硬い雰囲気だったのが、明るく柔らかい雰囲気に
木村
もう一つ大切なのが「見える化」です。年に一度の健康診断やストレスチェックに加えて、ワークエンゲージメントや労働生産性が今どれくらいかを数値で把握できる時代になってきました。
ある建設会社では、 社員に『この30日間で健康に起因してパフォーマンスが落ちた日はありましたか』と労働生産性を尋ねる「プレゼンティーズム」という健康経営に関する設問項目を使って調査を実施したところ、感染症・睡眠・腰痛・メンタルが上位の課題として浮かび上がってきました。
それを踏まえて環境改善や健康教育研修を行ったところ、翌年は睡眠の順位が大きく改善し、貨幣換算された労働生産性損失額も大幅に減少したんです。その後、この会社は「設備投資も重要だが、より一層健康へ投資する」という判断で、健康経営の専門部署を立ち上げ、徹底した 健康施策と評価改善を推進しています。
土田
パフォーマンスという点でいうと、照明や自然光も大きな要素ですね。昼白色、蛍光色、暖色系と色温度によって人に与える影響は違いますし、外の自然光が見えるかどうかも非常に重要です。朝の青みがかった光、昼の白い光、夕方の暖色という日差しの変化が目に入ることで、人間の体内リズムは整います。一日中カーテンを閉めて電気だけで仕事をしている会社は体内時計が狂いやすく、十分な睡眠が取れないことで日中のパフォーマンスが落ちてしまうといわれています。
私たちが手がけるオフィスでも、外光をどう取り入れるかは大きなテーマです。仕事柄どうしても暗い環境が必要な業務もありますが、その場合はリフレッシュできる空間を別に設けて、休憩エリアに外光を取り入れるというだけでも違ってきますからね。
新潟の10年後を見据えて、今、オフィスに投資する意味
――採用や離職率の課題に、オフィス環境はどう関わってくると考えますか。
木村
求職者が企業を選ぶ条件は、一番が労働条件、二番が人、三番がオフィス環境と言う調査もあります。当社がお手伝いしているのは三番のオフィス環境以外の部分ですが、オフィスや工場などの環境は人が働く場でもあります。その場に安心感や癒しやエンゲージメントを高める要素があると、社内で働く人たちの健康度も高まります。
エンゲージメントの高い社員が多い会社には活気があり、面接でも求職者が「この会社の人たちはいい人たちだな」と感じやすい。つまり、オフィス環境は三番目の条件でありながら、二番目の「人(健康)」とも密接につながっているというわけです。求職者の意識調査では、約7割が企業選びでオフィス環境を重視しているという結果も出ているそうです。
土田
私たちはデザインでオフィス環境づくりをお手伝いしていますが、デザインというと「尖ったかっこいいもの」というイメージを持たれがちなんです。本来は「こうしたい」という思いを形にする作業で、デザインが人の心理や行動に大きく影響するという点が軽視されているようにも感じています。
世の中の家づくりにおいても「普通でいいです」「リビングにこだわりはないです」とおっしゃる方が非常に多いです。それはそれで一つの考え方ですが、デザインは心理面に多大なる影響を与えているということに、ぜひ着目してもらいたいですね。
デザインは空間における課題解決の大切な要素ですから、オフィスのリノベーションに関しても「全て任せるよ」ではなく「こういう部分を解決していきたい」「生産性向上を目指したい」など、要望はぜひとも伝えていただきたいです。
――オフィスリノベーションに関して、お二人で新たな取り組みも始まっているそうですね。
土田
健康経営を専門とする木村さんと、新しいことをやっていこう、令和に求められるオフィスを共に考えていこうという話になっています。新潟は少子高齢化に加えて、若者の県外流出が全国でも上位に入る県です。このまま先細りさせるわけにはいきません。
私たちが仕事を通じて新潟に貢献できることは何だろうと考えたとき、木村さんとは共通点がとても多かったんです。当社のデザインのノウハウと、木村さんの持つ健康データを掛け合わせると、これまでにないオフィス環境ができて、新潟が活性化するんじゃないかと。新潟を盛り上げたいという思いで意気投合して、両者の観点を取り入れたオフィス構想を提案していくことになりました。

両社が共同で取り組む新潟発のオフィスモデル構想についても語られた
木村
オフィス環境はもう新しい時代に入っています。安全に健康に働ければよかった時代から、生産性を高め、生き生きと働ける環境をつくる時代へと移り変わっています。ただ、その「新しい働く環境」にはまだ歴史がないため、最適解が少ないのも事実です。だからこそ、新潟県内の企業で実践し、効果を検証して一つのロールモデルを作っていきたいと考えています。
10年後、20年後の新潟を見据えると、のんびり考えている時間はありません。人手不足は、今後さらに厳しくなります。子どもたちの世代に安心して働き人生を楽しめる地域を引き継いでいくためにも、いま積極的に投資することが必要なのではないでしょうか。オフィス改善と健康経営の二つを掛け合わせて、その効果を加速させていきたいですね。
土田
読者の皆さんにも、まずは自社のオフィスを少し違う視点で見つめ直すことから始めてほしいです。緑を一つ置く、外光を取り入れる、それだけでも社員のコンディションや社内の空気は少しずつ、確実に変わってきます。
ただオフィスを改装するだけではなく、健康経営と組み合わせて考えることは、働く人を大切にするということです。より生き生きと働ける環境が生まれますし、働く人の「働きたい」というモチベーションアップや、リクルート効果にもつながっていくことでしょう。「働きたい」と思える環境について考えることは、会社にとっても新潟という地域にとっても、欠かせない視点だと思います。当社でオフィス見学も行っていますので、ぜひ気軽にお問い合わせてください。
【プロフィール】
土田 隆太郎さん
株式会社新潟ヒロタカデザイン事務所 代表取締役社長。1968年(昭和43年)創業、半世紀以上にわたり「本物のデザイン」を追求してきた建築デザイン事務所を率いる三代目。2001年入社、2013年に社長就任。商業施設・医療施設・オフィス・住宅の設計施工監理を手掛け、近年は耐震等級3を標準とする住宅事業やオフィス事業にも注力。「100年後の新潟を豊かにする」をビジョンに掲げ、地域社会の発展に寄与するデザインを創造し続けている。
https://www.n-hirotaka.com/
木村 大地さん
新潟大学発ベンチャー認定企業第1号でもある株式会社アイセック代表取締役CEO。2019年設立以来、健康診断データやストレスチェック、労働生産性やワークエンゲージメント指標など多様なデータを活用し、県内外の企業における健康経営推進を支援。新潟県「にいがた健康経営推進企業」の制度運営事務局も担い、産官学連携モデルで健康データを科学し、「新潟県民が世界一健康なまち」を実現するビジョンを掲げている。
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